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勇者達の翌朝(新書)・1〜旅立ち編〜  作者: L・ラズライト
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弾けた虚空・5

新書「弾けた虚空」5の1


ヤーイン太子は「消えて」なくなった。


計画に携わった人達だけでなく、メイラン市に対しても、太子の目的や、消えた顛末については、ほぼありのままを話した。ただし、レイホーンの件は伏せておいた。ここで明らかにすると、次に進めなくなるからだ。

魔法に縁遠い、一般のチューヤ人には、にわかに信じ難い話だったろうが、メイラン警察の署長を始め、市の要人は、太子がメイランに来た時、一度は対面していた。その顔と、事件の時に描かれた似顔絵、シントン達の証言を合わせると、俺たちの言うことを信じる気になった。

似顔絵の段階で、警察署長あたりは気づいて良いはずだが、ユーノによると、

「あの時はどう転ぶかわからなかったから、部下に任せて、深入りしなかったんでしょう。」

と言うことだ。

ユーノは、レイホーンが太子の恋人だった、という話しは、噂としては知っていた。彼は、春に昇格研修で、セートゥに一月ほど行っていた。その時、いきなりレイホーンの使いが会いに来た。研修の警官は三人いて、ユーノは前の事件の被害者と親しかったので、選ばれたらしい。断れないので承知したら、シャランとナンを「紹介」された。

レイホーンは、ユーノに以下の説明をしていた。

「太子とは、彼がメイラン行くときに、付き添って行ったのを最後の語らいに、きっちり別れたのだが、妄想癖が激しいので、話が全く通じていない。なんとか中央に戻れば、よりを戻せる、と一方的に考えている。

そのため、手段を選らばず資金稼ぎを始めた。

前回、あれだけ騒ぎを起こしたのに、まだ諦めていない。また、もしも全てが明るみに出たら、姉の四位だけではなく、今の婚約者候補を紹介してくれた二位様にも、二位様の上太子にも、迷惑がかかる。二位様の立場が悪くなれば、三位様の太子が浮上するが、三位様ご本人も、その太子も、『性質が良くない。』ので、皇帝陛下も悩んでいる。

自分にとっても迷惑なので、もう「おしまい」にしたい。」

俺はこれを聞いた時、

「そうなったら、二位夫人が四位夫人を『切り捨て』れば良いだけではないか。」

と思った。婚約はまだ成立していないのだから、二位夫人が共倒れを選ぶ理由はないからだ。前回の展開を考慮すると、太子の真の動機は、皇帝には「見当がついている」と思う。まだ無関係で済ませて、ごまかせると思っているのは、レイホーンだけではないだろうか。死刑になった連中の家族が、金と引き換えに引き下がったのは、相手が皇族で、背後に皇帝がいたから、と見るのが妥当だ。レイホーンは個人の都合を、公の事のようにポーズをつけて言っているだけに見える。

ユーノは、俺に、自分も同じ疑問を持ったし、レイホーンを信用した訳ではないが、この際だから、利用させて貰うことにした、と言った。少なくとも、「人身売買」自体には、レイホーンが関わってはいない、と考えたからだ。

そして、公の話としては、

「コーデラから暗魔法の調査に来た、王室直属の部下(俺達の事だ)が、呪術の正体を見破り、太子の側に探している呪術師がいるのでは、と考えた。『皇族と精神を入れ換える術』なら、皇帝に仇成す動きだと考えられるので、地元が『全面協力』した。」

となり、事後に警察署長と、無理矢理に口裏を合わせた。


このため、俺達は、セートゥに召還された。ただし、ナンとシャランは、屋敷を出たあと、速攻で、ポゥコデラからコーデラに脱出させた。

彼等は、前払いで全額受け取っているため、仕事の後は、レイホーンに会う必要はなかったし、レイホーンには、こちらが「裏」に気づいている事を悟られたくなかったからだ。

俺達は、二手に分かれてセートゥ入りした。一組目はハバンロ、レイーラ、ファイスだ。かつての勇者パーティの武闘家サヤンの息子ハバンロに、神官のレイーラ、土地勘のあるファイスは、表の顔として宮廷に行く。ハバンロの道場から、支部の最高責任者である、タロト師も付き添う事になった。

二組目はユーノ、フーロン、カッシー、俺だ。「裏」から、直接、レイホーンに会いに行く。

ファイスと俺は、最初は逆の予定だった。カッシー曰く、「いかにも騎士」の俺は、表の方が自然だからだ。だが、ファイスは仕事で宮廷に出入りしていたので、顔が知られている。裏に回ると、レイホーンが警戒するかもしれないので、俺と交換になった。

俺達の目的は鉱石だ。レイーラやハバンロは、真相の究明にこだわっていたが、こちらも立場がある以上、『最後まで』付き合うことは出来ない。ユーノ達も、レイホーンを許す気はないようだが、公に処分を求めることは諦めたようだ。ただ、鉱石の件に関して、レイホーンに都合の悪い事実は出てくるだろう。

