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お堅い勇者の口説き方(1)

 

◇魔王城内部 魔王宮の間 扉前


「この先が魔王宮の間か……そこに魔王がいるんだな」


 荘厳な雰囲気を醸し出している観音開きの扉を前にして、勇者である俺【クロウ・トレランツ】は感慨に耽っていた。


思えばここにたどり着くまでに色々あった。


 最初は個人的な目的の為に今まで鍛えてきた剣技の腕試しの意味合いも兼ねて王国武術大会に参加したクロウだったが、そこで国王……人間界の中心的国家【セイクリッド王国】の国王の目に留まり、現在の勇者稼業へと白羽の矢を立てられた。

 最初は辞退しようかとも考えた。自分はそんな皆の期待を背負って旅をしていくような堅苦しい役目は担いたくなかったし、そもそも誰とも関わりを持ちたくなかったからだ。

 しかし、そうわがままも言ってられなかった。

 一つは、国王の依頼とクロウ自身の個人的な目的が一致していたこと。つまり、どちらも魔王討伐が目的だったということだ。

 もう一つは、単純に資金面でクロウは酷く苦しめられていた。そこを国王はもし勇者となって魔王討伐の旅に出てくれるのであれば、旅の資金は全て私が負担しようと申し出たからだ。

 最後に、魔王討伐を終えて無事生還した暁には願いを一つ叶えてやると申し出てきた。これが決定打となった。

 現金な話ではあるがクロウにはどうしても叶えたい、いや、叶えなければならない事があった。その為にも背に腹は代えられなかったのだ。


 こうして勇者として王国を出発してからは毎日が目まぐるしく、ただただ慌ただしかった。


 王国から半ば強引に付いて来た赤髪の女剣士【フレア・キャンディッド】は武術大会で勝負してコテンパンに打ち負かした相手だった。……我ながらあの時は女相手にムキになりすぎたと思う。とはクロウの談。

しかし、彼女にはその腕力のハンデを埋めるだけの素早い剣捌きと圧倒的な智力が備わっていた。

実際に仲間に加わってからは、幾多の困難な戦況もその明晰な頭脳から導き出された奇想天外な策をもってクロウ達勇者一行を救ってくれた。


 他にも積雪の国の教会で出会った女僧侶【ナターシャ・エグリーズ】は、積雪の国で蛮行を働いていた【雪狼将軍】を討伐する際に仲間に加わった。

 彼女は日ごろはのんびりしているというかマイペースというか、あまり頼りがいがなさそうなのだが、いざ戦闘になると的確なタイミングで回復、補助魔法をかけてくれるパーティーには必要不可欠な存在となった。

 また趣味は料理という家庭的な面もあり、残りの三人があまり料理が得意でないということも加わって、必然的に彼女が我がパーティーの料理係となった。


 そしてもう一人は風雲の国で出会った書術師【エルク・ノイギーア】だ。エルクはパーティーにおけるマスコットであり、弟的存在だった。

 特にナターシャからの愛情は異常なもので、ナターシャはエルクの保護者(それもとびっきり過保護なやつ)として君臨しており、彼に仇なすものはことごとく駆逐されていくという理が成立されてしまった。

 書術師としても確かな腕を持っており、戦闘で役に立ってはいたが……クロウ自身未だに書術の仕組みが理解できていない。

 どうやら“こうしき”とか何とかいうものを計算、算出、その後に構築し、魔力を注ぐ事で発動するらしいのだが専門外のクロウにとっては何の事だかさっぱりだった。



 何はともあれ、そんなかけがえのない存在となった仲間達をクロウはつい先程見捨ててきた。


 もしかしたらアイツら俺の事を恨んでいるかもしれないな……いや、きっと恨んでるさ。

 フレアが言っていた通り、みんな俺の事を信頼して付いて来てくれていた。そんな俺に『役立たず』と言われたんだ。

 みんな相当ショックを受けてるんだろうな……。フレアがあんな剣幕で憤る理由も理解できる。


 しかし、だからこそクロウは彼女達を見捨ててこなければならなかった。絶望に打ちひしがれて希望を見出す事ができず人と関わる事を絶っていた彼に、再び人と関わる事の大切さを思い出させてくれたから。再び希望を見出すきっかけをくれたから。


――そんな、大切な仲間達だから。



 俺は大切な仲間を傷つけた。その事実は未来永劫無くなりはしない。


 もう皆から仲間とは思われてなくても良い。


 「せめて、魔王……奴を滅ぼすことができるのならば俺に悔いはないのだから」


 そう静かに呟くと、クロウは再び目前の扉を凝視した。






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