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「お館様、長居は無用で御座います。いつ先公…教師達が嗅ぎつけてくるやも知れませぬ。ささ、こちらへ…」

サルに促されるまま、ワシらは階下へと降りかける。

そこへ正面から駆け上がって来て、急停止する影。

刹那身構えたが、直ぐに相沢雅治…ハルだと気付く。

「おまっ…ヤス…じゃない信長様、大丈夫ですか?てか無傷って…逆に何があったんすか!?そもそも奴らは。」

ハルはワシらを押し除けるようにして駆け上がり、屋上直結の扉を開ける。

20数える間に、扉を閉めるハル。

「…あなた一人で?」

背中を向けたまま、問いかけてくる。

「然り、まあ流石に疲れたでや」

こちらへ向き直るハル。

(あなたは何者だ?少なくとももはや黒田泰年ではない。織田信長本人かどうかもこの際どうでもいい。ただとにかく「ホンモノ」だ。)

その貌と瞳は明らかにそう語っていた。

「まぁ…長居は無用です。教師…特に体育会系生徒指導部の奴らに来られると厄介です。とりあえず人目につきにくい所に行きましょう。」

「うむ。サルよ。今日のところはもう良い。うぬの教室にもどれ。取り敢えず明日昼休みとやらに、ワシらの教室に来るが良い。」

「は、ははっ!ではこれにて…」

サルは相沢雅治になんとも言えぬ目線を向ける。

「言い忘れたがサルよ、お主なかなかに強いな。全員数刻は眠らせるつもりで打ち据えたのだぞ。取り敢えずは褒めてやる。」

「はっ、ははーっ!有り難き幸せ!で、では御免!」

サルは駆け足で去っていく。

それを見送ると、ワシとハルは早足で歩き出す。

「まぁ、取り敢えず、2年校舎の屋上にいきましょう。そこに時々サボる時に使っている、"穴場“が有るんすよ。」

「ほう、そうか。委細は任せる」

2人は「そこ」へ着く。

「取り合えず腹が御空きでしょう、冷めておって申し訳ないですが…。」

「おおこれが焼きそばぱんか。」

口にする。妙な味ではあるが,決して悪くはない。

そして…。

「茶を飲むになんと理にかなった形か。しかもこれが使い捨てとは…贅沢なのか粗雑なのか…。」

中身を飲み干した、「ぺっとぼとる」とやら申す物を、ハルに示される通りびにーるとやらに入れる。

「ここなら誰にも気づかれない…か、ハルよ、今更だが授業は出なくて大丈夫なのか?四海の主要言語のひとつと聞くが…。」

「ああ英語Ⅰっすね、ってか、四海というよりここの世では世界と呼んだ方が分かりやすいっすよ。で、その教師の奈々未…じゃなかった山口先生は、俺と割と仲いいんで、後でLINEして2人そろって出席扱いしてもらいますんで。」

…ああそういうことであったか。

「なるほど、では遠慮なく筋骨を休ませるとしよう。」

ワシはこんくりとやらの上に寝そべる。

蒼井いや蒼い空じゃ。こんなに佳きものとはな。

ハルもそれに倣い、よっといって横になる。

「どーしたんですか信長様。スマホ出してGoogleマップ?さっきも申しましたがあんまWi-Fiの無いとこで使いすぎると…」

ワシは今、この便利なる地図を拡大はしない。むしろ逆であった。

日の本…日本がどんどん小さくなり、やがて、世界の半分強ほどが映し出される。

「日本だけに限れば一統されて久しい。しかし世界は未だそれに程遠い。戦も起こっておるのか?」

「…まぁ、小競り合いならずっと何処かでは基本ありますねぇ!超大国同士の正面からの…という意味ではさきほどちょっと話した、第二次大戦以降は起こってないですが…まあ細かいところは、帰ってから…」

「ふむ、いずれにせよワシが次に目指すべき高みはこの広大な世界か…」

「お?やる気になられましたか?」

「流石よの、ワシの考えを読んでおったか。

然り、我が目指す高みは世界一統じゃ!真に戦の無き世をつくるのじゃ!」

寝そべり蒼空を見上げたまま、ワシは高らかに宣言した。

「流石でございますなぁ、信長様!私めもお供いたしますぞ。」

「…その口調じゃがな…」

「あ、ちと雑に過ぎましたかな、これは…」

「いやむしろ逆じゃ。お主は、いやお前はワシを最初から曲がりなりにも信長として遇してくれた。

令和の世における振る舞いも教えてくれた。

先刻もワシを田所達から助けようとしてくれたのであろう?

