第26話
「甘く見てた」
ギラギラと輝く太陽の下焼けるような暑さの中、エンブレイズはポタポタと汗を流しながら呟いた。
島生活七日目、予想以上の暑さと予想以上の魔獣の獰猛さはたった七日で嫌と言うほど実感していた。
まず到着早々に綺麗な砂浜で謎の落とし穴に落ち、プラータを使って穴から抜け出すも先ほどまでいなかった大きな甲羅を背中に持つ二足歩行の巨大な魔獣に追いかけられた。少なく見てもエンブレイズの三倍以上の大きさがある。
攻撃しても全てその甲羅にはじかれ、ひれのような手で叩き潰されそうになる。
そして先ほどエンブレイズが落ちた穴からは大量の、小さいが同じような魔獣が出てくる。小さいと言ってもエンブレイズと同じくらいの大きさだ。
恐らくあの魔獣の巣だったのであろう。そして巣を荒らされたと思いエンブレイズを攻撃してきた。
100%自分が悪いと思った為、攻撃するのをためらった。が、倒さないと確実に死ぬと全力で逃げながらエンブレイズは思う。
チラッと後ろを向くと目をギラギラと光らせて、明らかに怒りながらエンブレイズを追ってきていた。
「ルォォォォォォォォォォ!!!!!」
「ごめんなさい――――!!」
謝ってしまった。だって怖かったんだ、と自分に言い訳する。
走りながら呼吸を整えて鋼鉄の羽根を一つづつ大量に自身の背後にばらまく。
「ルァァァァ!!」
エンブレイズを追ってきていた魔獣達が悲鳴のような声をあげて立ち止まる。鋼鉄並の硬度を持つプラータの羽根の一本一本は、地面にばらまけばまきびしにもなる。
そしてこの隙にエンブレイズは逃げる。そして木の陰に隠れる。
魔獣が追ってこないのを確認して一息つく。
そしてこの島での生活の拠点を探す。雨風を凌げて、欲を言えば水場が近くにあったほうがいい。
二時間程歩きまわって近くに滝つぼの近くに洞窟を見つけることが出来た。
勿論その洞窟に魔獣が住んでいないことを確認し、近くにも魔獣がいない事を確認する。
時々滝つぼに魔獣が水を飲みに来るくらいだ。
そしてこの七日間、この洞窟で夜眠る事が出来ている。
やはり魔獣と言えど獣、炎にはやはり近づかない。
エンブレイズは火おこしをしたのは初めてだ。今までは自分の思うまま意のままに炎を自身の体から出すことが出来た。木の枝とナイフを使って作った板を使い、火を起こす。手には豆ができていた。
拠点を留守にする時も火は消さずに出かける。水の問題は解決した。まきも沢山生えている木を切って使う、問題は食材。木の実や草は沢山生えているが、そう言った場所は既に魔獣たちの縄張りになっている。魚も沢山いるみたいだが、全く釣れない。潜ってみても魚に追い付けずに捕まえることが出来ない。
やはり魔獣を倒して肉と植物を確保するしかない。
滝つぼの一番近くにある開けた草原のような場所には長い鼻とその両脇には二本の太く鋭い牙が生えた、山のように大きな魔獣が数頭いる。以前そのうちの二頭が争っているのを目撃したが、あまりの迫力でエンブレイズは立ち尽くしたまま動けなかった。
他の場所も探したが、どこも凶暴な魔獣の縄張りになっていて手出しできそうになかった。
が、七日目にしてエンブレイズは本来の目的に気づく。
「逃げてたら修行の意味ないじゃん!!」
プラータを出し、エンブレイズは空中に向かって飛び上がる。
そして鋭い牙の魔獣がいる草原に向かう。幸い一頭しかいない。修行の為、何より肉が食べたい為エンブレイズはその魔獣に向かって上空から無数の羽根をとばし攻撃する。
「オォォォォォォォォン!!!!」
魔獣がエンブレイズに気づく。
その長い鼻で自身よりもはるか上空にいるエンブレイズを叩きつける。
ドゴーンという激しい音と共にエンブレイズは地面に叩きつけられた
「ってぇ…」
何とか羽根で頭をガードし、致命傷は避ける。そして息つく暇もなく魔獣はエンブレイズを踏みつぶそうとする。足の大きさはエンブレイズよりもはるかに大きい。勿論踏まれでもしたら洒落では済まない。
何とか痛みを我慢し、すぐにそれを避ける。
そしてすぐさま反撃をする。羽根を大量に魔獣に向けてとばす。が、長い鼻からの息で全てはじかれてしまった。鼻息と言えどまるで突風のようだ。
エンブレイズは空を飛んで距離をとる。が、攻撃手段がない。羽根をとばしても全てはじかれてしまうし、恐らくまきびしも効果は薄い。
とりあえず近づいて魔獣の太い後ろ脚にパンチをしてみる。が、恐らく魔獣は攻撃された事すら気づいていない。それどころかまた踏みつぶされそうになった。
「……勝てん」
エンブレイズはボソッと呟いて岩の陰に隠れた。
そして魔獣が通り過ぎるのを待ってから、森の中へ逃げる。
呼吸を落ち着かせながらも、自身の武器が攻撃力が低い事に気づく。
草むらから突然ガサガサという音が聞こえた。エンブレイズはプラータを出し、構えをとる。
「んお? ニンゲンかおめぇ」
草むらから出てきたのは三メートルくらいの大きさの角の生えた人だった。
「誰だ?」
「そりゃこっちのセリフだべ。おめぇ誰だ? なんで人間がここにいるだ?」
どうやら敵意はないようだ。だが、エンブレイズはプラータは出したままにしておく。そして今の僅かの会話でこの生物は情報を持っていないという事も分かった。
「俺はエンブレイズ、見ての通り人間だ。修行しにこの島に来ている」
エンブレイズは握手を求める。
「オラはオニスケ、鬼だ。多分三十年くらいこの島に住んでいる」
オニスケと名乗った者はエンブレイズの握手に応じた。
「修行っていうとおめぇは強くなりてぇんか? だったらいいとこがあるだ。ついてくるっぺ」
オニスケはエンブレイズに背を向け歩き出した。がエンブレイズは罠の可能性を考える。
「なんで俺に親切にする? もしかしたら俺が悪人かもしれないだろ」
オニスケはエンブレイズの方を向いて小さく溜息をついた。
「…握手したときにわかったっぺ、コイツは悪人じゃないって。それにもしおめぇが暴れたとしてもオラ達には勝てねぇっぺ」
エンブレイズは先ほどからずっと思っていたが、言葉がなまっている。それとタンクトップと黄色いパンツだけの変態のような格好をしている。
とりあえずエンブレイズはオニスケの後について歩いて行くことにした。




