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炎罪  作者: お終い
第1章
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第19話

 無事とは言い難いが、エンブレイズはフタバから魔力結晶を奪う事が出来た。


 フタバは明日職人の元へ向かうと言っていたため、エンブレイズは今日はゆっくりと休むことにした。


 フタバが曰く、魔力結晶をアルマにするには特別な技術が必要らしい。普通の人がやったらただの石ころになって終わり。アルマを作る作業自体は単純なもので半日くらいで終わるらしい。が、作り終わったあとの疲労感が凄まじく、大体の人はしばらく動けなくなるらしい。

 そして一番大事なのが職人が変人らしい。勿論職人は一人ではないが、もれなく全員が変人らしい。方向性はバラバラなのだが全員が変人。


 今回エンブレイズのアルマを作ってもらうのはフタバやイツハのアルマも作ってくれた職人らしい。


 そして翌日の朝、エンブレイズはフタバと一緒に職人の元へ歩いて向かう。


「行きたくないなぁ……嫌だなぁ…」


 歩き始めてから既に何度もこのセリフを言っている。そんなに会いたくないのなら別の職人の元へ行けばいいのでは? とエンブレイズは思ったが、口には出さなかった。


 そして三十分程海岸沿いに歩いたところで一つのコケの生えた古井戸があった。


「ここに入ります」


 フタバの予想もしていなかった言葉に、エンブレイズは耳を疑った。

 エンブレイズが聞き返す前にフタバは古井戸の中に飛び込んだ。


「え? 本当に?」


 エンブレイズは古井戸の中を覗き込む。その中では豆粒のように小さく見えるフタバがこちらを見上げて手を振っている。


「深すぎないか…?」


 エンブレイズはボソッと呟いた。大きく溜息をついたあと、ためらうことなくエンブレイズも古井戸の中に飛び込んだ。



 無事に着地したエンブレイズはフタバと一緒に奥に続く真っ暗な一本道を歩き始める。明かりもない真っ暗な道を五分程歩くと、突然明るくなって大きな銀色の門のようなものがエンブレイズの視界に入ってきた。


 まるで魔獣の住む部屋のようだ。フタバはノックもせずにその大きな門をゴゴゴという凄まじい音を立ててゆっくりと開けた。


「ほ?」


 そしてその門を開けた先には一人の美少女と若い男性がこちらを見ていた。


「フタバちゃんではないか。どうしたんです?」


 若い男性がフタバの元にゆっくりと歩いてきた。


「フタバ―――!!」


 美少女はフタバを見るなり、いきなりフタバに手を広げて飛びついてきた。

 フタバはその飛びついてきた美少女に無言で右ストレートをくりだした。その鋭いストレートは美少女の頬に見事に直撃し、美少女は吹っ飛ばされた。何故か笑顔だった。


「紹介するね、この男性の方が職人のダイジロウ・ササキ。こう見えて四十三歳」


「はっ!? ウソだろ??」


 フタバの紹介に思わず驚いて声をあげてしまった。

 ダイジロウ・ササキと紹介された男性は短髪でつりあがった鋭い目に高い鼻が特徴的で身長はエンブレイズよりも十センチ以上高く、タロウと違って筋肉は目立つほどはない。そして顔にはしわなどは全くなく、とても四十歳を過ぎているとは思えない。


「…で今あそこで幸せそうに身もだえてるのが職人見習いのサクラ・ハナミズキ。……えーと…女の子が好きな女の子。一応ああ見えてわたしより二つ年上の二十一歳」


 サクラ・ハナミズキと紹介された女性はピンク色の髪を後頭部の高い位置で一本に縛り、それは腰あたりまで伸びている。

 身長はフタバよりも僅かに低く、ぱっちりとした大きな目からはブルーの瞳が覗く。そして桜色のぷるんとした唇の間からは綺麗な白い歯が見える。そして胸はあまり大きくない。


 二人とも黒いTシャツに紺色の長いパンツを履いている。顔や手などは所々黒く汚れている。


「で、こちらが………」


 フタバが言葉に詰まる。現在のエンブレイズは世間からしたら指名手配中の犯罪者なのだ。どう紹介したらいいのか困るのは当然だった。


「エンブレイズ・シャーマ君だろ? 君は有名人だからね、知ってるよ」


 エンブレイズはすぐさま後ろにとんで二人と距離をとった。


「そんなに警戒しなくても大丈夫なんだけどな、って言っても無理か」


 ダイジロウ・ササキはハハハと笑った。だがエンブレイズにはその笑いが不敵で、怪しいものに思えた。


「……で今日はどうしたの?」


 サクラ・ハナミズキが地面にうつ伏せになりながら荒い呼吸をしながら言った。


「コイツのアルマを作ってほしいんだ」


 フタバがエンブレイズを指さした。

 エンブレイズはまだ警戒を解く事はできず、二人をにらみつける。


「構わないよ。…でもその前に犯罪者がフタバちゃんと一緒にいる理由を話してくれないかな」


 ダイジロウ・ササキが急に真面目な顔つきで言った『犯罪者』という言葉がエンブレイズの胸に突き刺さる。


 フタバはエンブレイズの方に一瞬視線を送る。そしてエンブレイズの話をフタバは話し出した。




「………嘘は言ってないみたいだね」


 フタバが話している時はエンブレイズは心臓が張り裂けそうなほどバクバクしていた。例えフタバが正直に話したところで「そんな事あり得ない」と言われてしまえばそれまでだ。更に最悪の場合も想像していた。それはこの二人がホムラの手の者であるという事。フタバの紹介であるし、その可能性は限りなく低いがゼロではない。フタバが騙されている可能性だってゼロではない。

「俺はね、その人が嘘を言ってるか分かるんだよ。生まれつき耳が良くてね、その人の呼吸や筋肉の動き、心音なんかも分かるんだ。だから嘘をついてるかくらい分かるんだよ」


 そんな人間がいるのかと驚くエンブレイズをダイジロウ・ササキは奥の個室に呼び出した。

 二人は奥の部屋に入ってドアを閉めるとダイジロウササキは小さなナイフを真正面からエンブレイズの首筋に当てた。


「いいか、フタバちゃんの紹介だからお前のアルマは作ってやる。まぁ、仕事でもあるしな。フタバちゃんは確かに嘘は言っていなかった。だが俺はお前を信用していない。お前が怪しい行動をしたら、お前がどこの国の誰だろうと関係ない。その時は俺がお前を殺す」


 鋭い視線で睨みつけ、ダイジロウ・ササキは冷たい口調で言い放った。エンブレイズが言葉だけで恐怖を感じたのは初めての経験で、小さく頷くしかなかった。


「フタバちゃんとサクラを呼んで来い」


 ダイジロウ・ササキはエンブレイズの首筋からナイフを離した。

 エンブレイズは返事もせずに振り返ってさっきまでみんながいた部屋に戻ろうとする。


「そう言えば言い忘れていたが、サクラはあぁ見えて強いぞ。多分今のお前なんか簡単に殺せるくらいにはな」


 エンブレイズはごくりと唾を飲み込んだ。

 ダイジロウ・ササキの『おかしな真似はするな』と言う警告だろう。エンブレイズは言葉の意味をちゃんと理解した。エンブレイズの額の汗がぽたりと地面に落ちる。


 そしてエンブレイズはフタバ達を呼びに戻った。

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