サポート役に転生したらバッドエンドのラスボス生徒会長に呼び出されました
どうやらサポート役に転生したらしい。保志 佐保子として。
前やったことがある乙女ゲーム、サポート役の名前だね。ゲーム中はサポート役にずいぶん世話になったものだ。だから、今はヒロイン達のためにアドバイスやサポートを頑張ろうと思う。イケメンはイケメンなりの苦労があるだろうし、彼女になったら大変そうだから興味はない。サポートに専念するよ。幸い、知っているゲームの世界だからヒロインや攻略対象が分かる。定期的にヒロインや攻略対象たちに情報をあたえて、サポートしていこう。
入学式ではサポート役がヒロインと会うイベントがある。そのイベントを順調にこなしていたんだけど、とあるヒロインだけ発動しなかったんだよね。他のヒロインとは、ばっちり会えた。何かゲームと現実の誤差があるのかもしれない。また、ヒロインをサポートするための情報収集も欠かさない。サポート能力発動ワードがあるらしく、「最近どう?」と言えば楽に情報は集まる。そういえば、ゲーム内でもサポートの子が登場する時に言っていた。納得である。
そんなこんなでサポートするために情報収集していたら、バッドエンドのラスボス生徒会長、北条 樹に呼び出しをくらってしまった。嫌な汗が背中に滲む。
「やぁ、保志 佐保子さん。学業に励んでるかな」
「はい。学年順位も落としていません」
「そう。……くれぐれも気をつけて」
逆ハー狙いと勘違いされてしまったのか、警告イベントが出てしまったようだ。みんな攻略対象には相手がいるし、友情の域にとどめているんだけどな。相談にのっているうちに「お前っていいやつだよ」「佐保子ちゃん、ありがとう」と感謝されるようになった。ルート通りに進んでいるところは少ないけれど、現実だし多少の誤差はあるよね。そう思っていたら、また生徒会室に呼び出された。このイベント覚えがあるんだけど……。
「知ってるかい? このゲームには逆ハーなんてないんだ」
これ、バッドエンドだね。スタッフがお遊びでこのセリフにしているらしい。当時逆ハーエンドがあると思ってプレイしていた私は、このセリフでスタッフに殺意を覚えたことがある。全攻略対象クリアのボーナスとして、逆ハーがあるかもって思ってたんだけどね。
「知ってるわよ。公式がそう言ってたもの」
「なら、どうして全ての攻略対象と親密になったんだ?」
「そんなつもりはなかったのよ。ヒロインたちとも仲良くしてるわ」
まさか、友人として親しくしても生徒会長イベントが起こるとは思わなかったのだ。生徒会長厳しすぎる!
「これからは自分の唯一を見つけることだね」
ゲームだと、ここからスタッフロールが始まるんだよね。イベントも一人で過ごすはめになったヒロインに、画面の向こうで申し訳なく思ったものだ。しかし彼は続けた。
「『彼は愛し、愛されたがっています。さぁ、あなたはどんな恋をしますか?』 このキャッチフレーズは君も知ってるはずだね。……見逃すかわりに、俺だけを愛するというのはどうだい」
この状況を脱することが出来るのならばと、私は頷いた。ここからが私の本当のスタートなのかもしれない。ゲームのようにセーブができないから選択肢を間違えることは出来ない。これから、どうすればいいのだろうか。北条先輩はゲーム上攻略対象ではないため、情報が少なすぎるのだ。計画めいた恋は成立するのだろうか。
「最近どう?」
北条先輩の情報が知りたくて、サポート能力発動ワードを言ってみた。すると、いつもの彼とは違って協力的に話してくれた。ゲームシステムは彼にも有効らしい。卵巻きが好きだなんて、意外で可愛い。早速、弁当を持っていく。卵巻きは好評だった。北条先輩は好きなものから一番に食べるタイプらしく、一番に卵巻きが口の中に消えていった。砂糖入りの卵巻き、塩入りの卵巻き、だし入りの卵巻き、ネギ入りの卵巻きといろいろ試してみたが、好評なのはだし巻き卵だった。表情が一番ふわっと変化した。その顔が見たくて、弁当作りを続けられた。
次は生徒会の手伝いをすることにした。こちらは元々世話を焼くのが好きなので、苦にならない。北条先輩にありがたがられた。次第に彼の態度が気安いものになり、佐保子と名前で呼ばれるようになった。そういえば、このゲームも親密度で名前の呼び方が変わった。いつか佐保という愛称を呼ばせてみせる。
日曜日に北条先輩の家に誘われて行くと、偶然彼の母が帰ってきた。彼は母を視界に入れようとしない。彼の母は無関心で、二人をスルーして部屋に入っていった。母がいなくなってから、彼は嫌悪を露わに呟く。
「俺は母に愛されていると思っていた。でも、その愛情は嘘だった。母は俺なんてどうでもよかったんだ。高校でも母に似た女ばかりいた。男にいい顔ばかりした女。尻軽女は滅べばいい。けれど、その一方で俺はただ愛されたかったんだ。だから君に話を持ちかけた。俺が人を好きになれないのに、悪かったな」
彼が母親を嫌いだと初めて知った。北条先輩は母の浮気現場を見たことがあるらしい。それで女嫌いになり、逆ハーレムも嫌うようになったのだろう。
「でも、先輩は変わろうとしたのでしょう? 私に愛してくれと言いました。先輩も愛したいと思ったのでしょう? なら、あきらめないで下さい。愛や恋なんて名前をつけれませんけれど、私は先輩を好ましいと思っています」
彼は目からそれまでの殻を零すかのように、ポロポロと涙をこぼした。ハッと私の視線に気づいて、顔を背けてしまったけれど、美しい涙だと思った。殻を破った生身の北条先輩に会えた気がした。
一学年がやっと終わる。この一年は早かったような気がする。サポートしたり、生徒会長のバッドエンドに入ってしまったり。それがきっかけで北条先輩との今がある。三年である彼は卒業式がゲームエンドとなる。
「愛なんて語れるほどの関係になれたか分からないけど、私は北条先輩のこと好きですよ」
すっかり生徒会室に馴染んだ私は、この関係が終わりであることを寂しく思っていた。
「……引き続き契約続行だ」
「えぇっ!? 打ち解けたと思ったんですけど」
「ふっ、せいぜい励めよ」
彼は珍しく爽やかに笑った。その笑顔が意外で、目が釘付けになる。
「契約続行の理由は、お前のせいだ。次はお前が俺に惚れろ」
卒業証書の入った筒で、コツンと叩かれた。彼は、殻を破ったのだ。素の彼の表情に胸がいっぱいになる。
「お前も同じ大学に来いよ。勉強教えてやるから」
「えっ、あの……!?」
生徒会室から出ようとした彼が、言い忘れていたと振り返る。
「佐保のこと好きだよ。女に絶望していた俺を変えてくれたのは他でもないお前だ。ありがとう」
言い残していなくなるなんて、卑怯だ。彼のことばかり考えてしまうじゃないか。しかも、卒業した彼とは、もう今までみたいに会えなくなってしまう。寂しい。
「そうだ、もう一つ言い忘れていた。大学は隣だから、またこれまでと同じだけ会えるからな」
「寂しくなって損しました。……弁当持って行きますから」
ルートなんて定められていない、二人の恋は続く。