第18話
真面目に奪うための戦術を考えてしっかりと準備をして浜辺に向かう。
エンブレイズが浜辺に着いた時は既にフタバが魔力結晶を持って仁王立ちして待っていた。
「何か言う事は?」
「先ほどは誠に申し訳ありませんでした」
「うん、よろしい」
フタバはそう言って眩しい程の笑顔をエンブレイズにむけた。
「ありがとう、じゃあいくよ」
エンブレイズは優しく微笑んでお礼を言った。そして大きく深呼吸をしてから構えをとる。
フタバも魔力結晶を左手に持って、左足を半歩ひいて半身に構える右手は拳を作り胸の前あたりに持ってきて。
「本気で来てね」
エンブレイズはフタバの言葉には返事をせずに地面を強く蹴ってフタバに向かって行く。
フタバはエンブレイズから目を離さずに待ち構える。
エンブレイズは一発一発に全ての力をのせて拳を放つ。だが、フタバはそれを片手で殆ど捌いていく。
「くっ…!」
だがどんどんスピードが増していくエンブレイズの拳を捌ききれなくなってきたフタバは、エンブレイズの顎に蹴りを入れ、隙をつくって魔力結晶を自分の後方に思いっきり投げた。これで両手の空いたフタバはさっきよりは楽に戦えるようになった。
蹴りを顎にくらい少しよろけてしまったエンブレイズだが、すぐに体制を立て直しフタバに向かって行く。そして先ほどと同じように拳を繰り出す。今度は簡単なフェイントを混ぜながら。だが、それでもフタバに決定的なダメージはあたえられない。やられてばかりではいない、フタバの反撃で繰り出してきた拳をエンブレイズはしゃがんで避ける。そしてすぐさまフタバの顔面目がけて勢いよく立ち上がる。エンブレイズの頭がフタバの顎に激突し、フタバは体勢を崩して仰向けに地面に倒れる。
エンブレイズは立ち上がろうとするフタバの顔目がけて、しゃがんだ時に両手に掴んでいた砂を思いっきり投げつけた。
「うあっ!」
そしてフタバが目を閉じた一瞬のうちに、エンブレイズはまたしゃがんでフタバの両足のくるぶしを掴んだ。
「ふん!!」
そしてくるぶしを掴んだままエンブレイズはぐるぐるとまわり始める。フタバは上半身を起こして反撃しようとするも手が届かずに反撃が出来ない。
そしてブオンブオンと風を切る音が聞こえたらエンブレイズは魔力結晶とは反対の方向に向かってフタバを放り投げた。
「きゃっ!!」
フタバの可愛らしい悲鳴とドサッという重い音を聞きながら、エンブレイズは魔力結晶に向かって走っていく。
「あだっ!!」
そしてもう少しで手が届くという距離で、エンブレイズは後頭部に強い衝撃を受ける。
その衝撃でエンブレイズは前のめりに倒れる。倒れたエンブレイズの視界にはさっきまではなかったゴツゴツとした流木が入ってきた。フタバはこの流木をためらいなくエンブレイズの頭目がけて投げたのだ。
エンブレイズが倒れている間にフタバは魔力結晶を手に取り、更に遠くへ放り投げた。
「いや~今のは正直焦ったね。もう少しかな?」
立ち上がるエンブレイズを見下ろしながら余裕そうに笑みを浮かべた。
「どこがだよ」
エンブレイズも強がってみる。そしてゆっくりと立ち上がった瞬間にフタバの顔目がけて砂を投げつけた。
「うわっ!!」
そしてエンブレイズは全力でフタバのみぞおち目がけて拳を繰り出す。
「ぐぇぇ!!」
フタバは苦しそうなうめき声と共に口からよだれを垂らした。
そしてエンブレイズはあらかじめ服の中に隠していたロープを取り出してフタバの体をぐるぐるに縛った。そして更にロープを取り出して手を縛った。
「殴って悪いな」
エンブレイズはフタバの肩を軽く叩いて魔力結晶の方へ歩いていった。
そして地面に落ちている魔力結晶をゆっくりと拾って笑顔でフタバの方に振り向いた。
「げふぅぅ!!!」
のだが、フタバがエンブレイズに頭から突進してきたのだ。フタバの頭が丁度振り返ったエンブレイズのみぞおちに命中し、エンブレイズは魔力結晶を地面に落としてひざから崩れ落ちた。
「ごめんね、奪い返そうとしちゃった」
足も縛っておくべきだったと思いながらもエンブレイズは立てずにいた。
「ふぅ―――…ふぅ―――……」
ゆっくりとエンブレイズは呼吸を整える。
「ま、一瞬とはいえ私から魔力結晶を奪ったんだし合格としますか」
「……悪かったな、結構強めに殴って」
呼吸を整えたエンブレイズが立ち上がりながらそう言った。
「大丈夫だよ。どんな手を使っても構わないって言ったのは私だし。まぁ、あんな三文芝居見せられるとは思わなかったけど」
シシシといたずらっぽくフタバは笑った。
「傷をえぐるなよ」
恥ずかしそうにそう言ってエンブレイズは落ちている魔力結晶を拾った。
「それで……体のだるさとか重い感じはある?」
「そういえば……」
確かに初めて目覚めた時よりも体のだるさはあまり気にならなくなっていた。炎のない体に慣れてきたと言った方が正しいのだろう。フタバとのこの数日の戦闘のおかげで、炎のない体での自身の身体能力をある程度把握できた。
「もしかして俺のために…?」
「まぁ…それもあるけど……単純に私が暴れたかったってのもあるかな」
あの戦闘技術といいフタバは一体何者なんだろうかと考えたが、エンブレイズに分かる筈がなかった。