仲間では、この辺りの機微を承知しているのは、俺とカッシーだけだけかもしれない。

確かに、レイホーンが野放しになるのは釈然としない。だが、反面、コーデラに、つまりグラナドの所に、早く戻りたかった。

せめて連絡だけでも、と思い、セートゥに行けば通信装置を使えるので、期待はしていたが、裏ルートに回った俺は話す機会がなかった。

打ち合わせのために、ハバンロ達の宿舎にこっそり行った時も、俺達が行く前に、通信は終わっていた。ハバンロからは、俺達も話せるようにと、来てから通信する予定だったが、向こうの都合が急に変わって、早めの連絡になった、と聞かされた。

グラナド達も俺達と話したがっていた、とも聞いた。

ファイスは、口には出さなかったが、フーロンを気にして(彼に太子が入ったことにして、レイホーンに面会を申し出ているので)、表裏の交代には、気が進まないようにも見えた。彼は意外に子供好きなようなので、そのせいだと思ったが、ユーノがそれとなく尋ねると、

「娘と同じ名前なので、気になっていた。」

と、さらりと爆弾発言が返ってきた。

「フーロン」は花の名前で、ソウエンでは女性名としてのほうが一般的らしいが、シーチューヤでは、男性名に多かった。

ファイスには、他に息子もいた、と聞いたが、

「せっかくチューヤに来たのに、連絡しなくていいのか?」

と尋ねたら、

「妻も子供達も、もう何年も前に死んでしまったから。」

と返事がかえって来た。

どうやら、彼は、何回か体を入れ換えているらしかった。俺はある程度わかるが、他はぴんと来ないだろうから、ファイスの説明は決して詳しくはなかった。娘の方は「嫁に行く年」になてから死んだらしい。チューヤには、もともと、結婚には、年齢制限がなかった。人身売買の隠れ蓑にされるのを防ぐため、今のシーチューヤでは男女共に、15歳と制限がある。ソウエンもだいたいそのくらいの筈だ。だが、婚約の年齢には制限がないため、婚約を結婚の確定と見なして、同居する場合もある、と聞いている。仮にファイスが15位で子供を作っていたら、あり得る話だが、

「地方に嫁に出したが、トラブルがあって、行方不明になった。探しに行って、シュクシンでようやく見つけたが、体を壊していて、間もなく死んだ。」

と言っていた。さらに、妻と息子は、その前に死んでいた、と続けた。今のファイスの見かけの年齢からすると、微妙なところだが、年が合わない。

だが、誰かが細かい計算をする前に、その話を聞いたフーロンが、自分の話をしだした。

「俺の母親は、俺を産んだ後で、追い出された。理由はわかんないけど、男の子を産んだ後は、用なしだからって、祖母さんに追い出されたって、街の人が、ちらっと言ってた。きついんで、有名な祖母さんだったらしい。

父と祖母さんが死んだ時、孤児院に行く前に、市から母の実家に、引き取れと打診したらしいが、もう別の家に嫁いってしまったから、と、断られた、と聞いてる。

まあどうせ、両親も祖母さんも、顔なんて知らないけどさ。育ててくれたのは、ドナと、グレーネの祖父さんだから。」

ドナは、遠いが、父方の親戚にあたるらしい。

ユーノも、その話を受けて、自分の話をした。

「僕の母は、ドナの店で働いてました。父が死んだからコーデラから流れてきた、と言っていたそうですが、コーデラの言葉はあまりできなかったですね。あまり覚えてませんが。

グレーネの両親は早くに事故で死んで、彼女の祖父は、仕事に行く間、ドナの所に、彼女を預けてました。だから、いつも三人一緒でした。」

彼等が、真相にこだわる理由は理解できた。ただ、明らかにできても、彼らの希望に添うかわからないが。


こうして、表ルートで、ハバンロ達が皇帝に面会している間に、俺達は、裏ルートで元凶と対峙することになった。


ユーノが対面前に、予備知識として、皇帝の回りの人物関係をざっくり説明してくれた。

チューヤの四国の王家・豪族は、いわゆる「一夫多妻制」である(一般市民は、余程の金持ちでないかぎり、妻は一人だった。)が、シーチューヤとソウエンは、正確には「一人の正妻と、多数の側室」である。側室には序列が存在した。

シーチューヤでは、皇帝の場合は、「何位様」と数値の位で呼ばれる、上位の側室がだいたい五~三十人くらいいるのが一般的だが、今の皇帝は「少なめ」で、九位まで置いていた。七位はヤーインの母で、故人だが、寵愛が厚かったため、「欠番」になっている。

皇后は大豪族(大貴族)の娘で、年齢は皇帝と同じ、即位と同時に結婚した。娘が一人いたが、五年前に病死した。他に子供はいなかった。以来、めっきり落ち込み、皇后は伏せ勝ちである。

