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炎罪  作者: お終い
第1章
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第32話

「ここじゃ」


 エンブレイズが連れてこられたのは、先ほどのバルバの家になっている洞窟だった。


「ちょっと待っておれ」


 バルバはそう言ってエンブレイズを外に立たせたまま家の中に入っていった。


 五分程その場で待っていると、中からほこりまみれになったバルバがゆっくりと出てきた。長い白い髭とほこりまみれの顔で、まるで幽霊のような姿になっている。


 そんな幽霊のような姿のバルバが、細長い何かをエンブレイズに向かって投げた。エンブレイズはそれを難なく左手でキャッチする。


 柄を右手でつかみ、ゆっくりと鞘から刀身を抜いていく。


「それはワシが作った刀じゃ。リガ合金という金属を加工した。この世界に二本しかない名剣じゃ」


 リガ合金、初めて聞く物だ。だが今のエンブレイズはそんな事よりも目の前の、自分が手に持っている刀に目を奪われていた。

 鋭い刃に手入れを欠かしたことなどないであろう輝き、柄や鍔に至るまでエンブレイズを魅了する。


「剣の心得は?」


「多少は」


 エンブレイズは幼い頃から自身の出した炎の剣の扱いを練習してきていた。


「少し稽古をつけてやろう」


 エンブレイズが「なぜ?」と聞く前にバルバが話し出す。


「なぁに、大した理由はない。しいて言うならお前さんがワシの一番弟子に似てたってことくらいじゃ。今頃どうしてるかの、ダイジロウの奴は」


 エンブレイズは一瞬耳を疑った。『ダイジロウ』という名前に聞き覚えがあったからだ。エンブレイズのアルマを作ったのは他の誰でもないダイジロウだ。


「そのダイジロウってのはダイジロウ・ササキのことか?」


 エンブレイズは確認するかのようにバルバに尋ねる。


「何じゃ、知り合いだったのか。ま、別にどうでもいいが」


 バルバはそう言って腰にさしてある刀を抜いた。


 エンブレイズも同じように先ほどバルバに渡された刀を鞘から抜く。そして鞘を後方に投げ捨てる。その瞬間、ゴチンとエンブレイズは頭を殴られた。勿論バルバにだ。


「これ、物は大切にせんか!」


 エンブレイズは渋々投げ捨てた鞘を拾う。そして洞窟の入口に置いてある箱の上に丁寧に置いた。


「少し手合せしてやろう、お前さんは本気で構わんぞ」


 エンブレイズはお言葉に甘えて本気で行くことにする。本気でいくことに大した理由はない、ただエンブレイズが負けたくないと思っただけである。


 プラータを広げ、刀を右手に持ち半身に構える。本気の本気である。

 一方バルバは左手の小指で鼻をほじり、右手で刀をくるくると回している。一見すると隙だらけ、だが良く見ても隙だらけ。それでもエンブレイズは油断などしない。


 エンブレイズはプラータを大きく広げバルバに向かって行く。左右に高速で動きながら向かっていく。高速で動くエンブレイズはまるで分身をしているかのように見える横に三人のエンブレイズが並び、それぞれが刀でバルバに向かって突きを繰り出す。が、バルバは左手の掌で刀の切っ先を掴んだ。

 恐らく受け止めるだけでも困難な威力と速さを持っているはずだ。だがバルバは三人の分身でどれが本物か見極めたうえで刀を掴んだ。エンブレイズは驚きを隠せない。


「ほっ」


 バルバは掴んだ刀を自分の方に引き寄せる。すると当然エンブレイズも引き寄せられる。そして刀の柄でエンブレイズの顔面を思いっきり殴った。ギュルルと高速回転しながらエンブレイズは吹っ飛んだ。

 エンブレイズは地面にうつ伏せに倒れる。振り返って起き上がろうとした瞬間、首筋にひんやりとしたものがあてられる。それがバルバの刀だと一瞬で理解した。


「ワシの勝ち」


 バルバはそう言ってエンブレイズの首筋にあてていた刀を、ゆっくりと離し鞘にしまった。


 エンブレイズの額から一滴の汗が落ちる。僅か数分の手合せだったがエンブレイズは実力差をはっきりと理解した、今の自分では逆立ちしたって勝てないと。立ち上がって刀を鞘にしまう。


「ワシのアルマはな、これじゃ」


 突然バルバは嬉しそうに自分の右目を指さした。相変わらずキスできそうなほど顔が近い。エンブレイズは左手でグググとバルバの額を押した。


「コンタクトレンズじゃ。5秒先の未来が見える、勿論制限はあるがの」


 なんて反則級なんだとエンブレイズは驚愕する。


「だがな、見えるだけじゃ。見えたところで体がついて行かなければ意味がない。だから鍛えた、修行した」


 並ではない量の修行をしたのが簡単にわかる。


「お前さんのアルマは戦闘型のスピード、防御タイプじゃな。じゃが代わりに攻撃力は極端に低い。少しでも硬い奴が相手ならもう打つ手なし」


 あの僅かの手合せでエンブレイズのアルマであるプラータを解析したのかと、驚く。でもダイジロウの事を弟子だと言っていたからバルバも職人なのだろう。職人としても戦闘に関してもかなりの力を持つあのダイジロウの師匠であるならこの洞察力も戦闘力も納得できる。


「じゃからお前さんはこれからその刀を使え、足りない攻撃力はそれで補え。剣技はワシがこれから3ヶ月で基礎を全て叩き込む。剣の心得も何もお前さんのは剣に近い剣ではない何かを扱う心得じゃないか。お前さんは理由は知らんが強い力を少しでも早く身に着けたいんじゃろ?」


 エンブレイズは剣技を全く見せられなかったのに、何故そこまでわかったのか。しかもこちらの事情も見抜いて。やはりバルバの観察眼は凄まじいものがある。


「今までのその剣技はすべて忘れろ。お前さんに叩き込むのは言うなれば『バルバ流剣術』じゃ。ぶっちゃけ普通基礎は半年かかって身に着けるものなんじゃ。だから3ヶ月ってめっちゃハード。……どうする? やるかい?」


 少しでも速く強くなりたいエンブレイズにとっては願ってもいない好条件だ。たとえどんなにハードであろうと厳しかろうとエンブレイズにはもう一度会わなくてはならない人がいる。止めなくてはならない兄がいる。倒さなければならない敵がいる。

 だからエンブレイズは迷わずに答えた。


「勿論!」

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