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「お前は何が怖かったんだ?ん?」


 そう兄に問いながら、母上ゆっくりと立ち上がり兄をそっと抱きしめていた。


「これでも、わたしはお前の母だ。お前に私が実の母ではないと話したあの日以来、今までと少し態度が変わった事くらい気付いていたさ。父上は、大人に近付いてきたから母親と接する事が恥ずかしくなったんだろうとかアホな事を言っていたが、私には予測していた事だったから少し悲しかった。」


 そう言った母上の言葉で、兄は自分の態度が母上を傷付けていたと知って呟くように謝罪していた。


「ごめんなさい……母上をっ傷付ける……ふっ、つもりなんてっなかったっ……」


 母上の胸に顔を押し当てて、抱きしめ返しながら兄は母上の腕の中で泣いていた。


「わかっているよ。多分、私のために頑張ってくれようとしていたんだろうと思ってはいたんだ。だけど急に話し方も父上を真似て大人びた感じになるし、無邪気な笑顔も見れなくなるし、何より母上と言いながら抱きついてこなくなった事が寂しかっただけなんだ。でもね、お前はまだ12歳、子供でいいんだ。あまり早く大人にならないで欲しい。まだ我儘を言っていいんだよ。もっと手を煩わせて欲しい。それが私を母親にしてくれる方法なのだから。勿論お前もね?」


 そう言って、座って聞いていた俺に向かって振り返った母上は笑顔で言ってくれた。


 兄を片手で抱きしめたまま、座っていた場所にもう一度腰をおろして空いたもう片方の腕で俺の事も抱きしめてくれた。


「よく聞けロフィード。私がお前ばかりを叱っていると言うが、それは気のせいだ。むしろ叱った事が多いのは長男であるジューダスの方だ。なぜならば、お前が産まれる6年前から私の息子をしている訳だから、叱られる回数はジューダスの方が多い。わかるか?」


 そう言われ、俺は考えた。当たり前だが、先に産まれた方が親と接することが多いのだ。

 俺は黙って頷いた。


「お前が今、私に叱られている事は既にジューダスは経験済みなんだ。だからジューダスはやらない。学習能力という言葉がある。一度やってしまった誤りを二度としない事。ジューダスは一度叱ったことは二度はしなかった。だから怒られない。だが、お前は初めてやる事だ、だから叱られた。分かったか?」

「俺が同じ事を何度も繰り返すなら、何度も叱られるってこと?」

「そう言う事だ。ジューダスはお前に忠告しなかったか?そんな事をしたら怒られるぞって。」


 そう言われて、俺は思い出した。あれは確か、脱走直後に兄と遭遇して言われた事だ。


『今すぐ戻って謝る方が叱られないぞ』


 だが俺は兄の忠告を無視して逃げた。しばらくして、家庭教師に見つかり母上に告げ口されしばかれた後に、説教されたのだ。


「言われた。でも、俺それを無視した。」

「だから叱られた。ジューダスはな、自分が経験した事があるから忠告できたんだ。お前は何をしたら叱られるか分からんだろう?」

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