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炎罪  作者: お終い
第1章
16/33

第15話

「いってぇ……」


 翌日の朝みんなが寝静まっている中、エンブレイズは目を覚ます。二日酔いをしたのなんていつぶりだろうか、とか考えながら自分の頭が何か柔らかくて気持ちのいいものの上に乗っていることに気づく。


「…………!!!」


 エンブレイズは酔っても記憶が残るタイプである。

 エンブレイズの顔がまるで昨日の夜のようにみるみるうちに赤くなっていき、声にならない声をあげそうになる。


 人前であんな大声をあげて泣いて、弱音も沢山吐いて終いには女の子の膝枕で泣き疲れて寝るって!!

 自分の情けない姿を人に晒したのなんてもう何年もない。いつでも王族として大人以上に大人ようにふるまってきたのに、幼い子供のように泣きわめいてしまった。恥ずかしい、恥ずかしい、穴があったら入りたい。


「ちょっと、人の膝の上で暴れないでくれる?」


 エンブレイズは自分の頭上から声が聞こえてきたのに気づいていたが、恥ずかしさのあまり顔をあげることが出来ずにフタバの両足の隙間に顔をうずめる。


「ぶっ」


 正座していたフタバがくっつけていた両足をいきなりパカッと開いた。そのためその両足の間に顔をうずめていたエンブレイズは、床に頭をぶつけてしまった。


「顔…あげなよ」



「……やだ」


 地面に顔をくっつけたままボソッと呟いた。


 エンブレイズは恥ずかしさのあまりフタバの顔を見れない。

 でもフタバはそんなエンブレイズの気持ちなどお構いなしに立ち上がって話を続けた。


「どうでもいいけど、膝枕気持ちよかった?」


「…………」


 この鬼畜、と思ったエンブレイズであった。



 二時間程うずくまったまま立ち上がれなかったエンブレイズだが、その後空腹に耐えきれずになんとか我慢して立ち上がって食事をとった。

 その間もエンブレイズは恥ずかしくてフタバの顔を直視できなかった。




 何とか恥ずかしさを記憶から消せた頃、エンブレイズはフタバに呼び出されて一緒にタロウの船が止めてある海岸へ向かった。

 その海岸にはタロウとハナコ、イツハがいた。


「前にさ戦う力について少し考えがあるって私言ったよね?」


「あぁ…そういえば」


 するとフタバは右手の掌を空に向けた。するとその手のひらから透明なジャラジャラとした長いひものようなものが出てきた。


「カティア。これが私のアルマ」


 エンブレイズは驚きのあまり声を出せずに透明な鎖を持つフタバを見つめた。


「アルマっていうのはね、魔力を持った特殊な鉱石に自分の魔力を込めて作った自分にしか使えない武器のこと。それはいつでも取り出せるんだよ」


 以前フタバがアルマと言う言葉を口にした時は、それ以上に大事なことがあったために追及は出来なかった。


「エンブレイズは…知ってるかもしれないけど、この世界に生きている人間は程度の差はあれ例外なく体に魔力を宿しているの」


 エンブレイズは当然知らなかった。そもそも『魔術』や『魔力』といった言葉自体この国に来て初めて聞いた言葉なのだ。


「自身の魔力をその特殊な鉱石を通して物体化させたのがアルマ。少し調べたんだけど、エンブレイズのような炎を使う人は胸の真ん中に水晶体のようなものがあって、右胸にある魔力炉がそこと繋がっていて無意識のうちに魔力を炎に変換させてたみたいなんだね」


 そんな体の仕組みを初めて聞いたエンブレイズは、なるほどとしか思わなかった。


「多分エンブレイズのお兄さんはその水晶体のようなものをエンブレイズの体から抜き取ったんだろうね」


 恐らくホムラは今フタバが説明したことを全て知っていたのだろう。抜き取った水晶体を自分の胸に埋めることでそれを自分の力にしていたのだろう。ん…? いや待てよ? 例え水晶体を何個も取り込んだとしても元のエネルギーとなる魔力の量は変わらないという事か。つまり手数が増えただけなのか? いや、ホムラの事だから何かしらの方法で魔力を増加させているかもしれない。いや、増加させていると考えたほうがいい。


「お母さんのアルマはイスペーリョ。前に言ったよね」


 確か以前に心を映す手鏡だと教えてもらった覚えがある。


 ハナコが指をパチンと鳴らすと人間程の大きな姿見が突然出てきた。


「手鏡って説明されたと思うんだけど、大きさはある程度自由に変えられるのよ」


 自慢げにハナコはそう言った。

 戦闘には向かないが、使い方によってはかなり便利な物かも知れない。


「そして俺のアルマはオールカ」


 海に巨大な魚のような生物が突然現れた。


「父さんのアルマは珍しい生物型でね、水の中でしか出すことは出来ないけどとても強力なんだよ」


 確かに名前の通りに凶暴そうで強そうな白と黒の不思議な模様の生物だ。大きさは近くにあるタロウの船の約二倍ほどだ。何故かずっとエンブレイズの方を睨んでいる気がするが、エンブレイズは気付いていないふりをした。


「ルォォォォォォォォォォォォ!!」


 突然タロウのアルマが吠えた。

 その叫び声はあたり一帯に響くほど大きく、低音で体が震える。


「あぁ、分かってるよ。行くぞ、オールカ」


 タロウは自身のアルマの背中に立ち乗りして沖に行ってしまった。


「………多分二~三時間したら帰ってくるから」


 何とも自由気ままな人だ。

 武器とはいえ生物相手だとああやって相手してあげるのも大事なのだろうか。


「……最後にイツハのアルマだね、イツハのはちょっと特殊なんだよ。まぁ、うちは私以外みんな特殊なんだけどね」


 成程、フタバのようなちゃんとした武器が一般的には多いのか。ハナコのもののような戦闘向きではない物や生物型は一般的には少ないのか。


「……うん?」


 イツハはフタバの服の袖を軽く引っ張って首を横に振った。

 フタバはイツハの行動の意味を理解したようだがエンブレイズには全く理解できなかった。

 フタバ曰く、疲れるから出したくないとのこと。あと理由は教えてくれなかったが、説明もしないでほしいらしい。

 説明されなくても、エンブレイズには理由は簡単に分かった。

 信用されてないのだ。犯罪者で、逃亡者で、家族に近づく話したこともない奴を信用できる方が不思議だ。話さないのはイツハが喋ってくれないだけだが。

 こんだけ良くしてくれているのにこんなことを思うのは失礼なのだが、こんな犯罪者を信用できる方がおかしいのだ。


「とりあえずアルマの作り方を教えるね。魔力を持った特殊な鉱石、魔力結晶っていうんだけどそれに自分の血を流し込むの。それだけ」


 フタバの説明は意外にあっさりしていたものだった。エンブレイズはもっと複雑な手順があるのかと思っていた。でもよく考えたら当然のようにみんなが持っているのだから簡単に手に入れられる素材で簡単に加工できる物なのも頷ける。


「ではでは…突然ですがここに魔力結晶があります」


 フタバはどこからか自分の顔と同じくらいの大きさのゴツゴツした岩を取り出した。


「これを私から奪ってみて下さい。どんな手を使っても構いません。私はアルマを使わないから条件は同じだね」


「???」


 エンブレイズは突然の展開に驚きを隠せない。


「はい、スタート!!」


 フタバは自分の掛け声と同時に後ろへ跳んだ。

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