第27話
「気つけろ、そこぬかるんどるぞ」
オニスケの後に続いて歩いて二十分程経った。
「この島は鬼の住む島だべ」
「鬼? そんなのが住むなんて聞いてないぞ。魔獣やゴーストが住む魔の島だって聞いたぞ」
鬼なんて種族はエンブレイズは書物の中でしか知らない。大昔にとある島を支配していた種族だと。
「ここだべ」
オニスケはエンブレイズの話を遮った。
そこは恐らく島の中で一番大きな山のふもとだ。海の上から見えた一番目立つ山で間違いないだろう。
オニスケは一枚の巨大な岩をゴゴゴという音を出して横にずらした。
「入るべ」
エンブレイズは黙ってついていく。鬼が通れるようにかなり広くなっている洞窟は、壁際で炎が等間隔でゆらゆらと揺らめいている。
エンブレイズ達が歩き出すと、先ほど空いた入口がまたゴゴゴという音を立てて閉まった。エンブレイズは少し驚いて立ち止まったがすぐにまた歩き出す。
そして更にそこから十分程歩くと歓声のような声が聞こえてきた。
エンブレイズは歓声につられて走り出す。
明かりが見えてきて一気に開けた場所に出た。
「いいぞー!!!」
「負けるな―――!!!」
そこには一体の三本の角が生えた鬼が巨大な長い鼻の牙の生えた魔獣と戦っていた。そして少し高いところから沢山の鬼がそれを囲んで歓声を送っている。
「ルォォォォォォォォォ!!」
魔獣がその長い鼻で三本角の鬼を薙ぎ払う。が三本角はそれを上に跳んで躱す。そして魔獣の鼻の上に着地し、更に上へ跳びあがる。
三本角は天井近くの高いところで一回転し、魔獣に向かって勢いよく落ちて行く。そして三本角のキックはドゴォォンという音をたてて魔獣に命中する。
「ルォォォォォォ!!!」
魔獣は悲鳴のような声をあげてその巨体がドシーンと地面に倒れた。
三本角は倒れた魔獣の上に立ち、観客に向かって手を振っている。
「すげぇ……」
エンブレイズはいつの間にか見入っていた。
「あいつは三本角のサブロウ。この闘技場のナンバー5の闘士だっぺ」
ゆっくりと歩いてきてエンブレイズに追い付いたオニスケが説明をした。
「ここは闘技場、沢山の力自慢が集まる場所だっぺ」
エンブレイズはオニスケの言葉に耳を傾ける。
「ルール無用のデスマッチ、まいったって言うか死ぬか気絶したら負け。どうだ?」
オニスケの『どうだ?』という質問は参加してみないか? と言う意味だ。
確かに修行するには実戦が一番だ。だからエンブレイズの答えは既に決まっていた。
「勿論参加するさ。これ以上良い修行場はない」
エンブレイズはニヤッと笑った。
闘技場はランキング制である。現在の闘士の数は全部で215人。勝てば3ポイント、引き分けはお互いに1ポイント、負けはマイナス2ポイント、闘士全員がナンバー1を目指して戦い続ける。
ナンバー1になったって何かがもらえるわけではない。それでも皆、ナンバー1の栄光を求めて戦い続ける。
エンブレイズは勿論0ポイントスタートだ。初戦の相手は同じく0ポイントの鬼のモチ。
他の鬼に比べ若干小さいらしいが、油断は禁物だ。
戦いは明日、それまでエンブレイズは体を休める事にした。
闘士にはそれぞれ個室が用意されている。何もない部屋だが、布団と水飲み場があった。それだけでエンブレイズは泣きそうな程嬉しかった。
「さぁ~あ!!本日の初戦は下位の鬼となんと人間の戦いです!! それでは選手の登場です!!」
マイクを持ったアフロの鬼が大きな声で話し始めた。
「現在197位! 小柄ながらも闘士として戦う鬼、モチ!! そしてその対戦相手は…なんと人間!! 力は未知数、エンブレイズ!!」
うぉ――!! と歓声が上がる。観客は人間であるエンブレイズが戦うとあって興味津々だ。
「なんで人間がこんなところにいるのですか? まぁ連れてきたのがオニスケさんだから誰も文句は言わないですけど」
モチと言う名の鬼は確かに他の鬼よりも二回り程小さい。それに一本だけ生えている角が若干短い気がする。
赤いパンツと何故かタンクトップ。よく見ると観客の鬼たちも全員が色はさまざまだがタンクトップを着ている。
……ダサい。しかも膝上の半ズボンだからさらにダサい。
「武器あり目つぶし金的アリのなんでもアリ!! 相手がまいったというか死ぬか気絶したら勝ち!! ではレディ―…ファイト!!」
エンブレイズは拳を振り上げモチに向かっていった。




