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俺の異世界転生が完全にやっている件  作者: 箸乃やすめ
二章 俺の異世界転生は前途多難
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新しい生活


あれから早いもので2週間程が経過していた。


宿り木亭は、本来の宿泊サービスはもちろん、昼は定食屋、ランチタイム後は喫茶店、夜は定食屋兼居酒屋と、幅広く営業を展開している。


そういった日夜問わない営業スタイルには山のような雑務が付きまとう訳で、当然のごとく俺みたいな新米には山のように覚えることがあるわけだ。

とにかく一つ一つの仕事を頭に入れ、実践的に身につけていくことで、あっという間に日々が過ぎ去っていった。


ふと、ある時定休日などはどうなっているのかと考え、聞いてみたことがある。

そこで返ってきたのはオッサンのこんな台詞だった。


「そんなもんねぇよ。しいて言えば、俺が外せねぇ用事があったり、身体を壊した時が休みってとこだな」


つまり、ほぼ年中無休。

しかも俺たちが来るまでは、店主のオッサンとその娘であるミントちゃんだけで店を切り盛りしていたというから驚きだ。


しかしながら、さすがに2人ではさばき切れる客も限界があったようで、オッサンとしても人を雇うという決断に至ったということらしい。

結果として、そこに上手く嵌まる事で働かせてもらえる事になった訳で、これは本当に運が良かったと言わざる負えない。


なにせ異世界転生してきた身である。

この世界で生き抜く土台を得た今、そう簡単に手放すわけにはいかない。

下手をすると、ここまでで野垂れ死んでいた可能性の方が高かったような状況の中で、

職にありつけた上に、衣食住が整っているとなれば何も言うことはなかった。


そんなわけで、今日も今日とて精一杯労働に勤しむ俺なのである。



「うおおおおおおおおおお!心を燃やせ!」


俺はその手で鍋を振るいながら、一瞬一瞬にすべてをかけていた。

なにせシャガルを入れた後の調理加減は、時間などで測れるものではない。

その火加減と向き合い、適切なタイミングで食材と調味料を放り込み、如何にして食材を最高の状態にしてやれるのか。


全てがそれにかかっている。

そして、それは心の眼でみるのだ。


オッサンも常々口癖のように言っている。


『考えてやっているようじゃまだまだニ流だ。一流ってやつは、頭で考えなくても感覚で出来ちまうもんだ』


…くそっ!俺ってやつはまだまだ二流にもなれちゃいねぇ!

こんなんじゃ、俺の夢である世界一の料理人なんて夢のまた夢だぜ!


そんな情熱溢れる俺に向かって、ここ宿り木亭の名物店主であるオッサンことラザルは、何故か冷めた表情で話しかけてきた。


「おい」


「へい。なんっすか、おやっさん!?」


「その変な言い回しと、やたらと暑苦しいのをいい加減辞めろと言ってんだろうが」


「すいやせん!」


「それをやめろって言ってんだよ」


「すいません」


いけない、いけない。

炎の料理人としては、料理中に熱くなってしまうのは悪い癖だ。

俺は、いずれ世界一の料理人になる男だ。

こんなことで躓いていてどうする?


頭を冷やそう。

それが、世界一への近道だ。

いずれは料理というものを完全に自分のものにしてみせるつもりだ。

もちろん、心の中には真っ赤に燃える熱い闘志を沸々とさせながら…。


「お前さ」


「はい。なんでしょう」


「厨房クビな」


「はあぁああああぁぁあああああああ!?」


儚くもこの瞬間に、世界一の料理人の夢は砕け散ったのだった。



「元気だしてくださいよ。ソラさん」


「ミントちゃん…」


俺はカウンター席を拭きながら、力なく返事をしていた。


見事1番のやりがいとなっていた厨房の仕事をクビになった俺は、基礎から見つめ直してこいとのオッサンの命令で、フロアの拭き掃除を仰せつかっていた。

その落胆ぶりを決して隠せてはいなかったであろう俺に、ここの店主の最愛なる一人娘であるミントちゃんは、優しい言葉をかけてくれていたのだった。


「ありがとね…」


その優しさに泣きそうになりながら、なんとか返事をする俺。

こんなことじゃダメだとは分かっているんだけどな。


いつも賑やかなここ宿り木亭においても、比較的ピークを過ぎた時間帯では一息つけるタイミングがある。

現在はちょうど、向こうでいう昼の食事時を終えてティータイムといったところである。


この時間になると、ここに来る客もスィール(お茶)を片手にゆっくりとした時間を愉しんでいることが多い。

俺たち従業員にとって、1日まとまった休みを取れない代わりの、暗黙の休憩時間のようなものになっていた。

多少のお喋りはオッサンも許してくれるだろう。

そんな俺の考えを知ってか知らずか、ミントちゃんは俺との会話に付き合ってくれているのであった。


「お父さんも、あまり考えてる事とか口に出さない人だから…。何か考えがあってのことだと思いますよ?」


「そうかなぁ…」


「そうですよ」


ミントちゃんはそのただでさえ愛らしい顔を、にぱーとさせて笑顔を浮かべていた。


そんなミントちゃんはここ宿り木亭において、その愛らしさと仕事の有能さで看板娘の名を欲しいままにしていた。

その人気たるや凄まじいものがあり、先日ついに客の間での長時間の閣議の結果、二つ名が決定した。


『渇いた大地に咲く一輪の癒やし』


…だそうだ。


しかし、店の中で客同士がその手の話題で盛り上がると、決まって筋肉ムキムキの鬼が一人一人成敗していく……。


そんな恐ろしい都市伝説があるようだ。

俺には何が原因か全くもって分からないよ。うん。

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