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彼女は俺を殺したい  作者: St
3/5

ヤンデレVS死神VS不死者

 全く困ったもんだぜ。

 俺の家に無断で上り込んだ少女二人は、片やメンヘラサイコヤンデレ女。片や自称死神女。

 俺は死なない事と微妙に頭が悪い事以外は、普通に生きてきたはず。なのに一体これは何の罰ゲームだ。


「死神ぃ~? あんたバッカじゃないのぉ~?」


 霧館さんは何だか妙なテンションになっちゃってるし、自称死神女はそれを睨みつけるだけでピクリともしないし。できる事なら一秒でも早くここを離れたい。

 いや、待てよ。もしかしてこれはもしやチャンスでは?

 どさくさに乗じて、この危険地帯から去るには今しかない。

 俺は確信して、慎重に足音を立てずにその場から移動しだした。が、それを遮るように自称死神女の持っていた鎌の刃が、俺の首元に添えられる。


「貴方の命はセツナが預かると言いました」

「……ッ!! あんた、まこ君に何してんだ!」


 それに激情したヤンデレがご自慢の人殺し鋏を手に持って、セツナとかいう少女に飛び込む。セツナはそれに応戦するように鎌を高く構えた。俺はチャンスとばかりに全速力で玄関まで走り出す。


「待て、逃がさんぞ」

「?!」


霧館の放った鋏は見事に俺の後頭部に突き刺さり、俺は勢いのまま倒れ込んだ。


「あぁわわわわ、貴方何やってるんですか! この人の命はセツナが預かると」

「そうだぞ! お前は引っ込んでろ!」

「怖い! 生き返った!」


 後頭部に鋏を刺したまま起き上がった俺を見て、死神少女は悲鳴のような声をあげた。どうやらこの子は、俺が死なない人間である事は知らなかったらしい。


「あらら、貴方知らなかったの? まこ君は死なないのよ」

「し、死なない?! 本当ですか!?」


 セツナの質問に答えてやりたいのは山々だが、残念ながらそれは出来ない。何故なら俺既に立ち上がって走りだしていたから。

 すると後ろから、「だから逃げんな」と言う霧館の声と鋏が飛んできて、再びその場に倒れ込んでしまった。


「何故逃げる」

「馬鹿野郎、男の子に向かって失礼な事言うんじゃねぇ! これは後ろに前進してんだ!」

「それをごく一般的には逃げると言うのではないのでしょうか?」


 マジかよ。富芽真人生史上最大の衝撃だぜ。

 頭の中に駆け巡った電流のような感覚が、昔親父が言っていた言葉を自然と思い出させる。


「真、何故人の目が前についているかわかるかい?」

「知るか、カス」

「うわぁ、この子口悪。……それはね、前に進む為なんだよ。人は前進する為に前に目が二つも付いてるんだ」


 俺はその親父の言葉を聞いて以来、前進し続けた。楽しい時も、辛い時も、どんな時も、色んな方向に前進する日々であった。それが男の宿命と信じて。

 生きてきて十と五年、初めて味わった逃走。

 こんこんと湧く感情に、俺は気持ちを抑えきれずに叫んだ。


「逃げるの最高ー!! あべしっ」


 しつこく逃げ出そうとする俺の脳天に鎌が刺さる。セツナは自分の持っていた鎌がいつの間にか霧館の手の中に収まっている事に仰天していた。


「頭ばっか狙うのやめてよ。これ以上馬鹿になったらどう責任取ってくれんだ」

