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第5話

「糞遅すぎやしませんかね」


 開口一番、シュウヤは座ったまま不平を漏らした。

 こいつ、買ってきてもらった身分で偉そうにしやがって何様のつもりだ、あぁん。


「で、その娘なに?」


 冷めた目で俺を見るシュウヤくん。


 ……うん、まぁ少しは俺も寄り道しちゃったし悪かったかな。ごめんねシューちゃん。


「あの、はじめまして。アヤって言います。

 カリヤさんとは…………あれ、なんで一緒にいるんでしたっけ?」


 成り行きです。


「買出し手伝ってもらったんだよ。ミヤは?」


「……………………ウェェェェイ系の人にお持ち帰りされた」


「おま」


 マジかよ。悲しすぎるだろ、それ。


「それでお前一人でいたのか?」


「うん」


 ふっとすべてを悟った顔でシュウヤが笑った。

 体育座りの青年に冷たい影がさす。


 ……辛い。聞いてるだけで辛い。死んでしまう。ホント泣きそうになるわ。もうやめて。


「ほ、ほれ、ビール買ってきたぞ! カルパスもあるぞ! 飲め!! 食え!!」


 たまらなくなって、俺は荷物をひっくり返して次々と買ってみたものをシュウヤに手渡した。


「たこわさは?」


「……たこわさは売り切れてましたな」


 ちょっとした意地悪でタヤの差し入れに置いてきてしまったのだが、とてもそんなこと言える雰囲気ではない。


「あの、シュウヤさん、よかったらこれどうぞ……」


 おお、アヤさんの謎チョイス、厚焼き玉子(甘)じゃねーか。

 バックに入った一口サイズに切り出された玉子を差し出されて、シュウヤが手に取った。


「……甘い」


 言うてお前、表情がしょっぱすぎるわ。

 アヤさんも激困りじゃないですか。

 

 どうしたもんかと俺たちが思っていたところ、事態は勝手に解決した。


「あれ? 一人増えてる?」


 声に振り返ると、ミヤがいた。

 両手下げているビニール袋からは缶ビールが見える。


「どしたんだよそれ。つか、お前ナンパは?」


「これはそこでもらってきたんだよ。ナンパってなに?」


 本気でわかっていない様子だったので、俺とアヤさんはシュウヤを見た。


「さ、さっきウリイイイイイイイイ系のあんちゃんについてったじゃん!」


 ディオかよ。そりゃ付いてくわ。


「え、だってビール余ってるって言うし。だからそれもらって、ちょっと話して戻ってきたんだけど?」


「…………へぇ……あ、そうですか」


「なんつーか……ま、お疲れ」


「お疲れ様です」


「なんで何もしてないシュウヤが労われてるの?」




 ◇ ◇ ◇




「1ニョッキ!! ……っしゃああこいやおらああああああああああああああああああ!!!」


 俺は速攻を制して思わず勝利の雄叫びを上げる。


「あははははははははははは!! 何も来ないし!!」


 なぜかミヤに指差されて爆笑される。


 ……ふん、いくらでも笑うがいいわ。最後に笑うのはこの、俺だ。


「よかったねぇ、カリヤ」


「とうとうやりましたね、カリヤさん!」


 ふふふ、二人の祝福の声が心地いいわ。

 通算50……60戦目くらいいったか? とにかく俺は5連勝をおさめた。俺が王だ。


「いやぁ、俺ももうカリヤの尻にポッキー突っ込みたくないからさ。ホント勝ってくれてよかったよ」


「私も一発ギャグやってくださいとか命令しなくて済んでよかったです」


 ミヤはともかく、アヤさんはさらっと鬼畜な命令出すよね。酒飲んでてもシラケるときだってあるんですよ。


「さぁあて、外野がなんか言ってるけど俺のターンだ。

 ……じゃぁ、まぁこいつでやってもらおうか」


「お、ポッキーゲーム? どっちを指名するの?」


「あ? どっちもに決まってんだろ」


「ええ!? 二人ともやらせるの? 三人ポッキーとかなにそれ見たい!!」


「え、えぇぇ……」


「えろーい」


「アホかてめぇ!! アヤさんにガチ引きされてるじゃねぇか!!

