12月21日 2
手早く整えられた朝食は、例によってやたらとおいしかった。
みそ汁をすすりながら、瑞希は上目遣いにちらっと男を見やる。
男は静かに箸を動かしていたが、瑞希の視線に気がついたのか、目線を上げた。
「……あたし、橋本瑞希」
唐突に、瑞希はこう言った。自己紹介をしていなかったことを思い出したのだ。
男は穏やかにほほ笑むと、箸を置いて軽く頭を下げた。
「僕は、紺野といいます。紺野、秀明」
「紺野くんか」
瑞希はそう繰り返すと、嬉しそうに笑った。
「ため口でいいよね? 年近いし」
「構いませんよ」
紺野の返答に、瑞希は不服そうに眉根を寄せる。
「だから、ため口でいいって言ってんじゃん」
すると紺野は、困ったように笑った。
「すみません、僕はこのままでもいいですか? 癖なんです」
「癖? その、バカ丁寧な敬語が?」
紺野が恥ずかしそうにうなずいたので、瑞希は思わず吹き出した。
「ヤバ……あんた、マジで変わってんね」
「そうですか?」
紺野はほほ笑むと、箸を置いた。見ると、半分も食べていないようだ。
「何? あんた、もう食べないの?」
「ええ。ちょっと、食欲ないみたいで」
「マジで? ちょっとみせてくれる?」
瑞希は紺野のそばによると、返事を待たずに額に手を当てる。手のひらで感じるその熱さは想像以上で、瑞希は思わず息をのんだ。
「え、なにこれ。ちょっとヤバくない? あんたさ、体温計は?」
「あ、台所の戸棚の引き出しに……」
瑞希は慌てて台所に走り、戸棚を捜す。程なく見つかった体温計をつかんで居間に戻ると、無理やり紺野の脇下に突っ込んだ。
「ちょっと、自分で押さえてよ」
「す、すみません」
瑞希にどやされて、紺野は素直に体温計を押さえる。ほどなくして、ピピッと軽快な電子音が鳴った。
紺野は体温計を取り出すと、無言でその表示を見ている。瑞希は気になったので、その手から体温計をひったくり、表示を見た。
その数字を見て、瑞希は思わずすっとんきょうな声を上げた。
「は? 三十八度九分⁉」
ゆるゆると紺野に目を向けると、居心地が悪そうに身を縮めながら、あいまいな笑顔を浮かべている。
「いや、あんたさ……」
瑞希は何か言いかけたが、言葉を飲み込んで立ちあがると、無言でちゃぶ台の上の茶碗や箸を片付け始めた。紺野が慌てて立ちあがって手伝おうとしたが、瑞希は怖いくらいの顔でそんな紺野をにらみつける。
「あたしがやる。あんたは座ってて」
「え、でも……」
「ウザいし邪魔だからそっちに行って」
瑞希は乱暴に紺野を押しのけると、さっさとちゃぶ台を片付け、先ほど畳んだ布団を敷いた。
「ほら、寝てな」
それでも紺野は、困惑したように立ちつくしている。瑞希は思い切り眉根を寄せると、紺野のダウンジャケットを問答無用で脱がせて、まるで押し倒すようにして強引に布団に寝かせた。
「片付けは、あたしがやっとく」
紺野は当惑しきった表情で瑞希を見つめている。瑞希は困ったような笑みを浮かべると、頭を下げた。
「ごめん。あたしのせいで熱出させちゃったんだし、昨日のお礼ってことで、片付けくらい、やらせてもらってもいいよね?」
瑞希の言葉に、紺野もようやく彼女の意図を理解したらしい。ホッとしたように笑うと、小さく頭を下げた。
「じゃあ、お願いしてもいいですか」




