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炎罪  作者: お終い
第1章
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第6話

「今日は沖まで漁に出かけてくるよ、帰ってくるのは多分二週間後くらいになるから」


 顎鬚を無造作に生やした筋骨隆々の左目に四本の大きな傷跡を持つ白髪の中年男性は、おっとりした雰囲気の中年女性に向かって優しくそう言った。


 彼の名前はタロウ・ムラマサ、四十五歳。漁師をやっている。女性の名前はハナコ・ムラマサ、専業主婦だ。二人は結婚二十年目を迎えた夫婦である。


 タロウが主に漁を行う海は噴海(ふんかい)と呼ばれ、安定期と活動期がある。活動期になると海底にある無数の火山が噴火して、海から巨大な水の柱が立つことがある。運悪くそれにあたってしまえば、どれだけ巨大な船であろうが木っ端微塵になってしまう。だが今は一年に僅か三ヶ月しかない安定期だ。この三ヶ月の間は噴火は起きないために、この時期にこの海でしか取れない魚をとる為に漁に出る。


 彼は一人で漁に出る事が多い。本人曰くその方がやりやすいのだとか。

 彼の乗る船の名前は『ムラマサ丸』。最近開発されたエンジンを積んでいる最新型の船だ。


 タロウは二週間分の食料や着替えなどを船に積み込み、漁に出発する。



 二日目まではほとんど移動だ。そして三日目、目的の場所に到達して網をおろして仕掛けをつくる。そして四日目からは錨を下ろしてから、タロウ自身が海に潜り仕掛けに追い込む。




 ………ん? なんだあれは?


 海に潜って魚を仕掛けに追い込んでいる時に、タロウは海面に何かが浮かんでるのを発見した。それは遠目から見ても明らかに魚ではない事はわかる。

 タロウはそれに向かって泳いでいく。どんどん近づくにつれてそれが人間の男だと言う事に気づいた。しかも体中傷だらけで生きているか死んでいるか分からなかった。

 タロウは今自分が置かれている状況に困惑しながらも海に浮いている人間を自分の船にまで連れて行った。

 布団の上に男を寝かせ、とりあえずタオルで体中の水気を拭き取った。彼自身何十年も漁師をやっているが、海で傷だらけの人間を見つける事なんて初めての事態だったのでこれ以上何をすればいいのか分からなかった。

 だがそれでもタロウは何十年も海で生きてきた海の男だ。緊急事態でも慌てることはなく、冷静に対処することが出来る。


 タロウは傷だらけの男の口元に耳を近づけて呼吸をしているか確認をする。

 弱弱しいが、今にもとまってしまいそうな程弱いが確かに呼吸をしている。

 ならばやる事は一つ。タロウは急いで仕掛けを船に引き上げてから簡単に応急処置をして自宅に向かう。応急処置と言っても傷がなるべく悪化しないように、貴重な真水で傷口を洗う程度だ。船の上には大した道具がないため、この程度しかできない。


 何故人が浮かんでいたのか、何故傷だらけなのか、タロウには当然分からなかった。そしてどんなに急いでも陸地に着くには二日はかかる。それまでこの男が死なないか心配で仕方なかった。


 タロウは寝る間も惜しんで船をとばした。


「ウッ…アァ……」


 時々苦しそうなうめき声が聞こえてくる。それに高熱を出してしまっているようだった。


「待ってろ…死ぬなよ。死んだら気分悪いだろ」


 タロウは誰に向かって言うでもなくポツリと呟いた。




 そして二日後、何とか帰ってきたタロウは傷だらけの男を連れて自宅に戻る。


「ハナコ!! 医者に連れてってくれ!! 重傷者だ」


 タロウは男を抱えて自分の妻に鬼気迫る顔でそう言った。ハナコは突然帰ってきた夫に驚き、そして夫が抱えている男性を見て更に驚く。血の気が引いていく。タロウはハナコに用意してもらった車に乗り、ハナコと共に病院へ向かう。



「緊急です! すぐに診て下さい!!」


 病院に到着した二人は声を荒げながら院内に入っていった。


「最優先だ!! 手術の準備を!!」


 めがねをかけた医者が看護婦にそう指示を出した。そして担架に傷だらけの男を乗せて、『手術室』と書いてある部屋に医者と看護婦は担架と一緒に入っていった。

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