第2話
公園の桜並木の横に俺たちは陣取っていた。
「みんな飲み物は持ってるかー?
じゃあ、暇人26名が集まったことを祝して、かんぱーい!!!」
タヤがいい感じのポーズでワンカップを天高く掲げて音頭を取る。
俺たちは、それぞれ近くにいる者同士で「乾杯~」と手にした缶を合わせた。
んっんっんっ。
「……ふぅ」
思った以上に緊張してたのか、俺は缶チューハイの中身を半分以上飲み干した。
近くのコンビニで買ってきたのでキンキンに冷えてはいないが、まだ肌寒いこの季節にはちょうどよかった。
「なんかマジで始まっちゃったなぁ」
瓶ビールを左手に持ったシュウヤが座りながら呟いた。
集合場所で待ってる間に、唯一ちょっと話した相手だ。俺と同じ大学生で、俺と同じくぱっとしない格好だ。
半笑いで俺はシュウヤの隣に座る。
「つか、俺人来ねーと思ってたわ。なんでこんないんの?」
「な。暇人多すぎ」
「なんか40くらいのおっさんもいるしマジびびるわ。女がいることよりも普通にびびる」
「あれに話しかける勇気ないわ。あれはタヤさん担当だよな」
「いや、タヤの奴はあっちでハーレムやってんぞ」
顎で示した先には、タヤがこれまた大学生くらいの女数人に囲まれている図だった。
タヤはスケッチブックにパンダの絵を描いていて、これが結構うまい。
描きながらもなにか話しているようで、あそこだけかなりほんわかモードだ。
ものすごく盛り上がってるわけでもないが、いい雰囲気だ。正直超混ざりたい。
と、シュウヤが大袈裟に地面を叩いた。
「マジかよ!? タヤさん、開催者権限使いすぎじゃね!?」
「じゃあ、あの花園に飛び込んでけよ。俺は止めねぇよ」
「カリヤ、なめてんの? 無理に決まってんだろ。こちとら遊ぶ相手いなくてこんなとこきてるんだよ。
普通に多数の知らない女相手にするとか無理だっツーの」
「同意できすぎて泣ける」
「なー」
二人してちびちびと飲む。
基本的に飲むか話すしかないから、酒が進むわ。
俺はバッグから別のチューハイを出してあける。
シュウヤはカルパスを出していた。
「食う?」
「おう、さんきゅ」
男二人でカルパス食いながらまったりと飲む。
一人暮らしの友人宅で飲みでもしてる気分だ。
あれだな、知り合いでもないから下手に取り繕わなくてもいいし、とにかく気楽だわ。
俺は自分のバッグから一口サイズのチーズと、じゃがりことポッキーとラスクを取り出して並べる。
「なんだよ、めっちゃ出てきたな」
驚くシュウヤに俺は、へっと笑う。
「俺、もう拠点ここでいいや。ここで俺の花見オフは始まって終わる」
「なに、カリヤは攻めないの? タヤさんとこだけじゃないだろ女」
「まぁなぁ。おっさんにもびびったけど、なんだかんだで女来てることにもびびったわ。
モンスター級のもいるけど、意外にもまともなのが多くてびびる」
見れば数人の男女が集まってるところもある。
だがそれは稀だ。希少種だ。
大抵のところは男同士、女同士で集まっている。ぼっちもいる。シュウヤがいなかったら俺も確実にアレだったな。
「な。さすがにタヤさんレベルとは言わないけど、ちっとくらい冒険してみてもいいんじゃないの?
