第2話
「エンブレイズ国王、今すぐ城に向かいましょう」
護衛の言葉でやっと状況を理解することができたエンブレイズはすぐさま城に向かう事にした。城に向かう前に護衛の中でもリーダーらしき男が応援を呼び、三人の体を別の場所に運ばせた。
城には今フーゴがいる。悪い考えがエンブレイズの頭をよぎったがその考えを振り払い、止まらない涙を拭って馬を走らせる。だが、どんなに急いだところで城までは少なくとも一時間はかかる。
二十分程馬を走らせたところで護衛の一人が口を開いた。
「国王、前方およそ五百メートル先に人がいます。人数は…二人です! どうしますか?」
この状況で現れるのは恐らく敵だろう、とやっとわずかに冷静になれた頭でそう考える。
「突っ切るぞ」
二人ならなんとか逃げきれるかもしれないし、何よりこんなところで時間をかけられない。一刻も早く城に向かわなければならないエンブレイズには、相手をしている暇はなかった。
全員馬たちの速度を上げて走り去ろうとする。が、突然先頭を走っていた護衛の馬が鳴き声をあげて地面に倒れた。そして次にエンブレイズの馬が何かに貫かれて倒れる。
突っ切る事ができずに足止めをくらってしまった。
「国王、私の馬に乗っていって下さい。相手は恐らく水の民の者、馬を貫いたのも水の弾丸です」
エンブレイズは頷いてから残りの二人の護衛と共に馬を走らせる。
走らせると同時に後ろでバチィィンと激しい音がしたが、エンブレイズは振り返らずに城に向かった。
城に着くとそこはまさに地獄だった。
既に日が落ちて暗くなっている筈なのに、城が激しい炎に包まれて辺りを明るくしている。
「………」
エンブレイズも護衛達も驚きのあまり声が出なかった。
ガシャァァンと大きな音をたてて燃え上がる城の中で大きな柱が倒れる。その大きな音で我に返ったエンブレイズは恋人であるフーゴがいないことに気づく。
「フーゴ!! どこにいる!!」
呼びかけてみても当たり前のように返事がない。
「国王!! あれを……」
エンブレイズは護衛が示した方向を見た。いや、見てしまった。
激しく燃え上がる城の前に一本の棒が地面に突き刺さっている。その棒の先には何か丸いものがついていた。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
エンブレイズは気付いてしまった。棒の先についている丸いものが人間の生首だと。そしてその生首が恋人であるフーゴのものである事を。
膝から崩れ落ちたエンブレイズの目からは大粒の涙がこぼれる。そして悲しみと、悔しさと、色々な感情がないまぜになった叫びがエンブレイズの口から止まらない。
彼はゆっくりと立ち上がった。そしてフーゴの元へゆっくりと歩いて行く。ゆらゆらとおぼつかない足取りで。エンブレイズは悲しそうな表情をしたフーゴの頭の目の前で立ち止まると、その頭を手に取って強く抱きしめた。何度も何度も謝りながら、強く、強く。大粒の涙を流しながら。
「そんなものがそんなに大事か?」
聞き覚えのある声にエンブレイズはくしゃくしゃの顔をあげて声のしたほうを向いた。
「驚いて声も出ないか。まぁ当然だよな」
妙に落ち着いたその声はゆっくりと、でも確実にエンブレイズの方に近づいてくる。
「兄…上……」
エンブレイズがやっとの思いで絞り出した言葉は、目の前にいる人物を呼ぶ言葉だった。




