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霧の森には魔女が住む






「うっ・・・・・・い、ぐぁ、あぁ・・・・・・!!!し、しぬ・・・・・・!!!た、たすけ・・・・・・!!!」






乱雑に物が散らかる部屋の中、一人の男が魔法陣の上に転がされている。一人の魔女がその横で手をかざすし、何かを唱えーーーー






*************************



「たかがギックリ腰で喚くな、見苦しい。」


「いやぁ〜助かった!有難うな、先生!」


「お疲れ様でした、良ければお茶をどうぞ」




奥の部屋から茶を持って出てきた絹糸のような白金色の髪に端整な顔立ちの男は魔女の助手である。名をカールと言う。


このみすぼらしい庵には似合わないどこかの騎士かのような風貌をしており、最近では魔女の助手という胡散臭さにも関わらず、近隣の村の女性から度々求婚されている姿が目撃されている。

ちなみに今この庵を訪ねている男の娘も、この男の風貌の被害者である。


魔女を先生と呼んで慕っており、「先生の世話」を理由に全ての誘いを断っている。





カールは魔女と客に茶を出した。

猫舌の魔女でも飲みやすい温度になっている。




「ありがとう、カール」


「相変わらず坊主は気が利くなぁ!こりゃあ婿どころか嫁に行っても困らんなあ、先生!」


「あぁ、カールは私の自慢だ。」


「ここを出る気はありませんが、・・・・・・ありがとうございます」


普段から口数の少ない師に褒められ、満更でもない様子のカールだった。






カールは、幼い頃に魔女が近隣の村跡で拾ってきた子供だった。

その村では悪魔信仰を狂信する者たちが集まり、集会が行われていたのだった。

所謂サバトである。

その際の貢物として用意された子供のひとりが、カールだった。



この魔女は(魔女らしからぬが)、悪魔を目の敵にしているためにその集会には参加していなかった。


だがサバトから数日後に、村人から「なんだかおかしいので様子を見てきて欲しい」と頼まれたため仕方なくその村に向かった。



すると、村は全焼していた。



呼びかけに応じた悪魔が暴れたのだろう。

三日以上が過ぎているにも関わらず火は今なお燃え盛っていた。


悪魔と魔女がもたらした災害となれば、動かないわけにはいかない。

動かなければ自分にも汚名が降りかかるだろう、魔女は村の中の生存者を探した。


結果から言えば、生きていたのは生贄として用意されたはずの子供のカールのみだった。

カールは儀式の直前、いやその間際に生じた隙を見て抜け出し、すぐ横の森に逃げ延びていた。


幸いにも悪魔の炎は主人が燃やすと決めたものしか燃やさず、森には火の手が及ばなかったのだ。


まともに口も利けなくなっていたカールを見過ごすわけにもいかず、魔女はしばらく庵にてその子供の世話をすることになったのだった。




「もうすっかり立派になったのだから、出て行けばいいものを・・・・・・」


「なにかおっしゃいましたか?先生。」


「なんでもない、それより今回の治療費なんだがな親方。」




先ほどギックリ腰を完治させた男は、しばらくぶりに動かす身体の調子を見ていた。男は村で大工の親方をしている。



「おう、なんでえ。その言い方だとどこか直して欲しい所でもあるのか?」


「あぁ、近々嵐が来るようだから屋根をな。よろしく頼む。」




魔女の治療費、薬代は時折こういった働きによる等価交換で支払われる。

魔女は悪魔を目の敵にしているため黒魔術を一切使わない代わりに、白魔術を極めていた。

その白魔術の評判から、支払いが難しいくとも藁にもすがる気持ちで依頼に来る人間がいるためこのような方法をとったのだった。


悪魔を敵視し、同じ魔女に忌み嫌われる身としては、近隣住民からの信頼を得られるのは好都合だった。


ギックリ腰から全快した親方は屋根を綺麗に直し、更に床の軋みまで直して帰っていった。

声はでかいが、基本的に気のいい親父である。声はでかいが。



「先生、お疲れでしょう?少し座って休まれてください」



弟子のカールが椅子を引く、その席の前には新たにいれられたお茶と茶菓子があった。


魔女の仕事には頭を使うため、甘い茶菓子が欲しくなる。決して甘党なわけではない。

だが、カールはそんな魔女の好みと気持ちもしっかり抑え、甘過ぎない菓子にも見える甘い菓子をいつも用意しているのだった。



「あぁ、美味しいな。なぜカールは私好みの味をこんなにもわかっているんだ・・・・・・」


「毎日一緒にいるのですからこのくらい当然ですよ。」



ニッコリと微笑むカールだったが、その笑みに幼い頃の無邪気さは無い。

しかし人間の気持ちに鈍感な魔女にはそんなことはわからないのだった。



「もうお前も立派になった。これだけ美味い菓子が作れるんだ、それこそ街にでも行けば料理人にもなれるだろう。まぁお前ならなんにだってなれるだろうが・・・・・・私の元にいつまでもいる必要はないのだぞ。」


「いえ僕は先生の魔術を習いた・・・・・・」


「それだけはダメだ。」



魔女はピシャリと言い放つ。生まれついての魔女である彼女は、普通の人間であるカールを魔女になど、したくはなかった。

魔女が使うのは白魔術だけ、とはいえ魔術は魔術だ。

程度が違うとはいえ、人の理に反する行いであることは変わらない。



一度関わってしまえば、もう真っ当な人間になど戻れない。



カールには、そんな道を歩んで欲しくなどない。

だからこそ早くこの庵を出て、魔女と関わりのない人生を歩んで欲しい。



そう思っているのだが、カールは一向に出て行こうとしない。

本人に聞いたところ、魔女を捨て置けるわけがないとのこと。

自分の生活力やらを思うと非常に耳が痛い魔女だった。


前回が序章だったので、今回が1話みたいなものですね!この時間軸が本編となります。

前回出てきた女の子が今話の魔女です!魔女の名前出せませんでした!無念…次話で出せるかな?



用語解説(⚠この世界のみの創作設定です)


魔女、悪魔と契約した者・悪魔と人間の契約時に生まれた子供

サバト、魔女の集会。黒ミサとかします。

白魔術、悪魔の知恵を借りた魔法。比較的人道的なもの。

黒魔術、悪魔の力を借りた魔法。生贄などの代償が重く、非人道的。



魔女は基本的に悪魔を崇拝信仰し、力を借りるものですが、主人公魔女は悪魔を毛嫌いしていますので崇拝信仰していません。よって近隣の魔女に嫌われています。


嫌ってるのになんで白魔術は使うのか→後々出すつもりですが、知恵は一度知れば何度でも使えるからです。新たに悪魔の力を借りることは拒みます。

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