二位夫人は皇后と皇帝とは子供の頃からの付き合いで、皇后と同時に側室に選出された。父親はソウエンとの戦いで死亡した、勇猛で評判の軍人だった。

彼女には息子が一人いて、上太子に選ばれている。彼の妻は、皇后の親戚の娘で、先日結婚したばかりだ。

三位夫人も、側室になるのは早かったが、田舎の富裕な農民の出で、もとは皇太后に侍女として仕えていた。息子が一人と、娘が一人いた。娘は豪族に嫁いで宮廷を出ていた。息子は上太子より一つ下だが、結婚は早く、皇太后の紹介で、地方官の娘と結婚していた。昨年、女の子が生まれた。

この三位夫人までが、「古株」となる。二位夫人と三位夫人は不仲だったが、立場上、二人とも皇后を補佐する事が多かった。

四位夫人は宝石商の娘、五位夫人は私立歌劇場(伝統的な古典劇を行う国立劇場とは違い、大衆的な歌芝居を上演)の支配人の娘、六位夫人は下級官僚の未亡人だった。この三人はセートゥ出身で、皇帝とは偶然出会った。特に六位夫人は、夫の遺産の事で裁判所に来ていたのを、視察中の皇帝の目に止まる、という、普段ならあり得ない状況で出会った。

彼女たちには男子が無く、四位夫人には一人、五位夫人と六位夫人には娘が二人ずついた。六位夫人には前夫との間に息子が一人いて、皇帝の養子になっているが、当然継承権はない。

今の五位夫人は二代目で、一代目は双子の太子を産んだが、直ぐに死亡した。双子は皇太后が養育していたが、他の兄弟姉妹にくらべ、二人とも体が弱いということで、後継者争いに関しては、名乗りは上げていなかった。

ヤーインの母の七位夫人は、トエン系のサハ族の族長の娘だった。父親の共をして都に来たとき、皇帝に出会い、一目惚れされた。美貌で有名で、寵愛は一番厚かったが、驚くほど野心がなく、生前、権力闘争に関わる事は一切なかった。

八位夫人は、「博士」と呼ばれる学者の娘、九位夫人は金融業者の娘で、二人とも、皇后に侍女として仕えていた。八位夫人は上昇志向が強く、七位夫人、六位夫人に継ぐ美貌と評判で、器量自慢、というやつだった。九位夫人は、読書好きの教養のある女性で、見た目は地味だった。「親が逆」と揶揄されることもあった。この二人には、太子が二人ずついたが、四人とも、十歳にもなっていない。大人しい性格の九位夫人は、息子達は太子ではあっても、上太子に使える者、として扱っていた。だが、八位夫人は、上太子は無理にしても、少しでもいい地位を築こうとていた。このため、よく似た三位夫人と衝突することが増えていた。

四位~六位夫人は、太子がいないこともあって、直接はこの手の争いには加わっていない。

側室の序列は、仮に息子が上太子になったとしても固定である。息子が皇帝になった時は、「皇母」という特別な地位が与えられるが、公式には皇帝の母親は正室だった「皇太后」になるため、実質、具体的な権力はあまりない。ただ、「皇太后」が死亡した場合は、「皇母」が「皇太后」になる。

「皇后陛下がご病気ということもあって、次の『皇太后』は二位夫人で決まりと見なされてる。実際、上太子はもう決定だし、皇后陛下を除けば、二位夫人のご実家が、一番金持ちで、地位が高い。他の側室も一応はそれで納得してる、と言われてたんだけど。」

皇后が倒れてから、二位夫人の比重が上がるに従い、皇后の実家と二位夫人の実家、二位夫人と三位夫人の仲、上太子と三位夫人の太子の仲が、しっくり行かなくなってきた。皇帝は、「背景」のないヤーイン太子への継承も一時考えた、という噂があった。だが、「背景」がないということは「味方」もないということだ。しかも、即位したら、かつての競争相手たちの「背景」も込みで戦わなくてはならない。結果、それは噂だけで終わった。

「そういう噂が流れたのも、三位夫人が急に、二位夫人と張り合うような言動が増えたからなんだ。二位夫人の父親に与えられた土地は鉱山地帯で、広くはないけど、貴重な鉱石がいっぱい取れてた。だけど、そこから都会までの流通ルートは、三位夫人の実家の領地だった。それでバランスが取れてたんだけど、西との交易の関係で、四位夫人の実家の宝石商が力をつけてきた。四位夫人は娘しかいないし、太子争いには関わらないけど、彼女が二位夫人寄りだと、三位夫人の立場に影響がある。

今はあくまでも夫人同士の話だけだが、皇后陛下の健康状態次第では、表面化も時間の問題だと思う。メイラン辺りでは、まだ噂話程度としてしか知られてない。僕はまあ、警官なんかやってると、色々と。

