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炎罪  作者: お終い
第1章
31/33

第30話

「ちょっと…!! なんでこんな事に!!」


 エンブレイズは追われていた。自身のの十倍はあろう体の大きさのタコに。

 木々をなぎ倒し、地面を削りながら向かってくる。撃退を試みたものの、柔らかい体にはじかれてた。八本の吸盤のついた足で捕まえられそうになったりして逃げる事になっている。




 エンブレイズは眠りから覚め、モチに渡された紙に書いてある場所に向かっていた。

 そこは山の中にある闘技場からかなり離れたところを示していた。が、歩いて行けない距離ではない。

 草原を抜け、川を飛び越え森を進む。鼻歌を歌いながら歩いて行く。が、鼻歌に紛れて不思議な音が聞こえてきた。ゴゴゴと地面をえぐる音とバキンバキンと木々を倒すような音。

 エンブレイズは立ち止まり、音が聞こえる方を集中して見つめる。


「まじか」


 エンブレイズはボソッと呟いた。そしてくるりと身をひるがえし、全速力で走り出す。

 巨大なタコが何故か怒りながら向かってくる。

 何故だ何故だ? とエンブレイズは逃げながらに考える。

 もしかして鼻歌か? 鼻歌が悪かったのか? と謎の結論にたどり着いた軽くパニック状態のエンブレイズは、ビブラートの聞いた美声で歌い始める。それはもう大きな声で。結果、タコは更に怒ってしまったようでエンブレイズを追いかけてくる。


「ちょっと…!! なんでこんな事に…!!」


 プラータを出して短時間でも空を飛べば逃げられるのだろうが、エンブレイズは律儀に走り続ける。


 突然エンブレイズの後ろからさっきまで聞こえてきていた轟音が聞こえなくなった。

 驚きながらも恐る恐る後ろを振り向く。するとさっきまで怒っていたタコが細かくバラバラになっていた。


「………!!」


 エンブレイズは周りを見渡す。だが人一人見当たらないし、物音すらしない。……いや、わずかだが草を踏むような音が聞こえる。


 チン


 小さいが確かに金属音が聞こえた。恐らくタコの向こう側、視界を遮られているが確実に誰かいる。

 エンブレイズは大きく深呼吸をして荒れていた気分を鎮める。気配を限りなく小さくして物音をたてないようにプラータをゆっくりと広げ、ゆっくりと上昇する。そして高い木の上にゆっくりと降り立ち、音が聞こえたタコの周りをじっくりと観察する。


 ………いた。白髪の、恐らく人間の男性。腰には剣のようなものを携えている。右手には大きなタコの破片を持っている。そしてなによりその男性は異様な雰囲気を醸し出しており、声をかけるどころか近づく事すらできない。いつの間にかエンブレイズの呼吸は荒くなり、額からはポタリと汗がしたたり落ちる。

 足の裏が貼り付けられているようで、今すぐに逃げ出したいのに動くことが出来ない。

  エンブレイズは今まで感じたことがない程の恐怖を感じる。まるで首筋に鋭いナイフを当てられているかのような緊張感。少しでも動いたら一瞬にして喉元を掻っ切られてなすすべなく殺されてしまうかと思うほどの強烈な殺気。

 白髪の老人とエンブレイズの視線が合う。

 瞬間、エンブレイズの額から滝のように汗が流れ出る。ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!! 背筋が凍るほどの恐怖、逃げられないという確信。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 今までの二倍ほどの大きさの羽根を老人に向かってとばす。近くの木々に穴を空け、タコの体に穴を空け地面をえぐる程の強力で高速な大量の羽根が老人に向かっていく。

 ドドドドドドという大きな音がその羽根の威力を物語っている。


 どのくらい羽根を撃ち続けたかエンブレイズにも分からなくなるほど撃った。


「はぁはぁはぁ……」


 舞っていた砂埃が晴れた時、そこには地面に刺さる大量の銀色の羽根と剣を持った無傷の老人がいた。

 老人はエンブレイズの方を見つめ、剣を頭の上から振り下ろした。


 明らかに剣の間合いではない。どうやっても刃が届く距離ではない。が、透明な鋭い何かがエンブレイズの方に向かってくる。

 エンブレイズはこの透明な何かに覚えがあった。だから受け止めるよりも避ける方が最適だと分かっていた。エンブレイズは素早く左に避ける。

 エンブレイズの後ろにあった小さな山のような巨大な岩が真っ二つに割れた。そしてその透明な何かは空に向かって行き雲を裂いた。


「ほほぅ、今のを避けるか」


 木の上に立って後ろを向いて驚いていたエンブレイズのすぐ近くから渋い声が聞こえてきた。

 振り向くとエンブレイズの横に先ほどの老人が立っていた。

 気配を全く感じなかった、小さな物音すらしなかった。ほんのさっきまで地上にいたのに。

 エンブレイズはプラータを広げてすぐさま背中を見せて飛んで逃げる。


「逃げなくてもよいぞ」


 逃げてるはずなのに、距離が離れている気がしない。真上から声がする。それもそのはず、エンブレイズの上に老人が立っていた。


「う…うあぁぁぁぁぁぁ!!」


 先ほどの恐怖がよみがえる。エンブレイズはどうしたらいいのか分からなくなっていた。


「安心せい、もう何もせんよ」


 老人はほっほっほと笑う。すると首元に強い衝撃を感じる。


「がっ…!!」


 エンブレイズは体勢を保っていられなくなり、地面に向かって一直線に落ちて行く。

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