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彼女は俺を殺したい  作者: St
5/5

寝て起きたらもうこんな時間

「セツナさん、それって地毛?」「肌の色も白いよね、もしかしてハーフとか?」「パンツ何色?」「部活とかなんか入るの?」「セツナってかっこいい名前だね」「元はどこに住んでたの?」

「えっと、その……」


 大人気のセツナは、クラスの皆んなからの質問攻撃に困惑していた。あと、どさくさに紛れてパンツの色を聞こうとした奴、後で俺の所にこい。何色だったか教えてくれ。


「全く。どいつもこいつも子供なんだから」


 明らかに不愉快そうに霧館が、上履きの底で床を叩きながらそう言う。


「もしかして、嫉妬してんのか?」

「なんで私が嫉妬なんてしないといけないの?」


 おやおや、これはこれは。こいつにも人並みの心がまだ残っておったのか。

 自分のライバルが人気者になって、嫉妬しちゃうだなんて、霧館さんも可愛い所あるじゃないの。


「あぁ、隣でごちゃごちゃうざい。減らすか」


 あっ、ダメだ。こいつに人の心はねぇ。

 机の下から人殺し鋏を取り出す霧館をなんとか宥めていると、セツナに対して行われていた質問爆撃の標的がいつの間にか霧館に移ったようで、クラスメイト達に俺たちは囲まれていた。


「蓑部さんと真って本当に付き合ってるの?」

「真ぉ?????????????????」


 クラスメイトの女子が俺の事を呼び捨てにしたことが気に食わなかったのか、霧館の顔が歪む。それにしたって、クエスチョンマークが多くないかい、霧館さん。


「もうめっちゃ俺たち付き合ってるからさ、マジで近づかないほうがいいよ。マジでこいつとんでもないから、マジで」

「何言ってんの真。ウケる」


 ウケてる場合ちゃうねん。

 今お前らからは見えない机の下では、死闘が繰り広げられてんだぞ。あっ、霧館さん、霧館さん。刺さってます。僕の手に人殺し鋏刺さってますよ。


「とにかく俺達には金輪際近づくんじゃねぇ! 殺しすぞ! てか殺されるぞ!!」


 怒り狂う俺の様子に恐れをなした、もといドン引きしたクラスメイト達は、物理的な距離と心の距離の両方を即座に離してくれた。

 なんと物分かりのいいクラスメイト達なんだ。俺は嬉しいよ。嬉しいのに何故か涙が止まんないよ。


「お前のせいだかんな」

「何が?」


 霧館のいつものおとぼけが炸裂して、俺の神経を逆撫でる。

 もう限界だ。俺はこんなサイコ野郎と一緒には居られない。私は教室を出て行くからな!


「よし、授業始めんぞ」


 ちくしょう! 授業が始まっちまった!

 淡々と授業の準備を進める先生を前に、俺の逃亡警戒は無残にも砕け散った。

 しょうがないのでこの一時間は、一度も開いた事ない教科書を枕代わりに寝て過ごすしかあるまい。そして授業が終わり放課になった瞬間に、この教室を飛び出してどっか遠い場所に行こう。調理室とか、理科実験室とか、遠い場所へ。

 そして、そこで授業をサボってしこたま寝よう。

 では、お休みなさーい。

 ……zzzzzzzzz

 ……zzzzzz

 ……zzz



「はーい、授業始めるよー」


 ちくしょう! 授業が始まってやがる!

 俺が起きた時には、なんと2限目の授業が始まっていやがった。

 つまり、1限目の数学開始と同時に寝て、そのまま2限目の現国開始まで寝てたって寸法だ。なんてこった! 幾ら何でも寝すぎだぜ!

 寝る子は育つらしいから、このままじゃ俺は巨人になっちまう。てか、霧館は隣の席なんだから少しぐらい起こしたりしたらどうなんだ。

 どうせ俺以外に話し相手もいないんだろうし。


「なんで起こしてくれなかったんだ」

「なんでって……、起こしたほうがよかったの?」

「そりゃせっかくの放課まで寝っぱなしなんてもったいないだろ」

「ごめんね。あまりにも気持ちよさそうに寝ていたから、そのままにしてあげようと思って」


 ちくしょう! なんて気遣いのできるいい女なんだ!

 しかし、こんな時に限っていい女っぷりを発揮しなくていいぜ、霧館さん。君はいつも通りの暴走特急でいてくれ。そうすれば、俺は君を躊躇なく倒す事ができる。

 過ぎたことを悔やんでいても仕方がない。取り敢えず今は、同じ轍を踏まないようにする事が先決だ。

 何故なら既に、先生が放つ授業という名の催眠光線によって、俺の意識は眠りの彼方に追いやられようとしているからだ。

 このまま寝たら絶対に次の授業まで寝てしまう。言い切れる。もうそういう風に出来てんだもん。


「なぁ、次放課になった時も俺が寝てたら起こしてくれよな」

「わかった。ちゃんと起こすわ」


よし。霧館に頼めたら一安心だ。だが、ここは念には念を入れて、


「セツナ、お前も頼むぜ」

「ええ?! セツナもですか!?」

「チッ」


 小難しそうな顔をして教科書と睨めっこしていたセツナに急に話を振ると、かなりびっくりした様子だったが、その後小さく頷いてくれた。霧館の舌打ちする音については今はスルーだ。

 よし。これで布石は完璧だ。ここまでしといて、次の授業まで寝るようなお間抜けはかまさんだろう。

 かましたらかましたらで、それはそれで面白いからオッケーって事で、お休みなさーい。

 ……zzzzzzzzz

 ……zzzzzz

 ……zzz



「お前はこれから我ら秘密結社部によって、解剖されるのだ!」


 ちくしょう! もう意味がわからねぇぜ!

