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俺の異世界転生が完全にやっている件  作者: 箸乃やすめ
二章 俺の異世界転生は前途多難
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再びの幕開け


眼前に広がる光景。


それを例えるならば、地獄の光景に近いというべきか。


「うえぇぇ…うぇぇああぁぁぁ…ぶえぇぇぇぇ………」


俺の目の前には、これでもかと泣きじゃくっている若い女性がいた。

その女性はあぐらをかいた姿勢で、ちゃぶ台においてある一升瓶を片手で握っている。


また、もう一方の手では、ちょこんとしたサイズのお猪口を持っており、おそらくそのお猪口には、時には人を気分良くしたり、はたまた気持ち悪くもしてしまうという魔法の薬が注がれている。


一升瓶のラベルには大きく「酒」の文字。

それはもう、これでもかというくらいデカデカといった具合に書いてある。

なんともわかりやすいが、逆に何の酒であるか判別できないという謎のラベルだなと、どうでもいいことを考える。

おそらくそれは、このどう転んでも面倒くさい状況からの逃避だったのかもしれない。


「ぶぇぇぇ……うわぁあぁぁぁぁ…ぐぇぇぇぇぇ………」


その女性からは、時折ヒックヒックと身体の痙攣が伺える。


号泣してそうなっているのか。

酔っぱらってそうなっているのか。

はたまたその両方であるのかなど、そんなことは俺に分かるはずもなかった。

というか、泣いているだけのはずなのに奇妙な擬音が聴こえてくるのは気のせいか?

こんな泣き方をするやつが世の中に他にいるのかと疑問さえ湧いてくる。


しかしながら、突然襲ってきたこんなにも非常識な出来事にも、俺は全くもって驚きを見せることはなかった。

なぜなら、この部屋の風景とこの女性には嫌というほど見覚えがあったからだ。


「うぇぇえぇぇん………うぇぇえん……」


いけない。

さすがに見ていられなくなってきた。

哀れすぎるこの人。いや、神様。


「おい」


「……ふえ?」


俺の声に反応した神さんは、まさにポカンといった様子で目が点となっていた。

また、その両の目からは大粒の涙がポツポツと流れ落ち、鼻の下には透明の液体が光輝いている。


とまあこのように、レディにあるまじき姿になっているわけなのだった。

忘れてしまいそうなので、改めて確認しておく。

この人は、神様だ。


嘘ではないと信じたいが、このお姿を見て信じてくれと言われても到底無理に違いない。

丁度俺も自信を無くしかけてきたところである。

しかし、ここまで自分が体験してきた経験を通じて、本物であると信じてしまっているということも、悔しいが事実ではあった。


「ぐすっ……ぐすっ…ふぇぇ……」


いや、ほんとに神様なのかな?

そんな自問自答を繰り返していたところ、神さんはようやく泣くのも一段落したようで、こちらの姿を認識したようだった。


「……お、お主は……っっ!!

