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俺の異世界転生が完全にやっている件  作者: 箸乃やすめ
一章 俺の異世界転生は情けない
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小さな棘


あの男はいつまでここにいるつもりだろう。

いい加減余りのしつこさに、うんざりする。


確かに私もあの時、やりすぎたところはあった。

それもあって傷の手当てくらいはしてもいいかなと、軽い気持ちで傷を癒やしてしまったのも事実だ。


しかし今にして思えば、そんな甘い考え自体が良くなかったのかもしれない。

だいたい手紙にもすぐに消えろと書いたはずなのに。


あれからというもの、あの男は定期的にここに戻ってきては食料を置いていくようになった。

最初は果物から始まり、果てには肉なども置かれていくようになっていった。


私はその度に無視を決め込んだり、燃やしたり、凍らせたり、水浸しにしたりなど、あらゆる手段で拒絶していた。


食料がもったいないことは分かっている。

それでも、こちらに食べる意志がないということを伝えたかった。

しかし男はそれを知ってか知らずか、一向に辞める気はないようだった。


時折男が来ている時に、気づかれないよう顔を覗いてみたこともあった。


「うえっ、今度は凍ってる…。パターンいくつあんのって感じ。まいったなー、ははは。そろそろなんか食べたほうがいいよ、うん」


覗き見えたその表情は、明るい声色とは裏腹に、何かを考えこむような深刻な表情をしていた。


そんなに辛いことなら、今すぐ辞めてしまえばいいのに。

心から不思議に思う。

ほんと、ばかみたい。


また一方的に話しかけてくるのも辞めて欲しいことの一つだ。


最初は普通の挨拶だったり、他愛もない話だったりした。


しかしこちらに反応がないことがわかると、男は次第に喜怒哀楽あらゆる感情を織り交ぜ話をするようになっていった。

それはもう、泣いたり、喚いたり、怒ったり、笑ったり、悲しんだり…。


それはまるで、私がどうしたら反応をみせるのかを試しているかのようだった。

もちろん私は、そんなものに反応を見せるはずもなかった。


しかし、そんな事を毎日毎日懲りずに繰り返されると、鬱陶しいから早く辞めて欲しいといった感情とは別に、その話の内容にも耳を傾けている自分に気づいた。


あんなに嫌だったはずなのに、何故?

つくづく人間とは不思議なものだなと感じてしまう。


…だけどそれも、もうすぐ終わる。

その事に心から安堵する。


飲まず食わずでこれだけ生きられているのは、きっと無意識で大気のマナを取り入れてしまっているからだろう。

こんな状態でも生にしがみついているとは、やっかいな話だ。


でも、大丈夫。

だってもう考えることくらいしかできない。

目を開けたり、首を動かすこともおそらくできない。


身体の感覚も殆ど無いし、自分が今どういう姿勢をとっているかもわからない。

かろうじて耳は聴こえているようだけど、それも徐々に聞こえなくなるだろう。


そんな中で不思議と、心に引っかかる事があった。


それはまるで、心の片隅に小さな棘が刺さっているかのようだった。

もう自分の人生について、散々考え抜いて納得したはずなのに。


…まあ、いっか。

もはやそんな考え事をするのも、疲れてしまった私だった。

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