かにのおねえさん
ふたりがずんずん下のほうに進んでいくと、海底が見えてきました。
白いすながいちめんに広がっています。
そのところどころから、茶色や、みどりの海草のおうちがはえています。でも、地面にはえていた草とは少しちがいました。
なんだかつるつるしているのです。そして、ゆらゆらとゆれています。
さらに海草のおうちはちょっぴりすけていて、光がもれています。海草のおうちがゆれるたびに、おうちのまわりで茶色やみどりの光がおどるのです。
「きれいねえ」
セッちゃんがつぶやきました。
「ほんとうに、きれい。さあ、赤いおうちをさがしましょう」
ユキちゃんとセッちゃんは、赤い海草のおうちをさがしまわりました。
「これは茶色、みどり、これもみどり……」
「あっ!」セッちゃんがとおくをゆびさしました。
「あれ、赤いおうち!」
ほんとうです。赤い海草のおうちが、ゆらゆらとゆれています。
ユキちゃんとセッちゃんはすいすいと泳いでいき、おうちの前で立ち止まりました。
「ごめんくださあい」
「はい、どなた……あらあら、かわいらしい雪のこどもたちだこと」
出てきたのは、おうちと同じ色の、赤いかにのおねえさんでした。
「どうしたの?」
「あの、川のおさかなさんが、海についたらここに行ってみなさいって」
「ああ」かにのおねえさんは、かちん、とはさみを打ちならしました。
「いいわよ、お入りなさい」
ふたりはおねえさんのおうちに入りました。中は赤い色のひかりがゆらめいていて、とてもすみごこちがよさそうです。
「おととい、わたしがこまってるって言ったの、おぼえててくれたんだわ」
ひとりごとを言うおねえさんはうれしそうでした。
「じつはね、わたし、たいせつなものをここに落としちゃったの。でも、わたしのからだは大きすぎて、こんなちいちゃな穴には入れないのよ」
そう言ってはさみでさししめしたほうには、たしかにちいさな穴があいています。
「あなたたちは雪のこどもでしょう? 今は水のすがたになってるし、あなたたちなら入れるはずよ。お願い、この中に入ってとってきてくれないかしら」
「えっ」
ふたりともびっくりしました。穴はずいぶん深そうです。
「わたしのタマゴなのよ」
かにのおねえさんのタマゴ。つまり、おねえさんのこどもです。
ユキちゃんは、決めました。少しぐらいこわくても、行くしかありません。おかあさんに会えないさびしさは、すごくよくわかります。タマゴだって、おかあさんに会いたいにちがいありません。
それに、ゆうきを出せば大きくなれるのですから。
「わかりました」
ユキちゃんはうなずきました。
「セッちゃん、行こう。ふたりならこわくないよ」
セッちゃんもうなずきました。
「うん、ともだちだものね」
「行ってくれるのね、ありがとう。それじゃあ、これを持って行きなさいな」
かにのおねえさんは、とだなから小さな石を取り出してふたりにわたしてくれました。
「それはお日さまの光をかためたものよ。暗いところでぴかぴか光るのよ」
「わあ、ありがとう」
ふたりはそれをぎゅっとにぎりました。
「じゃあ、いってきます」
「いってきます」
ユキちゃんとセッちゃんは大きく息をすって……暗い穴の中に、えいっと飛びこみました。