で、三位夫人は、謙虚な人と言われてたんだけど、そんなこんなで、この数年で、人が変わったみたいだ。彼女の長男の太子は、やや軽薄な質で、浮いた話が多かった。人気はあったし、今まで問題にされた事はないけど、上太子を狙ってる、という話が出てるから、そこを批判される事が増えた。

レイホーンが、『三位夫人親子には皇帝も悩んでいる』って言ってたのは、ここから来てる。」

「あら、じゃあ、あながち、でたらめって訳じゃないのね。一応は、説得力のある話だったの。」

カッシーが不思議そうに言った。俺たちは、四位夫人の「控えの間」というところに通され、長くレイホーンを待っていた。そういう場所で、話すにしては、ディープな内容だが、盗聴されている気配もない。

フーロンは何か言いたげだったが、一応、役を被って黙っていた。

「どっちかというと、八位夫人の方が『頭痛』かな。僕だとしたらね。彼女の父親、民族学者のオタ博士って、偉い先生なんだけど、『これ以上、お前が分を弁えないようなら、親子の縁を切る』と言ったらしい。

九位夫人の親は反対に、ポストを要求しては、娘にたしなめられているそうだよ。ラッシルに、『父親の心が正しいほど、娘は自惚れてダメになる。』って諺があるらしいけど、そんな感じだ。」

あったかな、そんな諺。実録として、父親が立派なのにダメだった息子の話はあるけど、と、ユーノに聞き返そうとした時だ。

ようやく、奥への扉が開いた。

女性の甲高い声が、チューヤ語で何か言っていた。が、出てきたのは男性だった。

「トルクン様。」

とユーノが呼び掛けた。

「レイホーン様はおいでにはならないのですか。」

しかし、トルクンと呼ばれた緑の髭(髭の先を染めていた。)の男性は、重い袋を差し出した。恐らく、中身は金だろう。

「これで何分の始末をつけろ。」

と憮然として言った。

「…書状にはっきり書かなかったのもあるでしょうが、レイホーン様にお会いできないと、彼が元に戻りません。」

ユーノの説明に、フーロンが肩を震わせた。彼は、魔法で押さえてある、という設定だったので、何も反応しないようにはしていたが。

「閣下は、興味も関心もない。関係がない。」

トルクンは重い袋を剣で押し出した。閣下とはレイホーンの事だろう。姉の顔か、何か大層な役職についているらしい。

「恐れながら、ご依頼はもともと、レイホーン様より、『二位様と四位様、果ては皇帝陛下のために、誰かがやらなくてはならない、必要な事であった。』と『一応は』聞いています。ご興味やご関心はともかく、責任はおありでしょう。」

ユーノの口調には、嫌みや皮肉に該当するものはなかった。だが、正論を言えば嫌みになる場合がある。これがそうだ。トルクンは目に見えて気分を害していた。

俺はそっと、剣に手をかけた。レイホーンが自分で来ないのは予想外だったが(他人を間に立てるには微妙な用件のため。)、もし出てくるとすれば、戦闘は覚悟していた。一応、表ルートとは別とはいえ、コーデラの王族の使いである俺達に、レイホーンが何かするとは思えないが、俺とカッシーの目的は鉱石の密輸事件、ユーノとフーロンの目的はグレーネの事件の真相、どちらもレイホーンは隠しておきたい物だろう。有無を言わさず始末、というのは最低の予想だが、外国の王家の家臣、ということになっている、俺達がいなかったら、どうだったか。

トルクンは俺の所作を見て、驚いたのか、急に穏やかな口調になり、

「明日、同じ時間に改めて。迎えを出すから、場所を変えて。」

と、さらに金の袋を上乗せして、「平和的に」追い返しにかかった。

屋敷を出た後、道中で、ユーノに、待たされた挙げ句、引き下がった事に対して、フーロンがようやく文句を言っていた。

「レイホーンは、隣の部屋にいたわね。壁のガラス絵が不自然だった。」

と、カッシーが、細かいやり取りを始めた、フーロンとユーノに、仲裁するように話し掛けた。

「何で、出てこなかったんだ?わざわざ明日にする理由もわからないよ。」

とフーロンが問い返した。

「あのトルクンや、身分の高い、彼のお姉さんには、自分が『そそのかした』事が原因だ、とは話してないんでしょう。たぶん、最初にユーノに話した『責任逃れの言い訳』で押し通してるんだと思う。対面したら、『修羅場』になって、自分の責任が、明らかになるでしょ。

本当に太子と添い遂げるつもりだったにしても、太子に成り代わるつもりだったにしても、完全にばれたら、身内の姉でも庇うかどうか。

それか、完全に『罪悪感』が抜け落ちた性格で、『被害者の自分が直接体面してやる義務はない』と思い込んでるのかもしれない。まあ、それにしては、出来すぎた嘘をついてるけど。

