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短編 あなたのガードマン

作者: SA豆

吉田は帰り道、何か気配を感じるようになった。

一週間前からずっとである。誰かが一定の間隔をとってついてくる。


不安になった横田は、会社の同僚である高峰に相談した。

「ねえ、最近私、誰かにつけられている気がするんだけど…」


「ええ?まさか…何かの間違いじゃないのか?」


「本当よ。この前怪しい人影を見たもの。」


「散歩とかじゃないのか?」

高峰はあまり心配していないようだ。


「絶対ストーカーよ。」

吉田は断言した。


「証拠はあるの?」


「だって、毎日帰る時間はバラバラなのに、いつもつけられているもの。」


「そんなに心配することないと思うけど、な」

どうやら高峰は吉田の思い違いとして捉えているらしい。


「…」

もうそれ以上話さなかった。




吉田は次の日、連荻博士の元へ行くことにした。彼なら何か策を持っているかもしれない。


事情を話すと連荻博士は言った。

「それなら、あなたにガードマンロボットをつけましょう。今調整が最終段階まできています。完成次第、あなたのところにお送りしょうか。」


「良いんですか?」

吉田は驚いた。何という偶然だろうか。


「ええ。ちょうど新しいプログラムも出来上がったところですし、試作なので代金はいりません。いわゆるお試しです。」

吉田は喜んで、そのまま会社にでかけた。


その夜、仕事を済ませ、帰宅しようと思ったとき、ついさっき帰ったはずの社員の一人がオフィスに戻ってきた。

「会社の前に、がっしりとしたロボットがいるんですけど…一体何でしょうか?」

吉田はもしかして? と思った。


出てみると、サングラスをした、がたいの良い大きなロボットが立っていた。

ロボットは吉田を見つけると、ホバークラフトのように動いて歩み寄り、

「ガガガ。ヨシダサンデスネ。イマカラ アナタノ イエマデ オクリマショウ。」

と言うと、ロボットは変形し、自動車のような形になった。


「すごい!」

吉田は思わずそう言った。これなら安全に帰ることができそうだ。

吉田がロボットに乗り込むと、「シュッパツー シマス」と言ってロボットは動き始めた。


「なんて素晴らしいガードマンなのかしら」


「アリガトウゴザイマス」

なんと、返事までしてくれるようだ。

後で連荻博士にお礼を言おう。

これでもう怖い思いはしなくていい。

ロボットは道路をスピードを上げて走っている。


ところが、そのうちにロボットの調子がおかしくなってきた。

変な音を出しながら、家と違う方向に走っているのに気付いたのは乗ってから10分後のことだった。

気付くと、家とはむしろ反対方向に進んでいるではないか。

「ちょっと! 私の家はそっちじゃないわ!」


「…」

ロボットの返事はない。


「どういうことなの…?」

故障だろうか。吉田は慌てた。


「大変!! 誰か助けて!! 故障よ!」


「大丈夫デス。トオマワリ シテ アナタヲ イエへ オカエシシマス ダケデス…」


「え…」


この時吉田の頭の中に一つの仮定が生まれた。


なにも考えずに乗ったが、

これがもし博士のロボットでなかったら…?

故障ではなく、もとからそうなるようにプログラミングされていたとしたら…?

てことは、このロボットは…?

震えがいつの間にかとまらなくなっていた。

「おろして… ここからおろしてよ!」


「イヤデス。」


「嫌…嫌!!嫌!!助けて!!」




その時、一瞬ロボットが止まった。交差点が赤信号だった。その隙に、吉田はロボットから飛び降りた。


「痛っ」吉田は着地と同時に声を荒げたが、運よくロボットは気付かず、そのままどこかへ行ってしまった。

吉田はまだ起き上がれない。九死に一生を得た脱力感もあったが、

飛び降りて着地したときの足の痛みが残っていたからだ。もしかしたら折れたかもしれない。

いや、そんなことはどうでもいい。

危ないところだった。どこに連れて行くつもりだったのだろう。


そこに車が走ってきた。

「おい、大丈夫か?」

聞き覚えのある声がした。高峰だった。




「こんなところで何をしていたんだ?」

軽自動車のハンドルを握りながら高峰は言った。

その言葉を無視して吉田は言った。


「足が痛いの。病院に行って。」


「折れてたらもっと痛いだろ。」


「うるさい!早く行って!」


「あ、うん。」

高峰はカーナビを操作した。


「ま、まあ、落ち着いて茶でも飲めって。」


「…」

高峰なりの気遣いなのだろう。ペットボトルのお茶を受け取った。


「あんたこそ、ここで何をしているのよ」

吉田はお茶の蓋をあけながら言った。


「いや、特に。いつもの癖でね。」


「癖って何よ」


「まあ、習慣さ」


「ふーん。」

吉田は一気にお茶を飲み干すと、あのロボットの話をした。


「それは危なかったね。」

高峰は言った。


「でしょ。一体誰が作ったロボットかしら」


「うーん、連荻博士じゃないかな」


「何言ってるのよ。どこかに連れていかれそうになったのよ」


「でも、あれだけの技術をもっている人なんて…」


「てことは、博士がストーカーってことなの?まさか…」


「まあ、そんなわけないか。」


これ以上話しても無駄だと思った吉田は携帯を開いた。

「ちょっと待って、携帯に着信があったみたい。」


着信一件。数分前、つまりロボットに乗っていたころだ。

だから気づかなかったのだろう。


「博士からだわ。伝言が入ってる。何かしら。」


「実はあれは不良品でした、とかだったりして。」

高峰が笑っているのをよそに、伝言を再生した。



[ロボットはどうでしたか。上手く家まで貴方を送り届けられたでしょうか。

今回は、より安全性を上げるために、ロボットが自分の意思で判断する機能を付けました。

もしかしたら、貴方を追って、そのストーカーも追いかけてくる可能性もあるでしょう。そんな時は、道路を上手く走って、上手に敵をまいてくれるはずです。

素晴らしいロボットでしょう。上手く作動したら、電話してください。]


「え…?じゃあ、あのロボットは本当に博士が作ってt…」

吉田はそこまでしか言えなかった。吉田がお茶に入っていた睡眠薬の作用で眠りに落ちると同時に、高峰は一言つぶやいた。


「安心しろ。もう…ストーカーは出ないから…。へへ…。」



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