草のおばさん
ユキちゃんはふわりふわりと落ちていきました。
とちゅうで強い風がふいて、ユキちゃんのからだをさらっていきます。
「きゃあ」
びっくりして、ユキちゃんはさけびました。
それを聞いた風のおにいさんは、あわててユキちゃんにあやまりました。
「おっとごめんよ、もっとていねいにすればよかったね」
「ううん、だいじょうぶ。ねえ、どこに連れていってくれるの?」
「そうだなあ」風のおにいさんは考えこみました。
「よし、草のおばさんのところにしよう」
おにいさんはユキちゃんをぴゅうっとふき飛ばしました。
「おばさんはやさしい人だよ。きっとよくしてくれるよ」
おにいさんは手をふりました。
「ありがとう、いってきます」
ユキちゃんは、おにいさんに手をふりかえしました。
そのままゆっくり落ちていきます。どこまでも、どこまでも。
そのまま、地面がとても近づいたときです。下のほうから大きな声が聞こえました。
「あらあら、雪のこどもじゃないの」
ユキちゃんがびっくりして下を見ると、みどり色のからだにやさしそうな顔をした、草のおばさんがいました。ユキちゃんより、すごく大きいからだです。
草のおばさんは、ユキちゃんににっこり笑いかけました。でも、その顔は、どこかつかれているようにも見えました。じっさい、おばさんは、つかれていたのです。
「草のおばさん、こんにちは。わたしはユキです」
「ユキちゃんね。いらっしゃい……でも、今ちょっといそがしいの。あたしのこどもがかぜをひいて熱を出しちゃって、なかなかさがらないのよ。きっとさむいからだわ」
「まあ、ごめんなさい」
さむいのはユキちゃんがきたからでしょうか。じぶんが来たから、おばさんのこどもは熱を出してしまったのでしょうか。ユキちゃんは悲しそうな顔になりました。
「あらあら、ユキちゃんのせいじゃないのよ」
草のおばさんは、ユキちゃんの目にたまったなみだをぬぐってくれました。
「さむいのは冬だからだし、ユキちゃんは今来たばっかりなんだから。さてさて、こどものおでこをひやさなきゃいけないわ」
「それ、わたしにお手伝いさせてください」
ユキちゃんはいきおいよく手をあげました。ひやすことなら、とくいなのです。
「わたし、ひやすのとくいですから」
「そうなの? それじゃ、おねがいしようかしらね」
ユキちゃんはおばさんといっしょに、ベッドでねているこどものところに行きました。
おばさんのこどもはみどり色の顔を真っ赤にして、うんうんうなっていました。ユキちゃんよりすごく大きいからだをまるめて、目をぎゅっとつむっています。とてもくるしそうです。
「おでこをひやせばいいんですか?」
「ええ。できるかしら」
ユキちゃんは大きくうなずきました。
「できます!」
そのままユキちゃんはおでこの上にのりました。
ユキちゃんがおでこの上をころころところげまわると、おばさんのこどもはうっすらと目をあけました。なんだかきもちよさそうです。
「つめたくて、いいきもち」
「ほんとう? わたし、もっとがんばるね」
ユキちゃんはますますはりきって、ころがりつづけました。
そのうち、ユキちゃんはへんなきもちになりました。からだがおかしいのです。なんだかあつくて、それに、ふにゃふにゃと……。
しばらくすると、おばさんのこどもは、すっかり顔色がよくなりました。
けれども、ユキちゃんのからだはあつくてあつくてしかたありませんでした。
「こどもの熱がさがったわ! ユキちゃん、ありがとうね」
「いいえ。それよりおばさん、わたし、かぜがうつっちゃったかも。からだがあついの」
ユキちゃんがそういうと、おばさんは笑いました。
「ちがうわよ。ユキちゃんは、水になったのよ」
「みず?」
「そうよ」おばさんはかがみを持ってきて、ユキちゃんに見せました。
「ほら」
「わあ、わたしのからだがまあるくなっちゃった!」
ユキちゃんはさけびました。そこにうつっていたのは、今までのユキちゃんではなかったのです。
「雪のこどもはね、だれでもそうやって大きくなっていくんだよ」
「ほんとう?」
「ほんとうよ」
草のおばさんは、ユキちゃんをかかえあげました。
「こどもの熱を下げてくれて、ほんとうに助かったわ。お礼にすてきなところまではこんであげる」
すてきなところですって。ユキちゃんはわくわくしました。
「どこ?」
「ユキちゃんに、おともだちができるところよ」
おばさんはユキちゃんをぽうんとほうりなげました。
「いってらっしゃい」
ユキちゃんは「いってきます」といおうとしましたが、できませんでした。
だって、あまりにもはやく飛んでいったんですもの!