「結婚してあげる」

「それって死刑宣告じゃないですかー!」


 でも僕は死にましぇーん。ばぁーか。

 心の中で悪態ついていた事を察したのか、霧館の鋏が俺の腹部を斬り裂こうと振り下ろされた。が、俺も何度もやられてばかりいるはずもなく、手錠の鎖でそれを受け止める。


「あの、お二人はどういう関係なんですか?」


 その一連の達人じみたやりとりを見ていたセツナがおろおろとしながら問いかけた。


「見ればわかるでしょ?」

「えっと、強敵(ライバル)?」

「恋人よ」

「被害者と加害者でーす」


 どこをどう見たら、強敵だの恋人だのトンチンカンな解答が出せるのか不思議でならない。


「そういうあんたは何者なの? 死神とか、命を預かるとか訳のわからない事を抜かしていたけど」


 この家に不法侵入してから口を開く度に意味不明の言動で俺を困惑させ続けてきた女が言うセリフではないが、確かにそれは気になる。

 俺自身が不死者などという特殊な存在である以上、本当に死神である可能性は否定できないが、もし仮にそうだとして何故俺の命を狙う? やはりそこには不死者という歪なあり方が関係しているのだろうか。


「セツナは死神です。その……見習いの、ですけど」


 ほうほう、見習い死神なのか。死神にも見習いとかあるとは知らなかったが、きっとセッちゃんが言うのだから間違いない。


「で、何でまた俺なんかの元に来ちゃったのさ。俺ほど死と程遠い場所にいる人間も他にはいないぜ」


 どうもセツナの言葉に不服そうな霧館が口を開く前に話を進める。奴が口を開けば、話が妙な方向にぶっ飛ぶに決まってるからだ。


「それは……セツナが一人前の死神になる為の試験として、不正に生き続けている人の命を確保しなければならなくて……その……」


 本人もこんな事になるとは思っていなかったようで困惑しているが、どうやら彼女は試験のために俺を殺しに来たらしい。

 しかし、不正に生き続けているか。まぁ、確かに俺は何度か死んでるのに生き返ってるし、そう言われるのも仕方がないか。でも俺が不死なのは多分生まれつきだし、そう言われても困っちゃうな。

 どうしようもない事で死神に狙われてしまった俺の心情を察したのか、霧館が俺の隣にまでやって来てこそっと呟く。


「あのこ多分頭がおかしいのよ。真面目に話を聞くだけ無駄よ」

「おっ、一番頭がおかしい奴がなんか言ってんぞ」


 霧館の耳打ちに対して正論をかましてやっただけなのに、奴は頭に刺さりっぱなしになってた鎌の柄を持って、中をかき混ぜるように動かしだした。


「こいつやばくなぁーい? 傷口広げようとしてんぜ?」


 それわざと見せつけるようにセツナに頭部を向けながらそう言うと、元々白かった彼女の顔は更に生物みなく青ざめていく。本当にこの子死神としてやっていけるのかしら。


「まっ、セツナちゃんさ。俺は見ての通り本当に不死だから、お家に帰って試験内容変えてもらってきな」

「それが出来たら、こんなに困惑したりしませんよ」

「え? 何? 出来ないの?」

「試験内容は変更不可です」


 はぇ~、それはちょーかわいそ。

 俺が直々に出向いて試験内容を変えてもらえるように頼んでこようか。あー、でも死神ってやっぱり地獄とか天国とか、とにかく死後の世界にいるもんなのかな。じゃあ、死ねない俺はそこには行けないな。

