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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

▲お題に合わせて・掌編シリーズ(此岸と彼岸)

【漢字一文字】まっすぐズレていったんだ 〜死んだ人と話がしたい〜

作者: にける

 死んだ人と話がしたいと言って妻は出て行った。


 いったいどこへと聞く間もなかった。そのうちかえって来るでしょと、光弘(妻の情人だと俺は知っている)は取り合わない。


 死んだ人。


まずは松子―いじめを苦にマンションの屋上から飛び降りた中学の先輩。

榊―泥酔し、道路の真ん中で眠っていて轢かれた近所の兄ちゃん。

美津島―選手選びで恨みをかって刺されたバレーの顧問。

柏木―別れを切り出すと手首を切った大学時代の彼氏。

綾子―リストカット常習犯だった親友。

それからお姉さん―


 光弘は次々並べ立てると梨香には会いたい人がたくさんいるなと言った。

 親友と姉と男の事は聞いていたけれど他は知らなかった。

 取り立てて話すことでもないからじゃない? と光弘は洗面器を抱え、アパートを出て行った。

 心配じゃないのか、と後を追うと、良くあることだよ、信じて待ちたまえと諭された。


 妻は奔放な女だった。

 悪女と言うイメージからは程遠い、ガキみたいな笑い方をする化粧っけのない女だが、ある種の人にはもてた。

 もてたというのは違う気もするがともかく、妻はやりたいと思った人とはためらわずやる。

 問い詰めてもだって興味があったからと悪びれるところがない。

 光弘との付き合いが一番長いのだろうが、それ以外にも三人は(それも男だけじゃない)いる。

 結婚したのは俺だけど、だからって俺が一番なのかどうか疑わしい。いったい何を信じろと言うのだ。


 鼻息荒く付きまとう俺に、光弘は、梨香はこんなに思われているというのに、バカな女だと同情の目を向けた。

 それから、たぶん橋の下じゃないか? 民俗学の世界じゃあの世とこの世の境目だって言うじゃないと言った。


 橋の下に妻はいた。

 光弘に負けた気がして面白くないがともかくほっとした。

 声をかけると振り向きもせず、私は橋の下で拾われた子なんだよと妻は言った。

 ちゃんと拾われたからには生きねば、そしてみんなを生みなおしてやるのと真剣な顔をした。


 妻が拾われ子という話は聞いたことがない。たぶん民俗学的な意味で言っているのだと思う。

 話は聞けたのかとたずねたら、会えるわけないでしょとバカにされた。


 それからはぐだぐだで、結局べったり寄り添っておんぼろアパートに帰り、光弘にいい加減うるさいぞと壁を殴られるほど得手勝手に抱き合った。


 激しく抱きあった後、いい気分で寄り添っていたのに妻はみんなの子どもが欲しいなんてぬかした。

 みんなの子どもを生んで生んで生みまくりたい。

 松子先輩と誰か先輩の好きな人の子ども、榊兄ちゃんと夏海さんの子ども、綾子と貴史の子ども、お姉ちゃんと光弘の子ども。死んだ人の代わりに私が生んでやる。

 

 そんな勝手なことを言ってから俺のことを世界一愛している、だからどこにも行かないでと言って抱きついた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ドラマチックな設定です。 どうしてこういう環境なのか、こういう人物なのかという理由に必要性を感じませんでした。 どかんと強烈なインパクトがありました。 短編だからできることかもしれないと感…
[一言] 掌篇というのはむつかしですよね。キャラに重きを置くと、それが煩く感じられて、お話しとしてまとまりづらい。 人生の中のハッとするような一瞬を捕まえる、スナップショットみたいな要領が大事だと思い…
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