好奇心と希望と過去
少年、新城 守がギャングによって、この魔法の世界に連れ去られたきた、あの日が2週間ほど前となった。
魔法界東部日本課犯罪取り締まり局で、その少年を追っているアレクシス・V・シャルロッテは未だ少年のまともな情報を得られていなかった。
その間少年は時計屋の手伝いをし、時計屋の隠し部屋に住んでいた。
だがそんな生活はあっという間に終わりを迎え、守は今日から学校で生活をすることになった。
そこは、レンガ造りの建物の並ぶミッドベルと鉄の壁が立ち並ぶゴッヅラインの狭間にある。
少年はおじいさんに手を引かれ、人混みの中、おじいさんから貰った、学校の制服を着て、そのフードを被る。
守は魔法使いらしい、このフード付きの制服をとても気に入っていた。
学校。魔法を学ぶ学校だ。楽しいに決まっているだろう。きっと、そうだろう。
今の僕には自分にそう言い聞かせるほかなかった。
魔法の学校といえ集団というものとまた向き合わねばならないという事に僕は一歩進むごとに、とても憂鬱な気持ちになっていった。
僕は、いくつかの辛いことを受け入れる間もなく、今この人混みを歩いている。
どうしようもない事実は僕の首を力一杯に絞める。
憂鬱な気持ちはそれを更に強くする。
ふと工場の臭いと音に気づく。
僕らはどんどんと近づいているんだ。
学校。
僕は1年、それと2、3ヶ月程前かな。
思い出す。最後のあの日を。
「いってきます。」
「いってらっしゃい。」
僕は仕事に行くお父さんを見送り、朝、星座の占いを見た後、部屋の電気をすべて消したことと、炊飯器の時間を設定したことを最後に確認して、学校へ行く。
鍵を閉める。
なんとなく指差し確認をしてみる。
階段を降りる。
マンションを出ると大きな道路が目の前にある。
そこを右に曲がりまっすぐに行くと僕の学校が見えてくる。
僕はクラスの中心にいるようなタイプじゃない。中心からは随分と離れてるだろう。僕には親友がいた。一人の、大切な。
「よお、守!」
「おはよう、樋口。」
彼は樋口圭介。
幼い時からの親友だ。
彼は僕と違って、とても明るい性格だった。
クラスの中心のみんなとも、仲が良かったけれど、彼はずっと僕と一緒にいてくれた。僕と二人で。
そう彼はとても優しいのだ。とても。
その優しさは誰にも真似ができない。
子供である事は恐ろしい。
僕は子供ながらにそう思った。
嫉妬、というのだろうか。
みんなは、彼を嫌うようになった。
その真似できない優しさを羨ましく思ったんだ。
欲しいものが手に入らなかった子供達は機嫌を損ねた。
僕は彼のそばにいるしかなかったんだ。
だから、僕は彼と共に辛い思いをした。
まあ、でも、僕は彼ほどの思いはしてなかったかもな。
「今日は先生から大事なお話があります。」
彼は僕を置いて消えてった。
行方不明だそうだ。
彼は…。
もう僕は、僕が、此処に居ることが、僕にとって、無理だということが、わかった。
先生の話が終わる頃には僕は外を走っていた。
誰の声も聞こえなかった。
自分の足音と息遣いすらも、
なにも聞こえなかったんだ、あの日のあの時は。
「およびでしょうか、ギャビン様。」
「そっちの様子がどうだか気になってね、」
「現時点でも少年の情報は一切入ってません。」
「そうか、装置はどうだ。」
「やはり近年の魔力の質と装置の相性が良くなく、とても魔力の効率が悪いので安全に起動するのには時間がとてつもなくかかりそうです。」
「余裕はあるんだな、」
「ええ、とても。」
「いつもお前は良い仕事をしてくれる。有難う、トリスタン。」