表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

第2話


 公園の桜並木の横に俺たちは陣取っていた。


「みんな飲み物は持ってるかー?

 じゃあ、暇人26名が集まったことを祝して、かんぱーい!!!」


 タヤがいい感じのポーズでワンカップを天高く掲げて音頭を取る。

 俺たちは、それぞれ近くにいる者同士で「乾杯~」と手にした缶を合わせた。


 んっんっんっ。


「……ふぅ」 


 思った以上に緊張してたのか、俺は缶チューハイの中身を半分以上飲み干した。

 近くのコンビニで買ってきたのでキンキンに冷えてはいないが、まだ肌寒いこの季節にはちょうどよかった。


「なんかマジで始まっちゃったなぁ」


 瓶ビールを左手に持ったシュウヤが座りながら呟いた。

 集合場所で待ってる間に、唯一ちょっと話した相手だ。俺と同じ大学生で、俺と同じくぱっとしない格好だ。

 半笑いで俺はシュウヤの隣に座る。


「つか、俺人来ねーと思ってたわ。なんでこんないんの?」


「な。暇人多すぎ」


「なんか40くらいのおっさんもいるしマジびびるわ。女がいることよりも普通にびびる」


「あれに話しかける勇気ないわ。あれはタヤさん担当だよな」


「いや、タヤの奴はあっちでハーレムやってんぞ」


 顎で示した先には、タヤがこれまた大学生くらいの女数人に囲まれている図だった。

 タヤはスケッチブックにパンダの絵を描いていて、これが結構うまい。

 描きながらもなにか話しているようで、あそこだけかなりほんわかモードだ。

 ものすごく盛り上がってるわけでもないが、いい雰囲気だ。正直超混ざりたい。


 と、シュウヤが大袈裟に地面を叩いた。 


「マジかよ!? タヤさん、開催者権限使いすぎじゃね!?」


「じゃあ、あの花園に飛び込んでけよ。俺は止めねぇよ」


「カリヤ、なめてんの? 無理に決まってんだろ。こちとら遊ぶ相手いなくてこんなとこきてるんだよ。

 普通に多数の知らない女相手にするとか無理だっツーの」


「同意できすぎて泣ける」


「なー」


 二人してちびちびと飲む。

 基本的に飲むか話すしかないから、酒が進むわ。


 俺はバッグから別のチューハイを出してあける。

 シュウヤはカルパスを出していた。


「食う?」


「おう、さんきゅ」


 男二人でカルパス食いながらまったりと飲む。

 一人暮らしの友人宅で飲みでもしてる気分だ。

 あれだな、知り合いでもないから下手に取り繕わなくてもいいし、とにかく気楽だわ。


 俺は自分のバッグから一口サイズのチーズと、じゃがりことポッキーとラスクを取り出して並べる。


「なんだよ、めっちゃ出てきたな」


 驚くシュウヤに俺は、へっと笑う。


「俺、もう拠点ここでいいや。ここで俺の花見オフは始まって終わる」


「なに、カリヤは攻めないの? タヤさんとこだけじゃないだろ女」


「まぁなぁ。おっさんにもびびったけど、なんだかんだで女来てることにもびびったわ。

 モンスター級のもいるけど、意外にもまともなのが多くてびびる」


 見れば数人の男女が集まってるところもある。

 だがそれは稀だ。希少種だ。

 大抵のところは男同士、女同士で集まっている。ぼっちもいる。シュウヤがいなかったら俺も確実にアレだったな。


「な。さすがにタヤさんレベルとは言わないけど、ちっとくらい冒険してみてもいいんじゃないの?

