表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

憑依


目が、醒めた。


「ん?」

ワシは死に損ねたのか!?しかし渾身の力ではらわたを抉った筈。

それ以前にあの炎の中から…?

腹を触る。「斬った、斬られた」という感触や痕跡すらない!?

それにワシはこんな痩せ腹であったか?

いずれにせよワシの生は続いておる。

現に寝具の中に…しかし妙に心地よい感触。

こは如何なることか?明智勢に囚われたと考えるが自然だが…。

ならば何故無駄に生け捕りにする。首を斬る前に晒しものにする魂胆か?

見張りの兵すらおらぬのも不自然だ。牢という感もしない。

とにかく、今は起き出さねば。

!?

段差がある?だと?

危うく転げ落ちるところであった。

こんな寝具で寝させられていたのか…。

これは確か南蛮の者どもが使っている…。

自分の寝させられていた間を見渡す。

なんだこの調度品は…

書を読む為の卓があるのはいい。しかしなんだ、そこに載ったあの薄い板を二つに折ったようなものは…。

上の面は面妖な光を…山野の風景画か?

これまた南蛮のものであろうが精緻すぎる、まるで鏡同然に写し取ったかのような…。

そしてその面の右下には南蛮の数字、確か…零六五八…。

南蛮南蛮…というより、どうも南蛮だの明国だののもの、という観念すら超えておるような…。

まして光秀にそんな嗜好はあるまい。

よもや…。


「たれか、たれか居らぬか!」

思わず叫んでしまった。

「え?泰年ィ!?」

女…しかも若い声?

ここの間に入って来た女…。(扉も妙な形だ)そもそも鍵すらかかっていなかったとは。

で、この女…全身が珍妙なる格好、極端に短い腰巻。脚は当然あらわである。

顔の化粧けさうも妙ちくりんだ。これで美しいと思っているのであろうか。

そしてなによりこの胸…蹴鞠を四つくらい詰め込んだ大きさ。

以前、(少し他の連中より毛色の違う)妙な宣教師に見せられた肖像画の南蛮の遊女の胸より遥かに…

しかもそれを4割近くはだけている。

こやつも遊女か?

「女…名はなんと申す?明智のものか?」

「はあ?あんた大丈夫?あたしはあんたのお姉ちゃん!黒田千春!そんであんたは弟の黒田泰年!高校2年の17歳!」

「黒…田?官兵衛の親類か?いずれにせよ違う。ワシは織田三郎信長じゃ。」

あえて、朝廷より賜わりし官位を言わなかったのは何故か。ワシ自身にも判らない。

「え?いやいやいやいや笑あんたガチで頭おかしくなったんじゃないの?ゲームかアニメで徹夜したとか?」

げえむ?いやそんなことはどうでもよい。


「気が違ったと申すか?ワシは至って正気じゃ。それよりあれはなにか?」

わしは先刻の妙な板を指さす。

「何ってパソコンじゃん。てかあんたあたしより詳しいじゃん。キモいくらいに。」

「あれはあのような、鏡で写し取ったが如き絵画を眺める為のものか?」

「ただの待ち受け画面じゃんあれ。てかいろいろできるよ。仕事もメールも…あとネット。

まああんたは主にゲームか動画ばっかりだろうけど。」

「どう…が…?もしやあの精緻な絵が動く様すら見られるとな?」

「そんな当たり前のこと聞いて…ああもうめんどくせえ!さっさとあたしの作ったご飯食べて学校行けって!」

「待て、今少し問いに応えよ!」

先刻からワシが抱いたひとつの考え、それが内奥にて固まりつつあった。

「今は天正何年じゃ?」

「天正?なにそれ?いまは令和12年だけど?だからそれより…」

!!!

元号が替わっている…。しかも十二年前に!?帝がいつの間にか譲位したとか、もはやそうした段階の話ではない。やはり…

どうする、この女にも判る暦を…そうか、南蛮の。

「ホラ早く!あたしも今日デートなんだから!」

「あと一つだけじゃ、ワシは千五百…そうおおよそ八十年頃を生きておるつもりであった。

今は何年じゃ?」

「ああ西暦ってこと?だったら2030年だけど?あーくそ付き合いきれねえ!」


「・・・・・・・・・!!!!!」


なんたること。

輪廻転生なぞ信じなかったが、実際ワシは450年後の世に放り込まれ、しかも全く関りの無い青年?の肉体に憑依してしまったのだ…。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