12月22日 1
12月22日(月)
翌朝。例によって早起きの紺野が洗濯やら何やらごそごそはじめたので、瑞希も自然に目が覚めた。
携帯も持っておらずやることもないので早く寝るしかなかった瑞希も、その音で自然に目が覚めたのだ。
見ると、紺野がかけていたはずの布団が、瑞希にかけられている。瑞希は起き上がってあたりを見回した。程なく、ベランダで洗濯物を干している紺野の後ろ姿が目に入った。
「おはよー、紺野くん」
瑞希が寝ぼけ眼で声をかけると、紺野は笑顔で振り返った。
「おはようございます、瑞希さん」
紺野は最後の洗濯物を干し終えると、かごを持って中に入ってきた。
「すぐに朝食の支度をしますから」
「あ、ありがと……てか、もう大丈夫なの?」
瑞希の言葉に、奥に行きかけた紺野は振り返って、笑った。
「おかげさまで、今朝は三十六度三分でした」
紺野は洗面所にかごを置いてくると、冷蔵庫を開けて食材を取り出し始める。瑞希は慌てて毛布を畳んでしまうと、顔を洗いに洗面所に入った。
☆☆☆
「いただきます」
途中から瑞希も手伝ったので、朝食の支度はあっという間に終わった。二人はちゃぶ台に向かい合わせに座って、手を合わせてあいさつをしてから食べ始めた。
「紺野くん、今日は仕事?」
「ええ。そのつもりです」
「そっか……。何時に出る?」
「今日の出勤は確か八時半なので、八時頃に出れば間に合いますね。職場が近いんで」
瑞希はシャケをつついていた手を止めて、つぶやくように言った。
「じゃ、あたしも出てかなくちゃだね」
紺野も箸を止めて瑞希を見やる。瑞希は目線を落として小さくため息をついたが、振り切るように顔を上げると、やけに明るく笑ってみせた。
「ありがとね、紺野くん。あんたのおかげで助かったよ」
紺野はそんな瑞希の顔を探るように見つめていたが、ややあって、遠慮がちに口を開いた。
「……大丈夫ですか?」
「え? 何が?」
きょとんとして首をかしげた瑞希を、紺野は心配そうに見つめている。
「本当に、出て行っても……」
「? 本当にって?」
紺野はなんと言おうか考え倦ねている様子だったが、ややあって、言いにくそうに口を開いた。
「……もう、変なまね、しないですよね」
瑞希は目をまん丸くすると、シャケが入ったままの口を開けて紺野の顔を見つめた。
「気づいてたの?」
紺野はおずおずとうなずいた。
「あんなところ、釣りもしない人が、普通は入り込みませんから」
「マジで?」
瑞希は箸を置くと、目線を斜め下にそらしている紺野をまじまじと見やった。
「でも、あんた、今までそんなこと、何も聞かなかったじゃん」
「え、それは……」
紺野はちょっと口ごもってから、遠慮がちにこう言った。
「誰でも言いたくないことの一つや二つ、ありますから」
なんだか似つかわしくない言葉を聞いた気がして、瑞希はまじまじと紺野の顔を見た。が、すぐに目線をそらすと、肩をすくめて笑った。
「別に、言ってもいいけどさ。……聞きたい?」
「瑞希さんが話しても大丈夫なら、聞きます。でも言いたくないことは、無理に話さなくていいですよ」
紺野はそう言うと、穏やかな表情でほほ笑んだ。
「なんであろうが、瑞希さんは瑞希さんですから」
瑞希は、その笑顔になんだかドキッとした。頬が熱くほてってくるのが分かって、慌てて目線をそらすと、あえてつっけんどんに吐き捨てる。
「……あんたさ、なんでそんなに優しい訳?」
「え?」
「水に落ちてまで助けてくれて、家にも泊めてくれて、飯も食わせてくれて。そのせいで風邪ひいて熱まで出したのに……こんな得体の知れない、怪しい女なのにさ」
その言葉に、紺野は困ったように笑った。
「得体が知れないだなんて。瑞希さん、いい人ですよ」
「は? いい人って、なんで……」
目を三角にして詰問してくる瑞希に、紺野は優しい笑みを返す。
「ご飯を代わりに作ってくれたり、僕の体を心配して台所で寝てくれたり。僕が仕事していれば何も言わなくても手伝ってくれるし、今朝は起きたらすぐに僕の熱の心配をしてくれたし。優しい人ですよ、瑞希さんは」
そう言うと、紺野は少しだけ目線を落とした。
「僕があなたをうちに連れてきたのは、多分、似ていたからです」
「似てた? 誰に……」
紺野は心なしか自嘲的な笑みを浮かべながら、ぽつりとその問いに答える。
「昔の、自分に」
瑞希は息をのむと、瞬ぎもせず紺野を見つめた。