次があるとしたら、レイホーン一人で来るかもしれない。」

「あるとしたらって?」

カッシーはフーロンの問いには答えず、剣を抜いた。俺もだ。

脇の薄暗い道から、男が五人、飛び出して来た。剣を持っている。カッシーが二人、俺が二人倒した。ユーノとフーロンで一人捕まえた。口実を与えてやる気はないので、大怪我はさせないようにした。

都合良く、捕らえた一人はトルクンだった。もっと下っ端に任せるかと思っていたので、意外だった。

「手間が省けたわね。こうなったら、明日まで待つ必要はないわね。案内してくれるかしら。レイホーンの所に。…自殺は辞めた方がいいわよ。そうなったら、あたしたちは、あんたを適当に切ってから、ここに置いていく。殺しの罪を被るのは、そこに転がってる部下たちよ?」

トルクンは、黙っていたが、頷いた。ユーノとカッシーで、トルクンの両脇を囲み、背後に俺、前にフーロン。トルクンは無言だが、黙って元の道を進む。

屋敷の敷地に入ると、さっきの建物ではなく、別棟を目指した。改めて見ると、悪趣味な建物だ。セートゥの富豪は高層建築を嫌い、二階建てもあまりないらしいが、それは広い敷地に平屋を建てる事で、権勢を表しているためだ。そういうのは流行り廃りもあり、コーデラにも東方風建築の家はある。だが、この屋敷は二階建て、外装は東方風だが、中途半端に南方風の、華美な装飾や彩色が施されている。モザイクで鬼退治か何かの絵が描かれているようだが、隣にはそれと関係のない風景のレリーフがある。

それに乗っけられたようなコーデラ風のバルコニーは、何だか安い芝居のセットのようだった。トルクンが一言、「あそこだ。」と指した手すりには、乗り出した人がいたが、直ぐに奥に引っ込んだ。

俺は魔法剣を構え、カッシーは盾を出した。何か来るとしたら、ボウガン系だろう。純粋な物理防御は土の盾がないと辛いが、矢が木であれば、火の盾も有効だ。盾は彼女にまかせ、俺は凪ぎ払う事にした。

案の定、正面から小さな矢が数本飛んで来たが、簡単に払えた。ユーノの警察用の物や、昔、キーリが使っていた物に比べ、飛距離も攻撃力も格段に弱い。暗殺未遂に使用した武器程度のものは出るかと思っていたが、側室の縁者とはいえ、皇都でそんな本格的な武器を準備したら、反逆罪を疑われるだろう。

一応、トルクンも守りながら、素早く入り口に行く。木製の扉は鍵もなく、簡単に蹴破れた。

皇帝の権力の大きなチューヤで、わざわざ側室の身内の屋敷に押し入るものはいないと見たのか、コーデラの貴族の家に比べると、簡素な防御だ。

玄関はホールになっている作りは定番だが、ホールの真ん中に螺旋階段がある。

階段にも二人、弓兵がいたが、トルクンの姿を見て、一瞬、躊躇ったが、構えは解かなかった。が、俺が魔法剣で、脇にあった外套かけを、派手に倒して見せたら、怯んだらしく、大人しくなった。

「もう、長々理由付けは、要らないですね。レイホーン様に、会わせてください。殺したりはしません。…こちらの二人は、コーデラ王の部下ですから。」

正確には「女王の部下」か「王子の部下」だが、通じたらしく、弓の二人は武器を引っ込め、道を開ける。トルクンはチューヤ語で何か言った。二人は途端に走り出した。

「自由にしろ、と言っただけだ。逃げるんだろう。」

と、トルクンのは同意のために、ユーノを見た。彼は頷いた。

「路地にほっといた連中も、気が付いたら逃げる。金だけで雇った連中だからな。閣下に対する忠誠心はない。応援を呼んでくることもないだろうが、どうせ、なんらかの『見張り』は張り付いてる。閣下に会いたいなら、早く済ませるんだな。」

「あんたは、どうなんだ?」

俺は尋ねた。口ぶりが、さっきの高飛車な物とは、偉く落差があると不審に思ったからだ。

「俺は、閣下の婚約者の家に恩義のある身だ。それでここにいる。」

彼は抑揚のない声で、だが、さらさらと答えた。今までの話からすると、レイホーンに人間的魅力があるとは思えないが、恋愛面には、強いのだろうか。まあ人気と人間性は、必ずしも両立はしないものだ。

フーロンが、服の下からペンダントを取り出した。太子が持ってたものは砕けてしまったが、ドナが、よく似たガラス製の物を貸してくれた。マリルーのだったらしいが、予定では、これをレイホーンに無言で突きつけるはずだった。これをどうするか、聞くつもりだったのだろう。だが、