 ………………無論、アヤさんとミヤにやってもらうのさ」


「それでなんでカリヤが頬染めてるのよ」


「ばっか、おめー!! なんかこう……尊い、だろ」


 思わずぐぐぐっと拳を握る俺に、ミヤが白い目を向けてくる。


「うっわ、ガチテンションですよこの人。アヤちゃん、嫌なら断ってもいいからね」


「い、いえ…………タヤさんのところからずっとこうでしたので。もう慣れました」


 気のせいか、アヤさんの目の焦点が合ってない気がするけど深くは気にしないでおこう。




 ◇ ◇ ◇




 夕方近くなってきて、さすがに冷えてきた。

 俺はハイボール缶をちびちび飲みながら、まったりしていた。

 シュウヤはタヤのところに旅立っている。今日はミヤのおかげで死ぬ想いしたから砕けて死んでもいいそうだ。南無。

 ミヤは寝てる。無駄に安らかで小さな寝息なのが意外だ。起きてるときは糞うるさかったくせに。


「寒くないですか?」

 

 アヤさんは正座を崩したような感じで座っている。横座りって言うんだっけ。


「俺は平気。そっちこそ平気? 上着貸そうか」


「いえ、大丈夫です。ミヤさんがあったかいですから」


 ふふふ、と笑ってアヤさんは膝にのっかているミヤの頭を優しく撫でた。

 ミヤ、完全に無反応。超爆睡してやがりますね、こいつは。


「カリヤさんは、向こうに行かなくてよかったんですか?

 シュウヤさんが来て欲しそうにしてましたけど」


「俺はもうタヤとは絡んだし、十分だよ。シュウヤだって向こう行けばすぐ溶け込むだろうし問題ないだろ。

 アヤさんこそ行かなくていいのか? もうおっさんもいないみたいだったぞ」


「私もいいです。それにミヤさんを放ってはおけませんし」


「別にいいんじゃねーの。どうせその辺に転がしても起きないだろ、そいつ。一応俺残るし。

 あっちは女子もいっぱいいるし。まだ時間あるんだから楽しんできなよ」


 俺は一気にハイボールを煽ってカラ缶を置くと、アヤさんがじぃぃっと俺を半眼で見ていた。


「…………なんだか私をこの場から遠ざけようとしているように聞こえるんですけど。

 もしかして、ミヤさんによからぬことでもしようとか思ってます?」


「誤解すぎる。そこの腐れに俺は一切の性欲は湧かん。

 普通にないな」


「腐れ? ……でもその割りには、あのときガッツポーズしてたじゃないですか。何度も何度も」


 アヤさんがかぁぁぁっと赤くなる。


「いや。いやいやいやいや、それは別だから。別ですよ」


 あのとき、というのは勿論アヤさんとミヤのポッキーゲームのときだ。

 あんなの直視したら、普通の男ならガッツポーズくらいするだろ。しないやつはちんちんついてない奴だけだ。


「だいたいだな。ぶっちゃけて言えば、俺は今でも猛烈に叫びたい気分だ」


「……なんでですか?」


「それは秘密だ」


 いやもうね、女の子同士で自然に膝枕やったりとか反則だろ。

 キマシゲージ振り切ってるんですよ。ありがとぅ! 花見オフ!!


「またくだらないこと考えてますね」


「くだらなくはない」


 よからぬことではあるかもしれないが。


「しかし、まぁ、なんだ。別に何の期待もせんとふらっと来ただけのつもりだったんだけどな。

 よもやこんな気持ちになるとは思わなかったわ」


 両手を枕にして寝っ転がる。

 視界の端々には桜の花弁が舞っている。

 ちょいと視線を下げれば、木々が直列していていい眺めだ。


「別に特別桜が好きなわけでもないんだがな。

 まぁ、いうなれば、運がよかったんかなぁ」


「……そうかもしれませんね」


 穏やかな風が流れる中、俺たちは飽きることなく桜を見ていた。

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