 向こうだって少しはその気で来てるんだろうし」


「そうかもしれねぇけどさ。やっぱハードル高ぇって。半分ナンパだろ。無理ゲーすぎるわ」


「……カリヤ、お前なんでここ来たんだよ」


「俺が聞きてーよ。いや、暇だったからだけどさ」


 益体もない話しを続けながらも、俺は2本目のチューハイをカラにした。

 両手を後ろについて少しだけ顔をあげて一息つく。

 視界に広がる一面の桜。

 平日だってーのに、なぜか社会人っぽいのも多くてごみごみしてるけど、まぁそれも仕方がないかもしれない。


 普段は大して気にしてないけど、やっぱり桜は綺麗だ。吹く風は穏やかで、パラパラと桜の花びらを舞わせている。

 こんな風に、花見と称して改めて見る価値は確かにあると思う。


「なぁ」


 隣に顔を向けると、シュウヤは桜を見たままでいた。


「やっぱ面倒だから攻めなくてもいっか」


「ヘタレてんなよ。俺のことは構わず逝ってこい。骨は灰にしてやる」


「せめて慰めてくれよ。もうやだ。俺もう絶対行かない」


「……お前最初から行く気ねーな? このド糞ヘタレ野郎が。ちんちんあんのかよ」


「おま言うすぎる!」


 シュウヤがビール瓶を一気飲みして手放した。


「ここ来る前はマジで行く気だったんだよ。

 いや、人集まらなくて開催すらできねーだろとか、どうせ来ても男だけだろとか思ってもいたんだけどさ。

 実際来たらなんか普通にいるし。

 じゃあ、ちょろっと行ってみっかなっとも思うんだけどさ。

 なんだろな。今桜見てたら、もうそんな気もなくなってきたわ」


「浄化されたな」


「酒もいい感じで回ってきちゃったしさぁ。

 また気も変わるかもしれないけど、今はいいや。気分いいし」


「……そだな。オフの趣旨にあってっかは知らねぇけど、俺もそれでいいや」


 俺は三本目のチューハイをあけて、チーズを手に取ろうとして目の前で持っていかれた。


「あ」


「ん?」


「お」 


 三者三様の声を出して俺たちは顔を見合わせた。

 俺の前にいるのは、知らない女だった。

 まぁ、この場に知ってる奴なんてだれもいないんだけども。


「あー。あはは、ども~」


 女がへらへらと苦笑して、片手を挙げる。

 その手には俺が持ってきたチーズがあった。


「……いいけどよ。飢えたガキじゃねーんだからせめて一声かけてくれよ」


「あ、あははは。いやぁ、なんか二人とも雰囲気出来上がってたからさぁ、声かけづらくって。

 いやはや、すみませんね。いただきます」


 猫っぽい印象の女が手にしたチーズを食べる。

 肩にかからない程度の髪が若干内側にカーブしている。

 まだ肌寒いと思うが膝上スカートだ。


 そういや女連中は大抵そんな感じだな。

 俺は普通に寒そうだと思うんだけど、冷気耐性常時発動してるんかな。 


「君たちはアレかな。これなのかな?」


 女は真顔で人差し指と中指の間から親指を出した。


「お前マジで死ねよ」


「初対面の相手に堂々と腐りすぎですよ、この人」


「……なんだ、そっかぁ」


 俺とシュウヤの暴言もなんのその、まったく気にしてない様子で腐れはがっくりと肩を落とした。


「運命的な出会いを果たして、なんかもうねんごろ的な関係にでもならないの?」


「リアルを見ろ」


「やだなぁ。リアルじゃこんなこと面と向かって言えないよぉ」


「おーっと、ここはいつからバーチャルになったんですかね」


 困惑する俺とシュウヤ。

 俺たちはやべぇ奴に絡まれてしまったのかもしれない。


「あはは、やだな冗談だよ。

 私はミヤ。お腹すいてるんでオフに来ました。これ食べていい?」


 ミヤは俺たちが広げたつまみと菓子を指す。


 やだ、なにこの娘。一周回って漢らしいわ。


「もう食ったじゃねぇか。今更気にしねぇよ。

 よかったなシュウヤ。客が来たぞ。ご所望の一品だ」


「一応歓迎はするけどさ。なんか思ってたのと違う気がするんですけど」


「じゃあこいつを餌にして獲物を呼び込めばいいだろ。自分から行くよりかは確率いいんじゃねーの」


「なるほど、カリヤは策士だな」


「……そういう相談はもうちょっとコソコソやってくれないかな」


 半眼になるミヤに、俺は肩をすくめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