表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎罪  作者: お終い
第1章
29/33

第28話

 お互い武器なしの素手での戦闘。奥の手(プラータ)は隠しておく。

 エンブレイズはモチの腹部目がけて右手で思いっきりパンチを繰り出す。モチはそれをその場から動かずに軽々と左手で受け止める。


「所詮は人間ですね…」


 モチは掴んだエンブレイズの右手を自分の方に勢いよく引き寄せる。自分が引き寄せたエンブレイズにぶつかる紙一重のところでモチはかわし、足を引っかける。そしてエンブレイズがよろけたところを、モチは体を半回転させてエンブレイズの背中を右手で強く殴りつける。


 エンブレイズはそのまま吹っ飛び闘技場の壁に激突する。壁にエンブレイズの形がくっきりと残る程強くぶつかり、エンブレイズは地面に倒れこむ。


 モチが鬼の中で小柄とはいえ、それでもエンブレイズよりも一回り程大きい。人間であるエンブレイズよりも力が強いのは当然だ。


「僕ごときにこのザマとは…貴方は一体何しに来たんですか?」


 モチにはまだ余裕がある。エンブレイズもまだ奥の手(プラータ)を隠しているが、まだ出したくはない。

 それにかなりのダメージだが想定内だ。まだまだ戦いようはある。


 エンブレイズは立ち上がり、もう一度モチに向かって走っていく。


「ウラァ!!」


 モチの顔目がけ右の拳を繰り出す。それはガードされる。が、エンブレイズは続けて逆側からも拳を繰り出す。そして腹部目がけ蹴りを繰り出す。もう一度蹴りを繰り出す。拳、蹴り、絶えず攻撃を加えていく。

 が、モチはそれを全て的確に防いでいく。



「思ったより速いんですね、力も強いです。さっきのは本気じゃなかったんですか?」


 エンブレイズは無視して攻撃を続ける。が、このままでは恐らく先に自分の体力が尽きる。そう思ったエンブレイズはプラータを使う事にする。モチに見えないようにプラータを広げ、上空に向かって静かに羽根を放つ。エンブレイズはモチの意識を空から逸らすためになるべく足元や腹部を狙い続ける。


 そして上空に十分な羽根が放たれた時、エンブレイズはモチと距離をとる。そしてすぐさま羽根をモチの上にだけ降らせる。


銀色の雨シューバ・ダ・プラータ


 モチは羽根に気づかなかったようで、避けられずに上空から降り注ぐ銀色の羽根に体が切りつけられていく。


 観客席からは『あの人間羽根がある』といった言葉が聞こえてきたが気にせず攻撃を続ける。


銀色の連装矢(バハ―ジム・プラータ)


 モチに向けて大量の羽根を勢いよくとばす。

 上と正面、二つの方向から鋼鉄の硬さの羽根を受けるため、モチは防御で手いっぱいだ。それでも完全には防御出来ずに、ダメージを受けている。


 そしてエンブレイズは銀色の連装矢(バハージム・プラータ)に紛れてモチに走って向かって行く。

 モチに手の届く距離まで詰めた時、羽根の上と横からの羽根の発射を止める。そして小さな羽根の一つ一つが右手を覆い隠していく。


銀色の鋼鉄拳(マルテロ・プラータ)


 鋼鉄の硬さの羽根で覆った拳をモチの顔面目がけて思いっきり放つ。


「ぐぁっ!!」


 モチは避けられずに吹っ飛び、ドゴォォォンと大きな音をたてて壁に激突した。


 ガラガラという音をたててモチは瓦礫の中から立ち上がる。


「やっぱり本気じゃなかったんですね。さっきは何しに来たとか言ってごめんなさいね」


 モチは体勢を低くし、大きく深呼吸をした。

 そしてモチの足元から砂埃が舞ったと思った次の瞬間、いつの間にかそこにモチはいなくなっていてエンブレイズの目の前にいた。


「くっ…!!」


 何とか体をひねり一瞬で目の前に現れたモチを避けようとしたが、避けきれずにエンブレイズは脇腹を切り付けられた。

 エンブレイズの後方で激しい音と共に石の壁が崩れ落ちた。


「でもその程度じゃ所詮下位止まりですよ」


 モチは自身が崩した壁の瓦礫の中から立ち上がって、静かに言い放った。

 エンブレイズは立ち上がったモチの角がさっきよりもかなり長くなっている。見た感じ五センチにも満たなかった角が三十センチほどにまで長くなっている。


蒼鬼槍(そうきそう)。この小さな体は僕にスピードを与えてくれた」


 確かに速かった。だが見えなかったわけではない。


「次は外さないよ」


 モチはそう言って体制を低くした。エンブレイズは瞬きせずプラータを広げ、モチを見つめる。


「………」


「………」


 二人の間に沈黙が流れる。


 びゅん、という風を切る音を出して最初に動き出したのはエンブレイズだ。上空高くに飛び上がる。高く高く、モチや観客が豆粒ほどの大きさに見えるくらいに。


鋼鉄の(イスピア―・エイス・)銀槍(プラータ)


 そして空中を蹴って、地上にいるモチ目がけて高速で落下していく。肩甲骨から生えている二枚の翼を頭の先で槍のように包み、もう二枚の翼は体に巻いて防御力を高める。


 地上ではモチが地面がえぐれるほど強く蹴ってエンブレイズに向かって跳び上がる。

 高速でお互い向かって行く二本の巨大な槍は、真正面からぶつかり合い大きな音をあげた。

 二人ともほぼ同時に地面に向かって頭から落下していく。

 エンブレイズを包んでいた銀色の槍はかけらとなって落ちて行く。モチの長くなった鋭い角も真っ二つに折れ、落ちて行く。


 ドサッと言う音と共に大きな砂埃が舞い、二人は受け身など出来ずに地面に横たわった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