ここからワシはまずこの日本を掌握せねばならぬ。

しかし如何に高みに昇っても、お前だけとは死すまで対等の友として接したい。ワシのこの五体が黒田泰年であったときと同じように…故に…なんと言ったかな、そうタメ口で口を聞いて貰えば良い。ただ、ワシの軍師、馬廻りは務めてほしいがの。」


ハルは身を起こす。


「あはははっ。わかったよ。実は俺もちょい肩が凝っていたんだ。お前の事は今後はノブと呼ぶことにするよ。」

「有り難し。ハルよ。今後とも宜しく頼む。」

「こちらこそ宜しく。俺の友、ノブよ。」

「ああ。友、か…」

座った体勢のまま、二人は抱擁を交わす。


数十分後…

「いつまでもこうしていたいが、6限目は志田の現国の授業だからなぁ、流石に…。」

「ああ『担任』って奴か、朝出欠とやらをとっておった…

あの妙にくたびれた男…」

「俺もぶっちゃけいけ好かねーが、まあしゃーねー行くか」


その時、向かいの三年校舎屋上が騒がしくなった。

「なんだこりゃあ!」

「おいなにがあった!?しっかりしルオォ!?」

「た、田所までもが!?」

「馬鹿な…とにかく救急車だ!あと警察も…」

「アホか!?警察は校長の裁可を仰いでからだ!」

「あーもうめちゃくちゃだよ!」


「バーカ、遅過ぎだっての生徒指導部。」

ハルが、物置の陰から覗き、毒づく。

「ふむ…まぁ教室に戻りながら話すでや」

2人は階下に降りる。

「はてさて、あやつらや警察とやら言う小役人どもが、ワシの存在にいつ辿り着くかよの。別にワシはいつ誰が来ようが構わんが。」

「まーそうだな、意外と時間かかんじゃね?梅沢達は普段好きにイジメ倒していた『黒田泰年』に良いようにやられたなんて死んでも認めたくないだろうし、他の三年どもや田所もまさか1人のヒョロいオタクにやられたとは言えねえだろ。まぁ誰か1人くらいは何か言うかもしれねーからわからんけど…」

そうこう話しているうちに、教室に戻る。

なんとか間一髪、始業には間に合う。

担任の志田。ハルが言うには齢50過ぎらしいが、なんとも貧相で、老けて見える…。

「いいか、前にも言ったが、授業中の私語とスマホいじりは、容赦なく単位切るからなぁ。文句言ったら生徒指導室行きだぁ。」

その割にはこの尊大さ。他の生徒達は渋々と言った感じで黙って座っている。

そして授業。

例によりひたすら退屈なものであった。

教科書とやらに書かれた物語そのものは中々に(読める範囲では)面白いというのに。

ここ百数十年の「文豪」達が紡ぎし言の葉の魅力。

それをこの男は全く伝えきれていない。本来文を記した者にしかわからぬ筈の本質を、わざわざ美文を解体してまで手前勝手に解釈し、それを良しとする。何の意味があるのか。

ワシは授業は無視し、勝手に自身が目をつけた、教科書の面白き物語を読みすすめる。

ほう、太宰とやら申す男、中々の…。

「黒田、おい黒田ァ!!」

志田であった。

「お前が続きを読むんだよ!あ?お前全然違うページを見てんじゃねえか!?授業舐めてんのか!?お前を留年させるなんて簡単なんだよ!何と言っても俺は学年主任…。」

ようやく「ぺーじ」から目を離すワシ。そこで志田と初めて目が合う。

ただそれだけ、威嚇も睨みもしていない。

だのに勝手に青ざめ、全身を震わせる志田。

そして…こともあろうに股間から粗相を…!

じょっぼじょっぼと…

周囲は凍りつく。

ちょうど120数え…2分後に志田は踵を返し、強面の大人に怒鳴られた童のように教室から飛び出していった。

直後に一変、どっと湧く生徒達。

「ぎゃはははは!志田クソだっせー!どこのガキだよ!」

「いやむしろモーロクしてんじゃね!?施設に入れや!だな!笑」

「ちょっとマジありえねーんだけど!?ウチのスカートに匂いついたー!」

「ありゃ当分学校これねーわ笑 動画撮っときゃよかったぜ」

「床どーしてくれんのこれ。」

「知らねーよほっとけ。」


…まぁ、皆ワシが原因とは考えておらぬ様で安堵致した。

そう考えたところで、雅治(ハル)が声を張り上げる。

「おーみんな!今日は残りの授業もHRも免除らしーぜ!?

