第1話
「本日より、エンブレイズ・シャーマを正式にシャーマ王国の第二十二代目国王とする!!」
民からの祝福の声、祝いの拍手、激励の言葉、すべてが少年には心地よかった。
エンブレイズは嬉しかった。未熟な自分の為に沢山の民が集まってくれたことが、民たちが未熟な自分を王と認めてくれたことが。
エンブレイズは前国王であるフレミアから受け取った王冠をかぶり、民のいる方を向いた。
「国民の皆さん、今日は私の為の式典に来てくれて心より感謝する。本日より炎の民の王は私となった。まだ十七の若造だが国の為、国民のために努力するので暖かく見守ってもらいたい。よろしく頼む」
エンブレイズの挨拶が済むとまた大きな拍手と歓声が起こる。
シャーマ王国のほぼ中央に位置する通称『フラマ広場』。そしてそのフラマ広場を囲むように王族であるシャーマ一族の住む王の敷地がある。そしてその敷地のほぼ中央にあるのがシャーマ一族の住む城だ。
シャーマ一族の敷地は普段は一般人、および関係者以外の立ち入りは禁止している。だがこの日に限っては敷地は一般人に開放される。勿論城には近づけないが。
敷地内、フラマ広場には国民の大多数が押し寄せ、まるで自分の事のように新国王の誕生を喜び祝う。
挨拶を終え、城へと戻って行く現国王と旧国王。
「お疲れさま」
城へと戻ったエンブレイズを出迎えたのは、母親であるエンと兄のホムラ、そして恋人のフーゴ・ケイマー。
「母上、何故来たのですか? 寝ていなきゃダメでしょう」
エンブレイズとホムラの母親であるエンは原因不明の病を患っている。そのためか肌は青白く、痩せこけている。薬の副作用で腰まであった綺麗な栗色の髪はすべて抜け落ちてしまっている。回復の兆しは全くない。それどころか日に日に悪化していっている。
「息子の晴れ舞台だもの。多少無理してでも見ておきたいのよ」
「私が母上を部屋まで連れて行く。お前はまだ式典があるだろう」
ホムラはそう言ってエンを連れて行った。
「済まない、兄上」
エンブレイズより八つも年上である兄のホムラが本来なら王になるはずだった。だがとある事件で信頼を無くしてしまったホムラは民達からシャーマ王国の王として、炎の民の王として認められなかった。
「気にするな」
先代の国王であり、二人の父であるフレミアはエンブレイズの肩を軽く叩いた。流石は父親と言ったところか、息子の考えなどお見通しなのだ。
「さっさと着替えろ、これからパレードだぞ」
優しく笑って歩きだすフレミアの背中が、エンブレイズにはとても大きくみえた。エンブレイズは小さく息を吐いてから返事をした。
パレードは馬に乗って街中をゆっくりと歩くといったものだ。馬は全部で八頭、フレミア、エン、エンブレイズ、ホムラがそれぞれ一頭ずつに乗り、護衛が四人だ。エンは無理を言ってパレードに参加した。
パレードが始まって約五時間、南街を抜けようという頃にそれは突然起きた。
パン
民たちの声援に紛れて乾いた音を聴いた者は一人もいなかった。だから誰も気づかなかった。気づくことが出来なかった。
「え?」
ホムラの口から小さな声が漏れた。ホムラの胸元からは赤い液体がこぼれだし、ドサッという重たい音と共に彼は馬からずり落ちた。
民たちも、フレミアやエン、エンブレイズすらも何が起きたのか理解できなかった。民たちの歓声が一瞬にして鳴りやむ。
―――パン―――パン―――
今度ははっきり聞こえた。しかも二発。
エンブレイズの目の前で両親が馬からずり落ちた。
地面にうつ伏せになる二人を中心に赤い水たまりが広がっていく。
「キャ―――――――――!!!!」
現実を理解した民の一人が悲鳴を上げて逃げ惑う。
それを引き金にして民たちは不安の声をあげて逃げ惑う。エンブレイズは未だに目の前で起きたことを理解できずに声にならない声が口から漏れる。
大きな悲鳴をあげて右往左往と民たちは逃げ惑う。
国王誕生というシャーマ王国一番の祝福されるこの日は、王族が撃たれるという最悪の日へと変わってしまったのだ。