12月21日 6
しかし困ったことに、この家には布団は一組しかなかった。夏がけやタオル類を引っ張り出しても、とても二人分の寝具は用意できそうになかった。
「困ったね」
瑞希がため息をつくと、紺野は事も無げに笑った。
「大丈夫ですよ、僕はまた台所で寝ますから」
そんな紺野を、瑞希は横目でジトッとにらむ。
「あんたさー、それで熱出したくせになに言ってんの? またぶりかえすって」
「居間と台所の境の戸を開けてもらえれば、暖房も届きますから」
「それにしたって……」
瑞希はため息をつくと、しばらくの間何か考えているように黙っていたが、ふいに紺野に向き直ると、じっとその顔を見つめた。
「あんた、あたしに絶対手を出さない自信、あるんだよね?」
「……え?」
紺野は一瞬ためらってから、おずおずとうなずいてみせる。それを見た瑞希は、何のこだわりもなくさらっとこう言ってのけた。
「じゃあ、いっしょに寝よ」
紺野は目を丸くして凍り付いた。
「あんたにそれだけ固い意志があるんなら大丈夫。布団は一組しかないんだし、あたしも別にあんたのことを襲ったりしないしさ。それしかないよ。そうしよ」
あまりに屈託なくそう言われて、返す言葉が見つけられずにいた紺野だったが、ややあって、目線を足元に落としたまま、何とも言いにくそうに口を開いた。
「いくら何でも……一晩ずっとは、きつい、です」
「は?」
聞き返したが、紺野はそれ以上何も言えず、真っ赤になって下を向いている。そんな紺野をあっけにとられたように見つめていた瑞希だったが、やがて思いきり吹き出した。
「マジで? つか、あんた、あたしに興味ない訳じゃないんだ?」
紺野はますます真っ赤になって下を向いている。そんな紺野を指さして、瑞希はしばらくの間、腹を抱えて笑っていた。
「あーもう、マジでヤバすぎ……涙出た」
瑞希はやっとのことで笑いをおさめると、にっこり笑ってこう言った。
「分かった。じゃさ、今日は昨日と交代ってことにしよ。あんたが布団で、あたしが台所。その代わり、暖房は来るようにして。それでいいよね?」
紺野は目を丸くして首をぶんぶん振った。
「そんな、ダメです。お客さんを台所に寝かせるなんて」
その言いように、瑞希はまたぷっと吹き出した。
「あたしは客じゃないよ。あたしは、そう……居候ってやつ? 気にしなくていいよ。あたしは風邪ひいてないし、元気だから」
そう言うと瑞希は、まだ何か言いたげな紺野を強引に布団に押し倒すと、その上に問答無用で布団をかぶせた。
「おやすみ、……えっと、紺野くんでいい? 呼び方」
紺野が戸惑いながらもうなずくと、瑞希はにっこり笑った。
「じゃ、おやすみ、紺野くん。明日は、熱が下がってるといいね」
そう言い残すと、瑞希は紺野の返事を待たずに居間の明かりを消した。




