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ショートショート『怪物と人間』

作者: 川住河住

 今日はバレンタインデー。

 町では女の子たちがそれぞれの想いを込めたチョコレートを男の子たちに渡している。あなたのことが好きと告白する人がいれば、これからもいっしょにいようと絆を深める人もいる。みんなうれしそうに笑っている。

 そんな彼らをうらやましそうに見つめている男の子がいる。

 うす汚れた袋を頭からすっぽり被っているその姿は、今日をハロウィンかなにかと勘違いしているようにも見える。だがその子は気候や行事とは関係なく、いつもみすぼらしい格好をしている。現に今もボロボロの布切れを身にまとい、靴も履かずに裸足でひょこひょこと歩いている。



 いつの頃からかはわからない。大人たちは少年のことを怪物と呼んで排除するようになった。町に入ろうとしているところを見かけたら石を投げつける。牧場のそばにいたら家畜を食べられないように鎌を持って追いかけまわす。川に近づこうものなら貴重な水を汚させないために棒で思いきり殴りつける。

 しばらく眺めていた男の子はその場を離れることにした。昨日も足に石をぶつけられ、肩を切りつけられたせいで体が上手く動かない。もし誰かに見つかったら今日こそは死んでしまうかもしれない。いくら怪物と言われようと不死身ではないのだから。

 住処にしている廃屋に戻ると見覚えのない箱が置かれていることに気づいた。

 警戒しながらフタを開けると、中には甘くておいしそうなチョコレートが入っていた。

 どうして自分なんかに、と少年は疑ったが、こんな自分にも優しくしてくれる人がいるんだ、と思い直した。

 それから口を大きく開けてチョコレートを飲み込んだ。



















 翌朝、廃屋で頭に袋を被った死骸が見つかった。

 袋を取って見ると顔は醜く歪み、血走った目玉が飛び出ている。かきむしった喉は傷だらけになり、流れた血が床にどす黒い染みを作っている。もがき苦しんだせいなのか、手足も首もあらぬ方向に曲がっている。

 そして頭から伸びた二本の角は根元から折れて、耳まで裂けた大きな口からは二又に割れた長い舌が垂れている。

 大人たちは安堵した。

 これでようやく怪物はいなくなったと。


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