「熱い。なんか変だ。」

と彼は言った。ペンダントは、いわゆる「ミルキーホワイト」で、本物よりははっきりと色の揺らめきがわかるものだった。だが、それでも白かった石は、今は紫色に、暗く揺らめいていた。

ユーノの体から、急に紫の煙が出る。フーロンの持っているペンダントと、お互いを繋ぐ縄のように絡む。

奥からも、叫び声が聞こえた。

煙は、ペンダントに集まっていた。フーロンが離さないので、俺は彼の腕に魔法をぶつけて、床に落とさせた。そのまま彼を引っ張り、水の盾で防御した。ユーノは倒れていたが、意識はしっかりしていた。

「何か変だと…。調子が。」

「早く、言いなさいよ、そういうことは!」

「何だ、何があったんだ!」

ユーノはカッシーに支えられ、トルクンは二人に詰め寄っている。俺は、フーロンに

「気がついていたか?」

と言ったが、彼はは

「まさか。気づいていたら。」

と動揺して答えた。答えてしまうと我にかえり、ユーノに寄り添い、カッシーと交代する。

階段から、人が転がり落ちてくる。少年が三人。お揃いの服を着ている。小姓らしい。そして、彼らを追うように、「玉」が飛んできた。

「玉」は、妙に煌めいていた。平べったいのは、水の盾に阻まれて止まった。丸い大粒の(苺の実程度の大きさ)物は、盾に当たって弾んだが、地面に落ちた時は、ただの玉になっていた。宝石のようだ。弾丸ほどのスピードはなかった。落ちたものから、一瞬、儚く紫の煙が上がるのが見えた。

床のペンダントを見る。吸収はしていない。オリガライトでないから、それは当然だ。だが、まとわりついていた煙は、縄のように、ペンダントから二階を目指して登って行った。玉は数は減り、勢いは弱まったが、まだなお、飛んでくる。

少年三人は、トルクンを見つけ、駆け寄り、口々に事情を説明したが、トルクンは「一人ずつ。」と短く言った。

「レイホーン様がいきなり首を吊ろうとしたから、縄を切って止めたんです。」

「でも、体重のせいで、床にどんと落下し、気絶しました。嫌な音がして、変な煙が出始めて。」

「煙に触ると、壁の絵からモザイクが外れ、棚から宝石が飛び出して、跳ね回り始めたんです。」

それで二階から逃げてきたらしい。

飛び石は、一度落とせば、動かなくなった。土のエレメント戦で無生物が襲って来た時と、チブアビの事件で、肉片が襲ってきた時の事を思い出した。だが、それとは同じ無生物でも、様子が違う。目の前のこれには、土のエレメントは絡んでないからだろう。

「君、俺達の仲間に、連絡、取れるか?」

俺はトルクンに言った。この屋敷は四位夫人のもので、彼女が家族のために建てたものだろう。ファイス達は今は王宮にいるはずだ。ここは王宮からは近い。トルクンが夜に急に王宮に出入りできるか、という意味だったが、

「二位様になら、本館の連絡装置を使えば。」

と返ってきた。

「なんでもいいから、ファイスとレイーラ、ハバンロの三人を呼んでくれ。顔は解るな?」

俺は、そう言って、トルクンと少年三人を外に出した。どうせこれは非常事態、監視もあるなら、直ぐにばれて、「見張り」が来る。呼ばなくても、彼らは来るかもしれないが。

トルクンは、逃げ出すかもしれないが、どうやら「裏切れない立場」らしいし、素直にファイス達を呼んでくると見た。

「で、どうするの?ファイス達が来るまで、ここで防戦一方?」

「そうだな。かなり『弱そう』だから、オリガライトの件を抜きで考えたら、僕達だけでもなんとかなるレベルとは思うが。」

「それがあるなら、待った方がいいわね。でも、この分だと、どっちにしても、あまり収穫は…。」

カッシーとの会話の途中、ユーノが飛び出した。フーロンが呼び止める声がホールに響く。さっきまで、ぐったりしていたユーノが走り出したのだから、中身は彼でないかもしれない、そう思い、後を追った。

装飾過多の螺旋階段を駆け上がり、迷わず廊下を曲がり、弾をよけて、アーチ型の複数の入り口の中から、特定の部屋を選んだ。

ドアのないその部屋は、一面、モザイクの壁だった。ただ、神話の風景を表したモザイクからは、石は殆ど外れていた。龍らしき生物は、手描きの目と髭の部分しか、残っていない。

