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俺の異世界転生が完全にやっている件  作者: 箸乃やすめ
二章 俺の異世界転生は前途多難
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裁きと救い


知能が無駄に発達した生物とは、愚かなものだ。


動物や魔物の大半は、自分が生きていく為に最低限の狩りをしている。

それは生きる為に必然的な行為であり、本来自然の摂理とはそういうものだ。


しかし人間はもちろん、余計な知能をもった連中はどうだ。

奴等は次第に必ずと言っていい程、生に執着し始める。


挙げ句の果てには自分たちで争い合いを始めちまうんだから、まったくもって馬鹿丸出しだ。


そんなどうしようもない屑共は、俺が全部引っ括めて塵にしちまっても、誰も文句はないと思わないか?



□□□□□



俺は降りしきる冷たい雨の中で、一人立ち尽くしていた。


辺りにはさっきまで生物だったもののツンとした匂いが立ち込めている。

降しきる雨はその独特な臭いを消す事はなく、さらに死を充満させていた。


「………」


そこに特別な感情の機微など何もない。

あるのは生きていくという漠然とした目的だけだった。


それにしても、運がいい。

こいつらが着ていた服はもちろん、漁ればもっといいものがあるかもしれない。

そんな事を考え、いつものようにそいつらの一人に手をかけようとした、その時だった。

何者かがこちらに近づく気配に気づく。


降りしきる雨は、音や視界といった重要な情報を完全に遮ってしまっている。

最大限の警戒をしていたはずだが、そのせいでこんなにも接近を許してしまったのだろう。

丸一日苦労してやっと出会えた獲物をそう簡単に奪われてたまるかと、俺は咄嗟に身構えていた。


「ダッセぇことしてやがんな」


とめどなく地面に叩きつけられる雨音。

しかしそんな中にあって、何故かそいつの声だけは俺の耳にしっかりと届いていた。


「…なんだてめぇは」


「まあ、この辺じゃ珍しい事でも何でもないか。

だけど、お前はそれでいいのか?」


「は?何いってんだおまえ」


「それでいいのかって聞いてんだよ。死んだ奴のもの漁って、そんなことで本当に満足なのか?」


俺にはこいつが言っている事が、全く理解出来なかった。


ーー


ここトリニータでは、殺人、強盗、強姦など、城下ではすぐに罰せられるような出来事が、当然のように繰り返されていた。


カッシフォード王国としても、暗黙の無法地帯といった様相であり、ここに居る者といえば、何かしらの複雑な事情を孕んで流れ着く奴等が殆どだった。

ここはそんな奴等を受け入れる最後の場として、ある意味機能しているのだろう。


もともと、裕福な家に生まれた俺は、何不自由ない家庭で育った。

少なくとも食べるものに困ったりせず腹一杯にできたし、安心して眠る寝床も用意されていた。


父親の書庫には蔵書が山程あり、意味もわからないものが殆どであったが、なんとなく手にとって読み耽るのが好きだったのを覚えている。


両親からの愛情も人並みに受けて育ったといっていい。

そのままいけば、世の中の本当の厳しさなど、半分も理解せずに人生を終えてしまう可能性もあった。


だが、終わりは突然だった。

今より更にガキであった俺には、当然すべてを理解出来たものでは無い。

しかし当時の俺でも、一家まとめて夜逃げする程には、大きな出来事があったということをなんとなく頭で理解できていた。


そうやってここに流れ着いてすぐの頃、両親が突然殺された。


それが何故起こってしまったのかなど、理由にはさして興味がない。

今にして思えば、そんな事はここでの日常茶飯事に過ぎなかった。

ただ俺の両親は、そんな日常茶飯事をそうとは知らず、何処かで間違えてしまったのだろうと思う。


そして偶然にもその場にいなかった俺は、こうして今も生きている。

そこにきっと、意味などはない。

単に運が良かっただけだ。


そんな場所で生きていくということは、並大抵のことじゃない。

ましてや俺みたいなガキが、それこそ一人で生きていくには、なんでもやらなくてはいけないのは当然の事だった。


ーー


先程の奴の言葉が、頭の中を反芻していた。


『そんなことで本当に満足か?』


言い返したい事は山程あるはずだった。

その筈なのに、不思議と上手く言葉にできない。

相手も同じくらいのガキであるのに、どうして俺はこんなにも動揺しているのか。


「…実は今、悪党を探してんだ」


そいつの突然の宣言に、唖然としてしまう俺。

しかしそいつはそんな俺の様子など構わず、言葉を続ける。


「ただし、それはただの悪党じゃいけない。それには大事な条件があってな」


あんなにも降りしきっていた雨は、唐突に勢いを無くしていた。

一面の雲に覆われた空は、役目を終えたと言わんばかりに柔らかい風と共に次々と揺れ動いている。


「なあ。聞かせてくれ」


視界や音を遮っていた雨は、もう既に消失した。

図らずしもその事で、さっきから俺に話しかけ続けている奴の顔を、まじまじと見てしまった。


「俺みたいな、格好いい悪党を目指す気はないか?」


そいつは晴れやかな表情を浮かべながら、手を差し伸べてくる。


雲間から差し込んだ陽の光が、ちょうど俺たちを照らし始めていた。


この後はきっと、晴れるだろう。


差し出された手を前にして、そんな事を考えていた俺だった。

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