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炎罪  作者: お終い
第1章
32/33

第31話

「目が覚めたかい」


 エンブレイズは渋い老人の声で目が覚める。目を開けて真っ先に視界に入ったのは、キスしそうなほど近くにあるしわくちゃの老人の男性の顔だった。


「うぉぉぉぉぉ!?!?!?」


 エンブレイズは驚きのあまりドシィィィンと大きな音をたててベッドから落ちる。


「うるさいぞ、暴れるな」


 エンブレイズは何一つ状況を理解できていない。だから先ほどの事を整理する。


 ……巨大なタコに追われていたら突然剣を携えた白髪の男性が現れた。その男性は気配だけで分かるくらいの強者で、明らかに自分よりも格上。

 そこまで整理したとこでエンブレイズは目の前の老人の姿を確認する。…白髪、腰には剣を携えている。そして全く隙が見当たらない。お茶を入れているだけなのに、隙がない。


「思い出したか?」


 エンブレイズはすぐに一歩後ろに跳ぶ。


「そう警戒するな、何もせんわ」


 老人はお茶をエンブレイズの前の机に置いた。エンブレイズはそれには手をつけずに恐る恐る口を開く。


「あんたは……誰だ?」


 するとエンブレイズは右肩に軽い衝撃を受ける。何が起きたのか分からなかったが老人が鞘に入った剣をエンブレイズに向けているのを見て、剣先で軽くつつかれたのだと理解する。


「人に名を訪ねる時は自分から名乗れと教わらなかったか?」


「あぁ…すまん」


「ワシはバルバじゃ」


「名乗るのかよ」


 エンブレイズはツッコミを入れた後軽く自己紹介をした。


「お主あれじゃろ? ……あのーあれじゃ」


「どれだ」


 先ほどの強大な殺気を放った老人とは思えない程のボケっぷりである。

 エンブレイズはバルバから自分が気絶してからの大まかな経緯を聞いた。空中で気絶したエンブレイズはバルバにお姫様抱っこされ、着地してゆっくりとこのバルバの住む洞窟のような家に連れてこられたらしい。


「お主、闘士じゃろ?」


 説明が終わると突然バルバにそう聞かれた。

 エンブレイズは首を縦に振る。次の戦いまでの日数も聞かれたので、エンブレイズは2日と答える。


 バルバはとても気まぐれなようで、それだけエンブレイズから聞くとベッドで眠ってしまった。いまいちこの老人の事が分からないエンブレイズは首をかしげながらも洞窟の外へ出る。エンブレイズも眠っても良かったのだが、あいにくこの場所に来る前に十分に休息をとっている。


 ならやる事は一つしかない。修行だ。しばらく魔獣を探して歩きまわる。するとこの島に来て初日に出会った、巨大な甲羅を持つ魔獣に遭遇した。


 エンブレイズはすぐにプラータを出し飛び上がる。硬い甲羅で防御し、巨大な手足で攻撃してくる。幸いそれほど速さはない。避けるのは難しくない。

 だがエンブレイズには甲羅の防御を上回る攻撃力はない。だから必然的に腹や顔を狙う事になる。当然魔獣も自身の弱点は分かっているから重点的に防御してくる。だから素早く動き隙を作るしかない。

 エンブレイズがプラータを出し、本気で動けばその動きを捉えるのは難しい。

 エンブレイズは魔獣の周りを高速で飛び回る。砂埃を起こしながら。

 すると突然エンブレイズは何かに躓き、地面に顔面から突っ込んだ。すぐさま体制を立て直し、あたりを見渡す。

 するとそこには木の棒に刺さった肉をむしゃむしゃと食べているバルバが左足を出していた。


「お主、何やっとんじゃ」


「見てわかんねぇの!? 魔獣を倒そうとしてんだけど!!」


 エンブレイズは若干キレ気味である。

 勿論二人がこんなやり取りしてる間も魔獣は待ってくれない。攻撃を続けてくる。


 魔獣は巨大なひれのような手を二人に向かって振り下ろす。エンブレイズはそれに気づき、バルバを抱えて避けようとする。


「落ち着きなさい」


 バルバはそう言って左腰にさしている剣を鞘ごと抜いた。

 バコォンと大きな音を立てて魔獣の振り下ろされるひれを受け止めた。


「騒いで済まなかったの、許してくれんか」


 バルバは落ち着いた口調で魔獣に向かってそう言った。

 魔獣はひれをゆっくりと下ろすとバルバとエンブレイズに背を向け、ゆっくりとどこかへ歩いて行った。


 突然パァンというキレのある音が響き、エンブレイズの頬に強い衝撃が走る。


「自分が強くなるために修行するのは結構。強くなる事で新しく見えてくる世界もあるだろう」


 エンブレイズは決して油断などしていなかった。先ほどまで魔獣と戦っていたのだ。しかも先ほどのバルバの異様な雰囲気を感じ取り、何が起きても対応できるように気を張っていた。だが音がして衝撃を感じて、エンブレイズは初めて自分が殴られたことを認識できた。


「だがな、魔獣はお前の為の修行道具ではない。彼らだってワシらと同じように生きているんじゃ。その生活を意味もなく荒らされてみろ、殺されたって文句は言えんじゃろ」


「………」


 確かにエンブレイズは自分が強くなる事しかかんがえていなかった。既に国を追われて半年以上が経過している。なのにエンブレイズは自分の中にある『ホムラ』という強大な敵に全く近づけている気がしない。そんな焦りが、エンブレイズの視野を狭めたのかもしれない。


「来なさい」


 鋭い眼光に睨みつけられたエンブレイズは生唾をごくりと飲み込んでバルバの後ろについて歩いて行く。

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