アホくさいから帰るかぁ!」

皆は歓喜の声。

「よっしゃカラオケ行くぜカラオケ!」

「ウチらも行くー」

「オメーらまたそのパターンかよ。まっいいかー」

「とりあえず生徒指導部が気付く前にソッコーバックレようぜ!」

1分とかからず、ワシやハルも含め、教室はもぬけの殻となった。

後で聞くところによると、不運な何人かは生徒指導部の屈強な教師たちに捕まったようだが、ほぼ8割方は、無事校外に逃げおおせたようだ。無論ワシらも含め。


「あの時…私が思い出したのは…。そう小さい頃に見たサファリパークのトラでしたね…。殺気とかそんなのじゃないんです。ただコッチをただのエサとしか思っていない。あまりにもかけ離れた存在。そういう恐怖を通り越した何かでした。

一応あの後3ヶ月で復職しましたが…

もう壊れてしまったと言うか、生徒達は統率できず、普通にこなせていた事務処理もままならず…。学年主任は外され…

自棄になって…まあ前からちょくちょくやってたんですが…アプリで知り合った女子中学生に1万3千払ってホテル行ってたのが発覚し、捕まり当然懲戒免職、家族は離れ…。

いまはこうして一介のコンビニバイトですが…。

あの方を恨むとか、そういう次元ではないんです。

なんというか…そういう凡人の感情を超越したと言うか…そういうお方です。」

以上が、筆者が後年インタビューした、志田元教諭の言葉である。



…門の外に出たワシは、正面の、これまた城のような…見事な建物を見上げる。

「どうしたノブ?奈緒蘭総合病院がどうかしたか?」

「びょういん…」

「要するに沢山の医者(くすし)と治療の設備を揃えたところさ。」

「成る程。天正の世では治らぬ病も治せるのであるな。」

「まぁそれでも救えない場合もあるんだけどね。」

「『姉』がしつこく朝方帰りがけに行けと云っておったのがここか。確か『せいしんか』とやらに」

「ああ、朝からその調子なら当然言われるわな。まぁいまはとにかく…ん?」

不意によろめくワシ。

「おっ大丈夫か大丈夫か。」

肩をすかさず支えるハル。

「…すまぬハル。お前が帰路逆の道筋なのを承知で頼むが…ワシの邸宅に帰り着くまで支えてくれぬか。」

「いいよいいよ。気にすんな。黒田泰年の身体であんだけ暴れたからね。しょうがないね。まぁ本音はお前の姉ちゃんのでかいお胸を久々に拝みてーしな。ハッハ…」

華奢に見えて、しっかりとした筋骨。おそらくこの男、相当に「使う」のであろう。

あの梅沢とやら共も、ワシが、黒田がハルと一緒の時は恐らく手を出せなかったのであろう。

まぁその辺りの、細かな顛末は、あえて訊かずにおこう。

にしてもこのなんとも言えぬ頼もしく、優しげな感触…。

女の柔肌とはまた違った…。

出来れば何時迄も…。

半ばまどろみながら、そんなことを巡らす内に「現在(いま)のところの仮住まい」に着いてしまう。

玄関口には「姉」…。

「あっハルくん久しぶり〜、丁度バイトに出かけるタイミングで会えるなんて〜。相変わらず可愛いー。」

「あざっす。お姉さん。相変わらずデカいすねー!今度○ませてくださいよー」

「やだーハルくん、お姉さん本気になっちゃうよ?

…ってところで泰年どうしたの?」

「ああ、なんかストレスと疲労が溜まってるみたいで、何時間か寝かせてやれば大丈夫かと。

あと、こいつが信長どうのこうの言っても、適当に話し合わせてあげて下さい。頭がイカれたわけじゃないってことは、俺が保証しますんで。」

「そ、そう、わかった。色々ありがとね。ハルくん居てくれてほんと助かったよー。じゃ、またね。」

「姉」は手を振りつつ、ばいととやらに向かった。

ワシは「部屋」に入り、真っ先に「べっど」に倒れ伏す。

本来「ねっと」で直ぐにでも知りたき…儀が…あるの…だがな…。



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