なぜいつも変なタイミングで現れるのじゃぁぁぁ!?」


俺の姿を認識したと同時に、ずずーっと一瞬にして後ずさる神さん。

毎度タイミングが悪い事に関しては、逆にこっちがどうなっているのか聞きたいと声を大にして言いたい気分だった。


「んで、今回は何があったんだ。できるだけ簡潔に述べろ」


今までの経験上、ろくな事では無いことは確かだろう。

どうせ、時間もないのだ。

さっさと済ませなくてはならない。


しかし、神さんはそんな事を考えていた俺の視界から一瞬のうちに消え失せていた。  


「へっ?」


何が起こったのかすぐに理解が追いつかず、間抜けな声が出てしまう俺。

次の瞬間、まさに目と鼻の先に神さんの顔がドアップで現れた。


「…き、聴いてくれよ〜」


「うおぉぉぉい!?驚かすんじゃねーー!!」


今度は俺が全力で後ろに後ずさっていた。


それにしても、焦った。

経験値の少ない独身男性なら、今ので一発で心臓が止まり、天に召されていたに違いない。


しかし、舐めてもらっては困る。

伊達に34年間ただ独身を貫いてきたわけではないのだ。

リアルでの経験がなくたって、そんなもんは死ぬ程二次元で経験済みだ。

俺の中の涙なしには語れない恋愛エピソードを語りだしたら、平気で一週間は語っていられる自信しかない。

もちろん、主人公はすべて俺ではなく現実に存在してもいないがな。


必死に自分を落ち着かせる為に、そんな人様に聞かせられない恥ずかしい思考を垂れ流しにしていた俺だったが、そうしている間にも、神さんはただただ涙を流しておいおいと泣いていた。


このままでは埒が明かない。

なにはともあれ、まずは話を聞いてみることにするか。



ーー



神さんの話に耳を傾けること数分。


話の間も、神さんは喚いたり、叫んだり、落ち込んだり、泣いたりを繰り返した。


その結果ようやく事情を理解した俺は、ただ一言を神さんに告げていた。


「お前、アホだろ」


「なんじゃと!?」


以下、長くなると申し訳ない為、簡略化して皆様にお伝えする。


まずは神さんの平日のルーティンを見て頂きたい。

補足として、彼女は一般企業のOLであることを付け加えておく。


起床→会社出勤→通勤途中、コンビニで新作スイーツ物色→午後出勤→エリちゃんら同僚とスイーツ品評会→帰宅→酒→睡眠


※以上、繰り返し。


そして、以下にあるのが実際にあったらしい彼女の会社でのやり取りの一部である。

こちらも重要な部分を抜粋してお送りする。



〜~



「君、クビね」


「えっ、やだな部長。いつもの冗談ですか?面白くないですよ」


「至って真面目だよ」


「…」


「…」


「…まじ?」


「マジ」



~~



理解して頂けただろうか?

なにか語る必要性を見いだせない俺の気持ちを理解してもらえれば嬉しい。


そして現在、神さんといえば頭を抱えながらその原因について悶えている最中なのだった。


「…いったい、何が問題だったというのか…。

神に理解できぬことなどあっていいのか…」


本気で悩んでいる所をみると、どうやら本当に原因に気づけていないらしい。

こいつは相当な重症患者とみて間違いない。

お薬を処方したくなるレベルだ。


まずは何故クビになったのかということを理解させる必要性に駆られた俺は、面倒くさい事この上なかったが具体例を挙げながらどこが問題点なのかを指摘していった。


「…なるほど、わかりやすい」


俺の話を素直に聞き入っていた神さんは、意外にもすんなりと納得してくれたようだった。


「まあよい。わしのような大きな器を受け入れる事は、人間ごときには少し酷だったようだな」


神さんは、うんうんと自分を納得させるかのような仕草をみせる。

それにしては物凄く酷い取り乱し様だったことを、ツッコみたくて仕方がない気持ちになったが、話がこれ以上長くなるのは避けたいので辞めておく。


そんなやり取りの後の事、神さんは何かを思い出したように口を開いた。


「そうじゃ。お主に渡すものがあるのを忘れておった。どれどれ、ちょっと待っておれ」


よっこらせいの掛け声とともに立ち上がった神さんは、そのまま奥の方に向かって消えてしまう。


一人ポツンと取り残された俺は、突然の事に驚きながらも、目の前の景色が波のように歪んできたことで終わりの合図が訪れた事を察知した。


やれやれ…。毎度のことながら、仮にも神様との対話のチャンスをことごとく無駄にしていっている気がしてならない。


薄れゆく意識の中で、そんな事を考えていた時、突然ふと頭に浮かぶものがあった。




ーー必ずまた、会えるよ。




それは、向こうの世界でも、ましてや異世界にもまるで記憶にない誰かの台詞。


その声の主は、いったい誰だったのだろう。


せめて次に起きた時にその声を憶えていたいと、そっと神様にお願いした俺だった。

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