中心は椅子とテーブルが転がっている。ガラス絵のランプの光が、青白い。ガラスが一分、砕けているせいで、明るかった。

椅子の所に、紫色の服の人物がが倒れていた。髷の結い方と、服装で、チューヤの男性と判断できた。少し髭もある。

飛び石は勢いを増していたが、部屋の中には、つぶてになるような物は、殆どないようだ。最後のひとつを叩き落とすと、何も飛んでこなくなった。

ユーノは、入り口と椅子の中間の位置で膝を折り、座り込んでいる。フーロンが彼を守るように支え、空中、薄く弱い煙の渦に向かい、

「会えたんだ!これでいいんだろ!ユーノは返せ!」

と叫んでいた。

本当に薄くて見えないが、渦から細い腕が出て、ユーノを捕らえようとしていた。

俺は、彼らと渦の間に入り、魔法剣で払った。カッシーも火をぶつけていた。だが、攻撃の効果を確かめる前に、渦は急に濃さを増して纏まり、ガラス窓を割りながら、外に向かった。

さっき、外から見たバルコニーだ。来るときは見えなかったが、人工の大きな池があり、水上に橋がある。池の真ん中に延びているが、先に何があるかはよくわからない。

池の手前、低木の茂みの所に、十数人位の人影が見える。明かりが一つ二つ、どんどん増えていく。

「ラズーリ!ラズーリさん!」

ハバンロの声だ。

茂みの所からこちらに走り、必死で手を降る。

飛び降りようとしたが、カッシーが背後から、階段、と声をかけた。

バルコニーから横に螺旋階段が出ていた。俺は駆け降り、半ばでハバンロと対面した。

「早かったな。」

「実は、皇帝陛下の監視部隊が、この屋敷に、ずっと張り込み中でしてな。ファイスさんの知り合いが部隊にいて、交代のついでに、強引に着いてきたのです。貴方達に連絡するタイミングがなくて、すいませんでした。」

すると、トルクンとは「ボタンの掛け違い」状態か。監視がある、というのは当たったが、皇帝の直属が、中に入り込んでいたとは気付かなかったようだ。

茂みを走り、池の縁に着く。レイーラとファイスの姿もある。ファイスは盾を構えていた。眼が銀色だ。彼が魔法を発動させたから、煙は外に向かったのだろう、と思ったが、彼は、

「部隊が持ってきた道具に、集積器に似たものがあった。ユリアヌスの物と違い、直ぐに壊れてしまったが。…あの状態になった理由は謎だ。」

隊長らしき人物が、

「もう隠れる必要はないと言っただろう!明かりは全部点けてしまえ、解らんか!」

と怒鳴っていた。湖面に浮かぶように、煙が集まっていた。

「彼も、部下達も、魔法戦闘の経験がなくてな。集積器があるなら、と、一応、エレメントの話とオリガライトの話はしたんだが。俺は君ほど、説明がうまくないから。」

と、ファイスが隊長を指して、小声で言った。レイーラが、

「大変、怪我を?」

と、俺の背後に声をかける。カッシーが怪我を、と思ったが、彼女ではなく、フーロンに支えられたユーノを見ての事だった。

カッシーは、レイーラに向けて、ユーノの中に、ヤーインの欠片が残っていたようで、と説明していた。口実に使っていた話が、偶然、一部だが、当たったようだ。

「そっちは、彼女達に任せましょう。あちらは、簡単にはいかないようですぞ。」

ハバンロは、池を指した。水上の渦は、大きく濃くなりつつある。物を動かす力は弱かったはずだが、触手のようにのび、縁の兵士を狙い出した。レイーラが治療を終えて、取って返して聖魔法を使う。気功や魔法剣でも触手は散るが、結局きりがない。

兵士は何人か絡め取られたが、引きずり込まれる訳ではなく、また入り込むほど強くない。だが、魔法になれていない兵士は、やたら剣を振り回し、仲間を切ってしまう者もいた。冷静な兵士は、

「落ち着け、池から離れろ!」

と、ユーノとフーロンを連れて、安全圏に下がったカッシーの方を指し、

「あそこまで行け!」

と誘導している。

俺は水の盾で阻みながら、兵士に近づき、落ち着かせてから、安全圏に逃がした。これを繰り返そうとした時だった。

「隊長!水の中です!何かあります!」

明かりが一斉に湖面を照らす。照り返されてかえって見えない、と隊長が言う。別の兵士が、「これを水中に。」と、何かの装置を水に放り込んだ。

水中用の照明のようだ。ファイスが、

「密輸品の捜査に使う装置だ。」

と言った。水中が照らされ、煙の塊の下、木か金属かわからないが、箱が、いくつか見える。煙は、先細りだが、箱に向かって延びていた。触手部分よりずっと細く、目立たないので分かりにくいが、光に筋道が照らされ、赤く光っていた。

「中身、オリガライトか。」

俺は言った。密輸品を要人の屋敷の庭に、堂々と隠している、信じがたい話しが、現に目の前にある。

「箱の蓋を壊そう。今までの例からしたら、暗魔法は単独じゃなく、属性魔法と連携している。幸い、今回のはあまり強くないし、属性魔法の分を吸収させてしまえばいい。」

俺の提案に、ハバンロが気功を向けたが、水に阻まれて、箱を壊すまでにはならない。

急にファイスが、上着と盾を置いて、剣だけを持ち、水に飛び込んだ。

俺とハバンロは、レイーラを背後に守った。ファイスは、二回、息継ぎに浮上していた。

三回目に彼が潜った時、水中で、何かが光った。一瞬、水柱が高く上がったと思うと、水に煽られた煙が、最後の悪あがきとばかりに、鞭のようにしなって、打ち付けてきた。エレメントが吸い込まれて自由になった暗魔法の、白鳥の歌だ。

