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「何をおっしゃっているのですか!!私は母上をお慕いしています。それに育てて頂いたことも深く……「そうじゃない」」
兄の言い分を聞いていた母上は突然言葉を遮った。
「慕うってなんだ?育てて頂いた?お前は、私の事を母と思っていないだろう。」
「何でそんな事を言うんですか!!貴女は私の母上です!!」
母上から言われた事がショックだったのか、兄は立ち上がって母上の目の前に立った。
「私はお前達の母親だ。育てるのが当たり前なんだ。それを『育てて頂いた』だ?バカにしてるだろ。勝手に線引きして家族の輪から出ていこうとしておきながら何を愚痴ることがある。」
母上の言葉に、兄はハッと何かに気づいた様子で両手を握り締め地面を眺めていた。
「私はお前の産みの母よりお前を託された。お前が生まれてきた時、お前の母と同じ様に喜んだ。何度も感謝した。そんな私を見て、お前の母はこう言ったんだ。『私はもう長くはない、この子の母としてこの子の目に触れることはないでしょう。どうか、この子を貴女の子として愛していただけないでしょうか。』」
兄を見据えたまま、母上は言葉を重ねた。
「何を馬鹿な事を言っているんだ、私がお腹を痛めて産んだ子ではなくとも、私は貴女と同じ瞬間に母になったつもりだ。貴女が私にこの子を託してくれるというのなら、いずれ生まれてくるであろう我が子と同じ愛で育てると誓おう。だが私にとって、初めての子だからきっとこの子を優先してしまう事もあるかもしれないがな。と言ったら、お前の母は嬉しそうに笑っていたよ。」
母上の言葉を聞いているうちに、気付けば兄が涙流しながら母上を見つめていた。