 意味がわからないながら、丁重にわからない部分を挙げていくとすると、まず教室で寝ていたはずなのに、何故俺は縛り付けられているのか。次にそもそも秘密結社部ってなんだ。そして、何故俺は解剖されるのか。最後にサイコ野郎と死神はどうした。


「くっそー! 離せぇー!」


 意味がわからなすぎるから取り敢えず抵抗してみるけど、鉄製の拘束具で大の字にガッチリと固められて碌に身動きも取れない。ここ学校の敷地内だよな?


「何故俺にこんな事をするんだ!」

「ふふ、知れた事を。貴様が不死身だからだ!」

「馬鹿な!! 何故それを知っている!?」


 ガスマスクに白衣という珍妙な姿の野郎だが、相当の情報網を持っているらしい。流石は秘密結社部。恐ろしい!

 ガスマスクはクックック、とそれらしい笑いを立ててから、たっぷりと焦らして俺に問いの答えを教えてくれた。


「お前の彼女が貴様を斬り刻んでいるのを見かけたからだ!!」

「何処で!」

「教室で!」


 あのクソ野郎ぅぅう!!!!

 もうストレートにクソ! 英語で言ってshit! 日本語でうんこ!


「あの、出来れば詳しくその時の様子を聞かせてはくれませんか?」

「えぇ? えっと……二限目の授業が終わって少ししてから、なんか騒がしいなって思ったら蓑部さんがあなたに鋏を突き刺してた」


 えぇ、何それちょー怖いんですけど。流石にドン引きなんですけど。


「それを見てあなたは俺を不死身だと思って、ここまで拉致したと」

「ええ。その通り。周りの子達は真って身体丈夫なんだなってはしゃいでたけど、私の目は騙せない。あれは丈夫ってレベルじゃない」


 マジか。周りの奴らそんな馬鹿ばっかだったのか。むしろ、正常に怪しんでくれて嬉しいぐらいだわ。


「何だろう。あなたとはこれからも仲良くやっていけそうな気がする。俺で良ければ是非解剖してやってください。どうせ死なないし」

「え? ほんと? やったぁー!」

「ダメに決まってるでしょ」


 聞き覚えがある声と共に投げつけられた人殺し鋏が、ガスマスクの頭部に直撃する。悲鳴も上げることもなく、俺の視界からガスマスクが消えた。


「ああ! てめぇなんて事しやがんだ! せっかく友達になれそうだったのに!」

「いやいや、富芽さんこそこんな状況になってるのに、よくそんなこと言えますね」


 セツナが拘束具を鎌で切りながらそう言う。

 こいつは俺を殺す機会を得るために学校に来たのだろうが、それはまさに今なんじゃないのか? 普通に助けてていいの?


「さて、私のまこ君に手を出したらどうなるか、その命に刻んであげる」


 霧館がちょっぴりかっこいい事言いながら、人殺し鋏を片手にテーブルの向こうへと歩いていく。そこからは小さく怯えたような悲鳴にも似た声が上がっていた。


「じゃあ、さようなら!」

「待て!」


 俺は霧館の目の前に飛び出した。そこには結構な距離があったが、霧館は止まる様子なくそのまま俺に鋏を突き刺す。


「止まれよ」

「どうせ死なないからいいじゃない」


 死なないししかも痛くもないから俺としても、刺されたってどうって事はないけど、制服に穴とか血が付いちゃうでしょうが。


「あの……ありがと」


 背後から小さな音量で感謝の声が聞こえてきたので、俺は振り向きしゃがんで、元ガスマスクの手を取った。


「いいって事よ。さっきも言ったけど俺があなたとなら上手くやっていけそうな気はするんだ」


 勢いでこんな事してしまったが、元ガスマスクはよく見なくても女の子だった。多少大きめの縁なし眼鏡にショートカットをした、その女の子は何度もクラス内で見かけた顔だ。確か志賀守乃(しがかみの)さんだったっけ。

 色々と頭の中で考えていた俺の手首に、銀の一閃が疾る。霧館が怒りに身を任せて俺の手首を切り落としたのだ。

 後ろの方で誰かが倒れる音がするが、きっとセツナだろう。あいつ永遠に一人前の死神にはなれないだろうな。


「あのさ、霧館。お前、俺の事好きって言う割には扱い雑だよな」

「今回はまこ君がそんな女の手を握るからいけないんじゃないの」

「俺は知ってんだぞ!」


 床に落ちた手首をくっ付けながら、俺は出来る限り怖そうな顔を作って霧館に迫る。


「お前、教室で俺を斬り刻んでたらしいな!」

「それはまこ君のせいじゃない」

「なにぃー! 此の期に及んで俺にせいにするのか!」

「だってどんだけ揺すっても、叩いても起きないんだもん」

「え? マジで?」

「マジよ。だから仕方がなく斬り刻んでたら、急に教室内が煙に包まれて、私達気を失ってたの」

「その煙は私が巻きました。催眠効果のあるガスです」


 なるほど。そういう経緯があったのか。

 それにしても起きないからって、斬り刻むのはやりすぎだろ。でも、俺の事を思ってやってくれた事だし、今回は不問にしといてやろう。


「何はともあれ、これで一件落着って事だな!」

「ところで何でこの秘密部室の場所がわかったんですか?」

「まこ君に発信器を付けてたのよ」


 サラッと怖い事言いやがったけど、一件落着なので気にしませーん。

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