向こうだって少しはその気で来てるんだろうし」
「そうかもしれねぇけどさ。やっぱハードル高ぇって。半分ナンパだろ。無理ゲーすぎるわ」
「……カリヤ、お前なんでここ来たんだよ」
「俺が聞きてーよ。いや、暇だったからだけどさ」
益体もない話しを続けながらも、俺は2本目のチューハイをカラにした。
両手を後ろについて少しだけ顔をあげて一息つく。
視界に広がる一面の桜。
平日だってーのに、なぜか社会人っぽいのも多くてごみごみしてるけど、まぁそれも仕方がないかもしれない。
普段は大して気にしてないけど、やっぱり桜は綺麗だ。吹く風は穏やかで、パラパラと桜の花びらを舞わせている。
こんな風に、花見と称して改めて見る価値は確かにあると思う。
「なぁ」
隣に顔を向けると、シュウヤは桜を見たままでいた。
「やっぱ面倒だから攻めなくてもいっか」
「ヘタレてんなよ。俺のことは構わず逝ってこい。骨は灰にしてやる」
「せめて慰めてくれよ。もうやだ。俺もう絶対行かない」
「……お前最初から行く気ねーな? このド糞ヘタレ野郎が。ちんちんあんのかよ」
「おま言うすぎる!」
シュウヤがビール瓶を一気飲みして手放した。
「ここ来る前はマジで行く気だったんだよ。
いや、人集まらなくて開催すらできねーだろとか、どうせ来ても男だけだろとか思ってもいたんだけどさ。
実際来たらなんか普通にいるし。
じゃあ、ちょろっと行ってみっかなっとも思うんだけどさ。
なんだろな。今桜見てたら、もうそんな気もなくなってきたわ」
「浄化されたな」
「酒もいい感じで回ってきちゃったしさぁ。
また気も変わるかもしれないけど、今はいいや。気分いいし」
「……そだな。オフの趣旨にあってっかは知らねぇけど、俺もそれでいいや」
俺は三本目のチューハイをあけて、チーズを手に取ろうとして目の前で持っていかれた。
「あ」
「ん?」
「お」
三者三様の声を出して俺たちは顔を見合わせた。
俺の前にいるのは、知らない女だった。
まぁ、この場に知ってる奴なんてだれもいないんだけども。
「あー。あはは、ども~」
女がへらへらと苦笑して、片手を挙げる。
その手には俺が持ってきたチーズがあった。
「……いいけどよ。飢えたガキじゃねーんだからせめて一声かけてくれよ」
「あ、あははは。いやぁ、なんか二人とも雰囲気出来上がってたからさぁ、声かけづらくって。
いやはや、すみませんね。いただきます」
猫っぽい印象の女が手にしたチーズを食べる。
肩にかからない程度の髪が若干内側にカーブしている。
まだ肌寒いと思うが膝上スカートだ。
そういや女連中は大抵そんな感じだな。
俺は普通に寒そうだと思うんだけど、冷気耐性常時発動してるんかな。
「君たちはアレかな。これなのかな?」
女は真顔で人差し指と中指の間から親指を出した。
「お前マジで死ねよ」
「初対面の相手に堂々と腐りすぎですよ、この人」
「……なんだ、そっかぁ」
俺とシュウヤの暴言もなんのその、まったく気にしてない様子で腐れはがっくりと肩を落とした。
「運命的な出会いを果たして、なんかもうねんごろ的な関係にでもならないの?」
「リアルを見ろ」
「やだなぁ。リアルじゃこんなこと面と向かって言えないよぉ」
「おーっと、ここはいつからバーチャルになったんですかね」
困惑する俺とシュウヤ。
俺たちはやべぇ奴に絡まれてしまったのかもしれない。
「あはは、やだな冗談だよ。
私はミヤ。お腹すいてるんでオフに来ました。これ食べていい?」
ミヤは俺たちが広げたつまみと菓子を指す。
やだ、なにこの娘。一周回って漢らしいわ。
「もう食ったじゃねぇか。今更気にしねぇよ。
よかったなシュウヤ。客が来たぞ。ご所望の一品だ」
「一応歓迎はするけどさ。なんか思ってたのと違う気がするんですけど」
「じゃあこいつを餌にして獲物を呼び込めばいいだろ。自分から行くよりかは確率いいんじゃねーの」
「なるほど、カリヤは策士だな」
「……そういう相談はもうちょっとコソコソやってくれないかな」
半眼になるミヤに、俺は肩をすくめた。




