とある少年の憂鬱
俺は次々と運び込まれてくる皿などの食器類を、黙々と処理しながら呟いていた。
「……クソッ」
何故こんな事になってしまったのか。
今更ながら、俺は自分の行いに激しく後悔していた。
どうやらこの店はかなりの繁盛店らしく、特に現在のような夕食時には腹を空かせた客は勿論のこと、酒を注文する客も増えているようである。
その証拠に、永遠に終わらないのではないかと疑いたくなる程、食器などを運んでは洗って拭く作業を繰り返していた。
「いやー、こいつはかなりやべぇ仕事だな。その分、腕がなるってもんだ」
一緒になって雑用をこなしていたラルが、そんな事をほざく。
「ケッ。言っとくが、俺はまだ納得したわけじゃねーからな」
「なんだ、まだそんなこと言ってんのか。もういい加減諦めろってー」
こいつは何が楽しいのか、微笑を浮かべている。
考えてみるとこいつには調子を狂わされてばかりだった。
しかし、こんなことになった原因は、俺が愚かしくもタダで飯を喰えるという甘い誘惑に負けてしまったせいではある。
その為、ラルを責めるというのも筋違いな事も理解していた。
だが、時には頭では理解していても、単純に理屈で割り切れない事があるものだ。
〜〜
「はあぁああああああ?!」
俺は人目など全くもって憚らず、思い切り不満をぶちまけていた。
ここまでの話の展開から、どう考えてもラル自身がここで働くという流れになっていたはずだ。
しかしどうやらそれは俺の全くの勘違いであり、その当事者こそが俺に他ならないという話らしい。
頭に血が昇った俺は、勢いそのままに感情を吐露し続けていた。
「おいこらふざけんな!何がどうなってそうなる!?」
「ん?なんだお前、俺の話聞いてなかったのかよ。ったく、しょうがねえなー。まあ、後でもっかい説明してやるから安心しろよ。あと、俺も自分で食った分はきっちり働いて返すつもりだから、一緒に頑張ろーぜ!」
「いやまて!話を進めようとするんじゃねえ!?てか、アンタらはそれで本当にいいのかよ!?」
助けを求めるように店主と経営責任者らしい娘に視線を向ける。
それを受けて、店主が口を開く。
しかしその顔にはやはり驚きが滲み出ており、動揺を隠せていなかった。
「確かに、ラルならまだしも見ず知らずのこいつを雇うとなれば…」
「…お父さん?」
店主の娘が、静かに口を挟む。
その顔には笑顔が貼り付いているだけで、これ以上話をさせる気は一切ないという明確な意思を感じさせた。
「…もちろん採用だ」
「おいいいいいいいいいい?!」
俺は店主の話の前後の文脈が、あまりにも崩壊し過ぎていたことに、さらに醜態を晒してしまっていたのだった。
~~
そして現在。
あの時の一時的な抵抗も虚しく、せめて食べた分の金を返済するという目的の為、仕方なくこんなことに付き合っていた俺だった。
そんな俺たち二人に、ソラと呼ばれるここの従業員の男が声をかけてきた。
「おーおー。やっているな新人共」
「おっ、ソラ兄ちゃん。なんだよ暇してんのかよ」
「うるせーぞラル。こっちはこっちで死ぬ程大変だったっつーの。おっさんと二人で何皿料理したことか。今は少し余裕ができたから、お前らの様子でも見てこいと仰せつかったのさ」
ラルと会話しているようだが、俺はそんなことは無視するかのように皿洗いを続けていた。
「おーい、そこの新人君」
「……」
なにやら俺に話しかけている気がするが、無視だ無視。
こいつは虫だ虫。
などと、頭の中で自分に言い聞かせる。
「ラル。俺ってば嫌われてるのかな」
「ははは。大丈夫だってソラ兄ちゃん。こいついつもこんな感じだしよ」
「うーん、しかしなぁ。これから一緒にやっていく仲間なわけだし…」
…仲間?
こいつは今そんな薄ら寒いことを言いやがったのか。
そんなものはまやかしだ。
人間など皆、結局自分が可愛いだけではないか。
「やっぱり駄目だ。ちゃんとお互い顔合わせるだけでもしとかないと。おいちょっとこっちをだな…」
次の瞬間、その男は俺の肩に手をかけた。
その事実を頭が理解した瞬間、ぞわっとしたおぞましさが全身を巡る。
咄嗟に身を翻した俺は、拒絶反応を隠すこともなくぶちまけていた。
「ーー俺に触るんじゃねえ!!」
その場がまるで凍りついたかのように、静まり返っていた。




