魔女の弟子②
前回の続き、魔女とカールの昔の話です。
魔女の発言により彼女に対しての警戒心が和らいだ状態で魔女をよく見てると、僕を生贄にしようとした魔女たちとの明らかな違いが目につき始めた。
まず、彼女のローブは黒くない。
村の魔女たちは恐怖を感じさせるほどの綺麗な漆黒のローブで、人によっては刺繍などもついていた。
顔も化粧をしていたし、爪も長く色がついていた。
一方目の前の魔女はというと。
ローブは埃っぽくて、どう見ても薄汚れた結果黒くなってしまったローブだし、洒落っ気など一切なく顔もそのままで爪は仕事のしやすそうな整えられた状態。
その時―――窓から入ってきた風が、魔女の深く被っていたフードをめくった。
「あぁ、いい風だ。」
風にあおられた髪は、まるで凪いだ夜の海のように深い藍色をしていて、
瞳は海に映る月のようで―――――
黒いローブに惑わされ、まるで怪物のように思っていた相手が、若い女性だったとは夢にも思わず、戸惑いが隠せなかった。
「お、」
「ん?どうした。そんなに目を見開いて・・・・・・」
「お、お若いんですね・・・・・・魔女さん。」
「そうか?だが魔女は普通の人間よりゆっくり歳をとるからな。これでも私はお前の母親より生きていると思うぞ。」
自分の母親の事など欠片ほども記憶がないが、要するに見た目と年齢がかなり離れているということだろう・・・・・・
「あー、そういえば私の事を何も話していなかったな・・・・・・」
魔女が語った内容はこうだ。
この魔女は、魔女とはいうものの悪魔信仰を嫌い、ほかの魔女たちとは敵対状態だという。
近隣の村から、例の村の様子を見てきてほしいと頼まれて、あの村を訪れた際に僕を保護したということだ。
この魔女は人間とも魔女とも相容れない存在の為、この森に一人きりで長いこと暮らしていて、大体の物は自給自足でどうにかしている。
が、そうもいかないものも多少あり、近隣の村からたまに来る依頼をこなして小銭を稼いで、自分で調達するのが難しいものは揃えているとのこと。
悪魔と魔女の間の子で生まれつきの魔女であり、好きで魔女になったわけではなく、むしろどうにか悪魔を倒せないかと画策しているのだということ。
僕についてはとりあえず見捨てるわけにもいかないから保護したが、行く先があるなら好きにしろ、もし無いなら一人で生きていけるようになるまではここに置いてもいいが、子供とはいえ他人なのだから自分がここに住むに必要な分の労働はしてもらう。
そう魔女は告げた。
当然行く当てなど全くなく、魔女の話を聞く限りひとまず警戒すべきところも見当たらなかったので世話になることにした。
「あの、質問が」
「なんだ?」
「お名前をお聞きしてもいいですか?」
聞いた途端、魔女の顔がわずかに歪んだ気がした。
「―――名前などない、魔女だからな。」
ではどう呼べばいいのかと尋ねたら、人からは「霧の森の魔女」と呼ばれているらしい。
呼び方を悩んでいたら、「お前の名前はなんだ」と尋ねられた。
しかし名前など存在しないのでその旨を伝えると、魔女は少し考えてから
「では私が名前を付けてやろう。」
と告げた。結果その後三時間程唸りながら本を広げ続けた魔女だったが、後に「カール」という名前を付けてくれた。自由、という意味らしい。
「ではカール、少し町に出ようか。必要なものを買いに行こう。」
魔女はそう言って、手を差し出した。
秋の西日が、窓から入り込んできて魔女の夜の髪を照らす。
僕にはそれがまるで、夜明けの海のように思えたのだ。
挿絵とルビ付けてみました!上手くできただろうか( ^ω^)・・・