 俺は刹那の肩に静かに手を添える。


「ごめんな」

「いーーーやーーーでーーーすーーーぅーーー!!」


 あっ、キレた。


「富芽さん、試して見ましょうよ。死神パワーがあれば、もしかしたら死ねるかも知れませんよ? どうせ不死なんていいことありませんから、死にましょうよ。ね?」

「いや、せめて大学生までは生きたいから、俺が死にたくなったら殺してよ」

「ダメです! 今すぐ死んでください!!」

「嫌どす」

「うるさい!!死ね!!」


 セツナがついに狂乱し、俺の頭に突き刺さっていた鎌を引っこ抜いて、それで斬りつけてきた。

 しかし、鎌の刃が俺に触れる事はなかった。霧館が人殺し鋏で、刃を防いでくれたのだ。


「残念だけど、まこ君は私の物なの。だからさっさと私達の前から消えなさい」


 あーあ、プッツン女が勝手なこと言ってんよ。


「わかりました。じゃあ取引しましょうよ」

「取引き?」

「真さんの命はセツナが貰います。身体の方はあなたにあげます」


 セツナも勝手な事を言い出す。うんなの俺が飲むはずねぇだろ。


「そんな馬鹿げた条件飲めるはずないでしょ。なぜ私の所有物を半分に分けなきゃいけないのよ」


 おい、だから誰が物じゃ。いい加減にしないと仏の真さんも怒っちゃうぜ?


「じゃあもういいです。あなたも真さんもみんな殺します」

「望むところよ。死神ごときが私を殺せる筈がないじゃない」


 死神見習いと死神のような女のバトルの幕が切って落とされる。出来れば相打ちとかで終わってくれればいいんだけどな。

 てか今こそ逃亡のチャンスだろ。連中は目の前の敵で精一杯みたいだし。

 よし、逃げよう。そして、人里離れた山の中で仙人のような生活に精を出そう。うん、それがいい。あらゆるしがらみから解放され、俺は自由になるのだ!


「「逃げるな!!!」」


 逃げ出す俺めがけて投げられた鋏が全身に突き刺さり、セツナの鎌が首を刎ねた。

 溢れる血のカーペットに力なく倒れこむ。

 セツナは自分が勢いでやってしまった事に震えて、霧館はやはり平然としている。


「あの、これ……」

「大丈夫よ」


 その言葉に応えるように俺は血溜まりの中から身体を起こして、吹き飛んだ頭部を拾い上げる。その際、あえて傷口を見せるようにした為、セツナの顔からたちまち血の気が引いてしまいには倒れてしまった。


「首が落ちても生きてるだなんて、まさに不死って感じね。それ首はひっつくの?」

「ああ、首落ちたのは初めてだけど多分くっ付くよ……そおぉい!!」

「ふぐぅ!!」


 自分の顔を元々顔が付いていた位置ほどまで持ち上げて、そのまま霧館の額に振り下ろした。

 完全に不意を突かれた霧館は、ガードする事もままならずそのまま崩れ落ちる。


「どうやら今回は俺の勝ちだな」


 額から血を流している霧館の姿を見届けてから頭を首とくっ付けると、何事もなかったかのように元どおりになる。

 前方には気絶した二人の少女。一面には血溜まり。俺の安らぎの場である家が惨憺たる有様だ。


 虚しい。ただただ虚しい。

 俺を殺さんとする二人の少女を倒して、見事に自由を勝ち取った筈だ。勝利したのだ、俺は。

 なのに胸の中には孤独な空虚がどこまでも、まるで不毛な荒野のように広がっている。未だ嘗て、こんなにも不毛な気分になった事はない。

 勝利とは、勝者とは、孤独だ。齢十五で俺はその事実に気づいてしまった。

 人はいつだって、失って初めて気付く。そして後悔するのだ。

 もう二度と戻って来ぬとわかっていても、渇望は嗚咽となって喉から這い出る。願望が血涙となって目から滲む。俺は叫んだ。声が枯れるほどに、叫んだ。


「霧館さん! 友達からでどうですか!」

「ダメ」


 ダメらしい。

 平然とした顔で立ち上がった霧館が平然と答えるのに、俺は思わず頭を抱える。


「じゃあ、何ならいいの?」

「結婚」

「せめて、せめて恋人からで」

「もぉ~、しょうがないなぁ~」


 こうして俺は霧館と付き合う事になった。

 でもいつかはこいつを葬り、自由になる事を諦めたわけではない。これ以上駄々をこねると監禁されるかもしれないから妥協しているだけだ。


「とりあえず手錠外してよ」

「うふふふふ」

「うふふ、じゃねーよ」


 やっぱりこいつは、倒さなきゃいけない強敵(ライバル)だ。

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