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俺の異世界転生が完全にやっている件  作者: 箸乃やすめ
二章 俺の異世界転生は前途多難
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静まり返った夜に


チョキチョキチョキチョキ…。


静まり返っている夜の店内に、鋏の音のみが響き渡る。


その鋏を操るミントちゃんは、今まで見せたことのない真剣な表情を浮かべ、少年の散髪に集中している様子である。

一方で少年の方も、その状況を黙って受け入れるように、ただ静かに目を瞑っているようだった。


そんな状況で、ここにいること自体が完全に場違いな事を自覚していた俺は、それでも少年に対して口を開くことを決めていた。


「…今日の事なんだが、完全に俺が悪かった。お前の気持ちも考えず、軽率な行動に出てしまったことを許してほしい」


俺は少年の前に位置し、自分の中での精一杯の誠意をみせるよう頭を下げた。


「…」


少年の表情は、全くといった具合に変わることはない。

また、閉じた目を開くこともなく、果たして話を聞いているかも分からない様子だった。

そんな少年の様子に、俺は次にどういった言葉をかければいいのか、正直迷ってしまっていた。


そうやって少し時間が経過した後のこと。

少年は目を瞑ったまま、顔を背けるようにして小さく呟いた。


「…別に、気にしてない」


「ダメ!じっとしてて!!」


「は、はい!!」


突然のミントちゃんのあまりの迫力に、少年は驚いてしまったのか、敬語で返事をしてしまう。


「……」


再び目を閉じてしまった少年の頬は、ほんのりと赤らんでおり、よほど恥ずかしい思いをしたのだろうと容易に想像できた。

その事で、このまま俺がここにいても少年にとって邪魔にしかならないと判断した俺は、早々に撤退を決断する。


「じゃあ俺はこのへんで失礼するよ。時間取らせて悪かったな。二人共、おやすみ。明日も早いし、あんまり遅くならないようにな」


それだけ言い残して、この場を去ろうと階段を登りかけていた俺であったが、そこでようやく大事な忘れものがあったことに気づく。


「っと、そうだそうだ」


そんな事を呟いて、テーブルの上に置いておいたcampesのノートと、PkLOTのシャーペン、monaの消しゴムを回収する俺。


これら違和感丸出しのセットが何故こんなところにあるのかというと、それを知るには事を数日前に遡る必要がある。


それはここでの生活が始まって、まだ間もないある朝の事。


いつものように何気なく起きてみると、自室のテーブルに山程のノート、ペン、消しゴムが置かれているのに気がついた。

そのありえない光景に暫し呆然とした俺は、そこに小さなメモが添えられているのを発見した。


『きっとここで役に立つものじゃから、この超絶有能な神に感謝して、涙を流しながら使うといい。by 麗しのとある神様』


クソ生意気な文面に素直に喜びたくない俺であったが、あの神さんにしては役に立つこともあるもんだと関心したものだった。


この世界でのこうした紙や筆は、向こうの世界のように容易に手に入る消耗品では決してない。

むしろ、ある程度の身分や金がないと手に入らない、貴重品の部類にあたるものである。

なにより、この手の道具をうちの店の誰かが使っているのをみたことがないのが、何よりの証拠だった。


まあ幸いにも、ここの従業員は俺を除く全ての人物が有能であった為、ピーク時の注文や会計に関しても、全て一度聴いただけで頭の中で処理しているようだった。

いや、みんな凄すぎてむしろ引く思いがしている俺である。


何はともあれ、そんな貴重な品をさっそく有効活用しなければと考えた俺は、最初の用途としてここでの仕事内容を一から記載することにしたのだった。


現在テーブルの上に置いてあるノートは、そんな俺の書き上げた品である。


さて、ではそのノートを使って俺がこれから行う行動は、果たして少年にどう受け止められるのか。

そんな事は神のみぞ知るといったところだろう。


「何度もすまんな」


俺はもう一度少年の前に戻り、視線の高さを合わせるようにして、声をかけた。


「…」


そんな様子に気づいた少年は、今度は目を開けてくれたようで、こちらに視線だけを向けてくる。


「えーと、実はな…。これなんだけどさ」


俺は少年の前に、先程のノートを取り出して見せるようにする。


「ここでの仕事内容と取り組み方、あとはまあ、自分なりに色々と効率化できる部分についての考察もまとめてある。お世辞にも人様に見せられるものではないかもしれん。字も汚いしな」


「…」


「そこで、お前に頼みがある。これを読んで、率直に感想を聞きたいんだ。ちょうど同じド新人として、自分としても抜けている基礎をもう一度洗い出したいところでな。厨房もクビにされかかったわけだし、ミントちゃんの助け船がなかったら、俺は今頃役立たずの用済みだった。つーわけで、なにがあっても万全の状態にしておきたい」


「なんで俺が、そんなこと…」


この少年がスラム街の出身であろう事は、何となく想像がついていた。

その為、そもそも文字が読めるのかといった問題は確かに存在している。


だが不思議なことに、この少年の粗暴ではあってもどこか気品が感じられるその言葉や仕草の節々から、そこについても心配はいらないのではないかと、勝手に感じていた。


「まあ、無理にとは言わない。ここに置いておくから、読むも読まないもお前の好きにしてくれていい。……とにかく遅くに時間を取らせてほんと悪かったな。言いたいことはそれだけだ。今度こそ本当に消えるから、心配しないでくれ。それじゃ」


それだけ言い残して、今度こそ自室へとそそくさと戻った俺なのであった。


「…ったく。てめえの言いたいことだけ言って、消えやがってよ」


「ソラさんって、優しい人だよね。きっと仲直りしたくて降りてきたんだと思うよ?」


「ふん。たかだかあんなことを気にするなんて、男のくせになっちゃいねえな」


「あはは。なにそれ」


酷く冷たい夜の寒さの中にあって、二人の間に流れる温度は、柔らかく温かなものであったのだった。

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