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炎罪  作者: お終い
第1章
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第16話

 エンブレイズはフタバの突然の行動に驚きはしたが、すぐに状況を飲み込んで行動に移す。

 フタバに向かってエンブレイズは素早く距離を詰める。そしてフタバが懐に抱えている魔力結晶を左足で蹴り上げる。フリをして上からとりに行く。

 だがその程度のフェイントはフタバも予測していた。右に避けてから魔力結晶をまもりつつエンブレイズの背後に回る。エンブレイズは即座に反応し後ろ蹴りを繰り出して、魔力結晶を高く蹴り上げた。そしてすぐさま身をひるがえして魔力結晶を捕まえるために高く跳んだ。

 捕った、とエンブレイズが確信した瞬間、フタバが素早く魔力結晶を更に高く蹴り上げた。


「なっ!?」


 そしてフタバはニヤリと笑うと、両手を組んでエンブレイズの頭の上に勢いよく叩きつけた。

 ズドンと大きな音をたててエンブレイズは砂浜に叩きつけられた。


 フタバも地面に静かに着地した。そしてストンとフタバの右手の上に魔力結晶が落ちてくる。


「流石に今のは危ないと思ったよ~」


 余裕の笑みを浮かべながらフタバは汗をぬぐった。


「攻撃するなんて聞いてないよ…」


「うん、言ってないし」


「いい笑顔!!」


 エンブレイズは思わずツッコんでしまった。今までそんなタイプなどではなかったのだが。


 かつて『神童』と呼ばれただけの事はあって、流石に戦闘慣れしている。例え自身の力が無くなっていて、以前よりも身体能力が落ちていたとしてもそのセンスだけは失われていなかった。ただ落ちた身体能力に気持ちがついていけていなかった。自分の思うように体が動かないのだ。


「一応言っておくけど私は攻撃も防御もするし、奪えるまで何日でもやるからね」


 そうは言われてもエンブレイズは奪うのはそこまで難しくないと考えていた。だがエンブレイズは八割程度の力を出したのに対して、フタバは六割程度しか本気を出していないのをエンブレイズは知らない。


「いくぞ」


 エンブレイズは構えをとる。フタバは魔力結晶を指先でくるくると回して余裕の姿を見せている。


「うぉぉぉぉぉ!!」


 エンブレイズは勢いよくフタバに向かって行く。そして腕や腹をめがけて連続で拳を繰り出す。すべての拳にフタバにダメージを与えるだけの力を籠めるわけではない。フェイクを混ぜつつも時折魔力結晶を狙うようなそぶりを見せる。だがあくまでそぶりを見せるだけである。本当に狙うわけではない。

 将を射んと欲すればまず馬を射よ、だ。フタバが本気で守りに徹しているならエンブレイズも本気で奪いに行く。その過程で多少怪我をさせてしまってもしょうがない。どんな手を使っても構わないとフタバは言った。だからお言葉に甘えさせてもらうことにする。


 エンブレイズはラッシュを繰り出しながらもわざとすきを作る。そしてフタバがエンブレイズの顔に左手で拳を入れてきた。エンブレイズはそれをくらい、地面に倒れる。が、そのまま右足でフタバの足をはらう。フタバは軽く上に跳びそれを避ける。エンブレイズは立ち上がりながら跳んでいるフタバの足に左足で蹴りを入れた。


「わっ」


 フタバは空中でバランスを崩して、そのまま地面に倒れこんだ。エンブレイズはこのタイミングで魔力結晶に手を伸ばす。

 でもフタバはエンブレイズがそうするのを分かっていたかのように、砂浜の砂を左手で一掴みしエンブレイズの顔面に投げつける。


「うわっぷ!!」


 エンブレイズは奪えないことは予想していたものの、砂での目つぶし攻撃は予想外だった。そのため一瞬だけ目を瞑ってしまった。フタバがその一瞬の隙を逃すわけなかった。そこで繰り出したのは格闘技などでは『反則技』に分類される技だった。


「ふぉ!!」


 エンブレイズはその場に膝から崩れ落ちた。自分の股間を押さえながら。


「………!! ……! ……フゥ……」


 声にならない声をあげるエンブレイズ。体全体をピクピクと痙攣させながら立ち上がろうとするも、痛みのあまり立ち上がる事はおろか動く事すらできない。


 例え国王と言えど男、神童と言えど男、急所は鍛えられなかった。


「男って弱点が女より一個多いって致命的だよね~。そんなんじゃいつまで経っても奪えないよ」


 エンブレイズはフタバの挑発にも言い返す余裕がない。痛いのだ。この痛みは女であるフタバには分からない、だから軽い気持ちで金的を繰り出したのだろう。


「少し動いたからお腹空いちゃった。お昼にしようか」


 エンブレイズは首だけを縦に動かして返事をする。


「あ、あといつでも狙ってきていいよ。ご飯食べてる時でも寝てる時でも、いつでも。じゃ、先帰ってるよ」


 フタバは手をひらひらとさせて帰っていった。


「私達も先に帰ってるからね」


 ハナコといつの間にか帰ってきていたタロウはそう言って帰っていった。


 まだ股間が痛くてまともに動けないエンブレイズは頭上から視線を感じて、首を動かして視線の方に顔を向ける。

 するとそこにはエンブレイズをじっと見つめるイツハの顔があった。


「………」


「………」


 エンブレイズはなんて言ったら分からず、二人の間に沈黙の時間が数秒続いた。


「………」


「………」


 イツハがエンブレイズをバカにするようにニヤッと笑った。そしてフタバ達の元へトコトコと走っていってしまった。


 何故ニヤッと笑われたのか分からないまま、僅かな怒りを覚えながら股間の痛みがひくまでうずくまっていた。

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