ハバンロが気功で勢いよく飛ばす。俺は魔法剣で払ったあと、次に備えて、水の盾に切り替えた。カッシーが、火の玉を放つ。明かりのためだったろうが、光の軌道に添い、残りの鞭の指向性が、俺達から火の玉に向かった。

レイーラが、すっと手をあげて、聖魔法を――ではなく、歌いながら、優雅に、柔らかな光を出した。聖魔法か、シレーヌ術か。はたまた両方か。鞭は、彼女に向かったが、打ち付けるどころか、緩やかに四散し、無数の光の粒になる。そして、消えていった。

俺はまず、レイーラの無事を確かめた。それから、ユーノとフーロンを振り返った。

ユーノは、辛そうにフーロンに持たれていた。フーロンは、宙を見つめている。

彼等の前に、盾のように、透明な光があった。色みのない、しかし朗々とした光。

「グレーネ…!」

二人は、同時に呟いた。光は、僅かに二人を包むように広がり、そして、消えていった。

「どうりで、妙に奴等が、弱かったわけね…。」

カッシーが、驚きを隠せぬ様子で、誰にともなく言った。俺は、光が人の姿になっていたようには見えなかったし、見えたとしても、カッシーの想像しているような事は、思い付かなかったろう。

「ファイスは?」

レイーラの声がした。池を振り返る。隊長が明かり、と叫んだ。

ファイスが、丁度上がってきた。髪を束ねていた紐が、水を吸ったせいか、緩んで下がっていた。薄いシャツが切れていた。彼はシャツを脱いで、剣を拭いた。

「誰か拭くもの…予備の服なんて、持ってないわよね?」

と、カッシーが、兵士に話しかけていた。

「この際だし、中で借りましょう。」

と、ハバンロが言い、兵士の一人と、階段を上がった。タオルは、侍女風の女性が、俺に渡してきた。彼女は、直ぐにハバンロ達を追いかけて、

「服なら、一階の、金の網模様の花瓶の、横の扉の部屋に…」

と言っている。「内偵」というやつだったのかもしれない。

俺はファイスにタオルを渡した。

「水が綺麗に、透き通っていて助かった。」

と言っていた。今なら風邪はひかないだろうが、もう夜の水泳が、百パーセント気持ちのよい時期ではない。濡れた物はさっさと脱いで、さっき盾と一緒に置いていた、上着を羽織ろうとした。

その時、怪我に気付いた。左肩から鎖骨にかけて、僅かに細い傷が出来ている。指摘する前に、タオルの血でわかったようだ。

「木箱の破片にぶつかったから。その時のかすり傷だ。」

俺は、彼に水の回復魔法をかけた。傷が治ると、彼は礼を言った。

改めて見ると、盾持ちの剣士の割りには、痩せている、と思った。だいたい、アリョンシャと同じ位か。彼も痩身の剣士だった。わずかだが、彼は俺より背は低かった。ファイスは俺より長身だ。だから、余計に細く見えるのか。

また怪我に気付いた。心臓の下に、傷が出来ている。回復しようとしたが、

「古傷だ。眼と同じで、色が変わってしまうから、間違いやすいが。」

と言われた。見ると、ファイスの眼は、名残の銀光を残していた。俺達はもう慣れてしまったが、先程の侍女の女性が、ファイスではなく、俺の方にタオルを渡した理由が見えた。

「ファイス、ひょっとしてなんだが、君は、俺の『同業者』か?」

前から聞こうと思ってたこと、いい機会だから、聞いてしまった。ファイスは、一瞬戸惑った後、

「いや、違う。妻子がいた話は、しただろう?」

と、天然な返事を返した。

「いや、違う。」

今度は、俺が言う番だ。

「今、この世界にいる原因が、俺と同じかという意味だ。」

だが、ファイスはきょとんとしていた。ああ、これは違う、と思った。

「ラズーリ、俺は君の理由をわかってるわけじゃないが…たぶん、違うと思う。成り立ちからして。」

すると、もう一つの可能性か。把握のため、そこを詳しく聞きたかったが、ハバンロが屋敷から服を拝借してきたので、ファイスは彼の方に行った。

俺は、彼に着いて屋敷に向かうまでに、一度、湖水を振り返った。兵士たちが懸命に、水中から箱をあげている。その向こうに、月が出ていた。

月は、グレーネの名残のように、清らかな光を、水面に落としていた。


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