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殺人姫  作者: エムポチ
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狩猟

 新しく手に入れた道具。

 娯楽の少ない時代。

 こうした物を手に入れると、夢中になるのは女も同じだった。

 的を撃つのに慣れて、彼女の射撃の腕前はそこら辺の兵士なんか足元にも及ばないレベルだった。

 そうなると的だけでは満足が出来なくなる。

 濫りに城から出る事は禁じられているが、狩猟などを楽しむ為に外出する事は出来る。

 狩猟は貴族の嗜みでもある。

 

 夜の帳が落ちた。

 ガス塔が仄かな灯りを放つ。

 その灯りの下で女が立つ。

 寂れた街角で一人立つ女は大抵、娼婦だ。

 娼婦も色々だ。上客を掴む為に派手に着飾る女も居れば、生活の為に稼げれば良いと割り切り、地味な女も居る。

 街角で立つ娼婦など、店で客を取る女よりも下だ。しかし、そんな女でも男の欲望を満たす。

 貧困が間近にある時代だからこそ、こうした商売も蔓延る。

 一人の娼婦もいつも通り、ガス塔の下で時間を潰していた。

 今日はあまり人の通りが多くない。当然ながら、客はまだ、居ない。

 ダメかと思った時、目の前に馬車が停まった。

 あまり派手ではないが貴族の馬車だ。

 貴族は娼婦にとって、上客である可能性が高い。ただし、変態も多いので気を付けないといけないが。

 馬車の御者が娼婦に話し掛ける。彼の顔は目深に被った帽子でよく見えない。

 「あんた、幾らで一晩、相手をしてくれる?」

 娼婦は不敵な笑みを浮かべて、指を立てて、必要な額を答える。それは普通よりも遥かに大きい金額だ。

 御者はそれを見て、頷いた。そして「乗れ」と言う。娼婦は内心、やったと思いながら、したり顔で馬車の扉を開く。中には仮面を被った真っ赤なドレスを着た女が居た。

 一瞬、驚いたが、すぐに娼婦は喜んだ。そういう趣味の主人なのだと。

 馬車は真夜中の街を進む。

 蹄の音と車輪の音だけが響き渡る。

 娼婦は目の前に座る女主人の顔色を窺った。あまりに変に声を掛けて、気分を害してはいけない。

 仮面の奥に見える瞳は娼婦を見つめる。

 だが、無言だった。

 そうしている間にも馬車は停まった。

 「着きました」

 御者がそう告げる。扉が開かれた。

 娼婦は御者に手を引かれ、馬車から降りる。周囲を見渡すと、一切の灯りの無い林だった。そこがどこかさえ、娼婦には解らなかった。

 「ここは?」

 娼婦は僅かに怯えながら御者に尋ねる。女主人が馬車から降りるのを手伝った御者は娼婦に振り返り、頭を下げる。

 「な、なんなの?」

 娼婦は怯えて、後退る。その様子を見て、女主人は真っ赤なルージュを引いた唇で笑みを作る。

 「ここはあなたの死に場所です。私があなたの命を奪います。そして、魂を解放するのです」

 彼女は御者が手にした箱から金色の銃を手にした。それを見た娼婦は震えながら、悲鳴を上げ、逃げ出す。だが、灯りの無い林。逃げるにはただ、道を走るしか無かった。

 「その汚れた肉体をお捨てなさい」

 女主人は右手を伸ばし、握った拳銃の引金を引いた。

 空薬莢が舞い、銃口が炎を吐いた。

 弾丸が娼婦の右太腿を撃ち抜く。彼女はその場にスッ転んだ。

 女は更なる悲鳴を上げた。「助けて」と何度も叫ぶ。それを聞いた女主人は笑みを零す。

 「まだ、生きる事に執着があるのですか?」

 女主人は倒れても懸命に這いずる娼婦に近付く。

 「嫌だ!助けて!死にたくない!死にたくない!」

 娼婦は仰向けになり、女主人に懇願した。銃口を向けた女主人は彼女に告げた。

 「祈りさない」

 その言葉に娼婦は懸命に両手を合わせ、神への祈りを捧げる。

 「そう・・・そうよ。祈りなさい。神はあなたに命を与えた。そして、私が奪う」

 次の瞬間、銃声が鳴り響いた。

 

 娼婦がこの街から一人、消えた。

 だが、そんな事はよくある事だった。

 死んだのか、逃げたのか。

 困るのは彼女に部屋を貸す大家ぐらいだ。

 新聞の記事にすらならない。

 それも死体も見付からなければ。

 マリーは今朝も紅茶を飲んでいた。まるで血のように赤い紅茶を啜りながら、新聞を読む。

 「今朝も退屈な記事ばかりね」

 そう呟くと新聞を机に置く。

 「姫様。今朝は少し、嬉しそうですね」

 新しいメイドがそう告げた。マリーは自分の頬に手を当てた。

 「そう?・・・そうかもしれないわね」

 自分ではあまり気付かなかったが、どうやら、自分は知らぬ内に笑顔だったようだ。

 普段、あまり笑顔を見せる事は無い。

 不機嫌こそがマリーの印象だった。

 「最近、とても・・・楽しいと思えるようになったのよ」

 マリーの言葉にメイドは少し驚いたように動きを止める。

 そこに執事が入って来た。

 「姫様。お手紙が届いております」

 手紙?とマリーは思った。この城に幽閉されているマリーの事を知る者は少ない。

 手紙を送って来る相手は僅かなのだ。

 そして、大抵、その内容はマリーにとって、喜ばしくないのである。

 「読みたくはないけど、そうもいかないのね」

 マリーは悪戯っぽく執事に尋ねるも彼は溜息混じりに銀の盆に載せた手紙を彼女の前に出す。

 マリーは嫌そうにそれを受け取った。そして、ナイフで封を切る。

 取り出した手紙を見て、彼女は更に険しい表情を見せた。

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