part-0
『―突発クエストの終了をお知らせします。現地点からの戦闘行為でのポイントは加算されません。繰り返します―』
戦闘終了を知らせるアナウンスが辺りに響き渡る中、俺は銃を下した。
周りに居るプレイヤーが、互いの戦果を自慢し合ってたり、黙々と銃をアイテムインベントリに入れたりしている。
突発クエストとは、このVRFPS…【Real Earth Online】のイベントの1つだ。
敵兵が街に侵攻してくるという設定で、プレイヤーがゲーム内の特殊エリアに飛ばされて、そこで一定時間街を防衛するというものだ。
俺自身も、今回は頑張ったつもりなので報酬は若干ながら期待している。
「おいシンー?聞いてるのかー?」
「ん?ああ。ちょっと考え事をな。」
俺の名前はシン。本名から取った名前で、このゲームをプレイしている。
このゲームではカプセル型の装置に入って、仮想世界にダイブする方式を取っている。
その為、リアルでの体系や性別をそのまま再現する事に成功している。
「今回はかなりきつかったんだよな。参加者が多かったとはいえ、武器がショボかったりネタ武器に走ったりするバカが多かったからよ…」
「まあそう言うなよ。結果的に敗北にはならなかったんだからさ。」
俺の前で愚痴を零してるこいつはユウトって名前だ。
数少ない俺とのフレンド交換してるプレイヤーだ。…フレンド少ないのは自分のプレイ時間が短いからだ、うん。
「まあそうだけどよー…。あーもういいか。おいシン、後でクエスト手伝え。突然変異種撃破の。」
「え?ああ。ちょっと休憩してからな?もうそろそろ夕飯の時間の筈だから。」
プロフィールウィンドウを開いて時間を見ると、18:15と表示されている。
我が家の夕飯タイムは大抵夕方6時30分くらいだから、もうそろそろログアウトしないとな。
「それじゃ、8時くらいに集まるか。じゃあ俺は離脱するぜ!」
ユウトはそう言い残すと、このエリアから離脱していった。
見ると、終わったイベントエリアに残っているのは自分だけだ。まあイベント終わったらやる事ないしな。
自分もエリアから抜け出そうとウィンドウを見るが、ログアウトの文字が灰色になっている。
「ん?おかしいな。バグか?」
ログアウトの文字をタップしようとしても、ヴォンッというエラー音と共に指を弾かれた。
ログアウトだけじゃなく、イベントエリアからの脱出も弾かれた。
…一時的に機能がロックされてる?これって…
ふっと目の端に映っていた光景動いた。シンはそっちへ首を動かすと、目を向けた先のエリアが奇妙な事になっていた。
エリアの奥が歪んでいる。徐々にこっちに迫っているようだが、こんなイベントは聞いてない。
「…!?なんだあれ…」
歪んだエリアの向こうは闇に覆われていて見えない。
歪む前の廃墟になったビル街の風景は消え失せ、ただ真っ黒なエリアと化している。
「…まずいっ!」
シンは銃をインベントリに仕舞うと、反対方向に走った。
本能的に、あれに追いつかれたらただでは済まないだろうと思ったのだ。
しかし、迫りくる闇はスピードを増しエリア全体を飲み込もうとしている。
懸命に走るが、エリアとて有限だ。あっという間にエリアの端についてしまった。
エリア端を告げる《NO ENTRY!》が目の前に表示されて、それ以上の進行を妨げる。
「くそっ!あれは一体―」
シンは振り返ったが、もう既に闇は近くまで来ていた。
反射的に銃で撃ってみようと腰に手を伸ばしたが、一瞬で闇に飲み込まれる。
(うっ…なんだこれ?ここはどこだ?)
死んで街に飛ばされるかと覚悟してたが、どうやら違うようだ。
身体全体がふわふわと浮いてるような感じに陥っていて、自分の意思では行動できないようになっている。
(これって…そうだ。これはゲーム開始時のキャラクター作成の時に似てる…)
ゲームを始めた時の、キャラクター作成時に飛ばされたエリアの空間とよく似ていた。
だがあの時は、幽体離脱をしてるように自分のキャラを見下ろしていた。
(…ダメだ……意識がもたない…終わった時には死亡判定か…)
何がどうなったか分からないまま、シンは気を失った。