表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

誤字報告

作者: 海川そら
掲載日:2025/11/07

会話劇です。

ひとによっては刺さる内容かと思われますので、物書きの方はブラウザバックをして下さい。

拙作『契約は大事です』をお読みいただくと、より楽しめる仕様となっております。

「お、久しぶり。最近、どうよ」


 久しぶりに会った元文芸部の友人が、片手をあげた。


「うん、まあ、ぼちぼち?」

「また、また、また。小説投稿サイトで、一位とってただろう」

「げ。読んだの、あれ」

「読んだ、読んだ。堪能させていただきました」

「……顔と名前、一致する人に読まれたくないんだけど」

「だったら、投稿すんな」

「それなー」


 とりあえず黒ビールを頼んで、席に着く。友人のにやにや笑いが目に入る。


「まだ、苦いの苦手なんだ」

「あー、まあ。せっかく金払うんだし、美味しく飲みたいじゃん」

「確かに?」


 届いた黒ビールでとりあえず乾杯した。友人は最初から焼酎割りだ。うん、変わってない。

 グラスをテーブルに戻すと、首をかしげた。


「んで?」

「んでって?」

「なんで今日、わたし、呼び出されたかなーって」

「一位のお祝い?」

「その真意は?」

「んー、なんか、落ち込んでるって聞いたから?」


 ちょっと真顔になる。誰だ、情報、流したのは。元部長か? 元部長だな?

 ほれ、話してみ、という顔をしている友人をじっと見てから、テーブルにぐにょりと突っ伏した。


「落ち込んでるっていうか、考えてる」

「何を?」

「んー。一位になったってことは、それだけいろんな人の目にふれるわけ。だから、いろんな反応が返ってくる」

「ディスられてんの?」

「いや、今時ないでしょ、そんなの。文芸部の批評会じゃないんだよ? みんな、やさしいって」

「じゃあ、なに?」


 問い返す友人の顔を、テーブルに頬をくっつけたまま見上げる。

 ほんと、なんだろうな。

 なんで、こんなこと、考えてるんだろう。

 人生には役立たないのに、存在意義みたいに手放せない感じ。


「んー、どっからが間違いで、どっからが表現かって、そういうの」

「……もしかして、誤字報告?」

「だねー。いっぱい来た」


 相変わらず、変に勘がいい。

 焼酎割りをテーブルに戻すと、友人はちょっとためらった感じで聞いてくる。


「嫌だった?」

「いや、それはない。むしろ、ありがたいよ。誤字って自分でなかなか気づかないし。そんだけ読み込んでくれてるってことだし。作品、良くしたいって思ってくれてるんだろうし。愛されてるなあって思う」


 んじゃ、なんで?という顔をしたので、答えてやる。


「ええと、読点の打ち場所で誤字報告きたんだよねー」

「へえ。でも、読点は作者の範疇だろう?」

「うん、わたしもそう思う。なんで、そこは直さなかったんだけどさ。読点の打ち方にルールってあったかなって思って、あらためて、文章書きのルールなんてものを調べたわけさ」

「初心、忘れるべからず?」

「いや、そういうのでもなくて。知らなかったから、調べてみただけ。そうすると、真っ先にでてくるルールがあるわけよ。……それが前から気になって、気になって、気になって! なんなら話の内容が、頭が入らなくなるくらい気になってて。それが表現なのかっていうね」


 友人が首をかしげる。


「なんの話?」

「あー、ええと、ほら、段落一字下げないやつ」

「ああ、あれ」

「そう、あれ。ほんと、謎なの。あれって表現なの? それとも間違いって指摘していいの?」

「いやあ、さすがに表現なんじゃないの。小学生の読書感想文にだって使う決まりだろ?」

「だよねー。でも、そうするとさ、その表現の意図がよくわかんなくてさ」

「どういうこと?」

「だから、文章の基本ルールも知らないのかな、この人、って思われるリスクを負っても、大事にしたいこだわりってことじゃん?」

「……まあ、そうなる、か?」

「んで、投稿する全員が商業化ねらってるわけじゃないと思うけどさ。商業化したら、絶対縦書きじゃん? 文章の一般的なルール、詩作でもないかぎり、守ることになるじゃん。なのに、今ここで、あえてルールを守らない意図って、なんなのかなって」


 友人が固まった。何か考えを巡らせている感じがする。


「なるほど?」

「もし、もしもよ? 出版なんてことになって、プロの校正さんに『段落のはじまりの文章は、一字下げます』なんて、コメント書かれてみ? 恥ずか死なん? それとも、これがわたしの表現ですって、校正さんと戦うの?」


 友人が苦笑した。


「いやあ、それはさすがに無理なんじゃないか」

「だよねー。出版物で段落一字下げしてないの、見たことないもんね」


 体を起こして頬杖をつく。卵焼きを口に運ぶ。だし、うますぎ。


「これはわたしだけかも知らないけど、段落の具合で、文章のリズム変わるからさあ。商業化ねらうなら、なおさらルールの逸脱はなしだろうし、ルールにのっとった文章書くのに、慣れておいたほうがいいと思うわけ」


 友人がぐびりと焼酎を飲んだ。その喉が動くのを、なんとなく見つめる。


「そういうのを考えると、一字下げずに書く意図って、なんだろうなと思ってさ」

「なるほどな」

「商業化なんてねらってません、これがわたしの表現です、は、ありだとは思うんだけどさ」


 黒ビールをあおって、テーブルに置く。


「ぶっちゃけ、単純に読みにくい。これはほんとに個人的意見だけど。文のまとまりが感覚的にわかんなくて、読んでてしんどい」

「まあ、既存文に慣れてると、違和感あるよな」


 ふたたび、テーブルに突っ伏す。


「ということを、つらつら考えてたら、疲れた」

「おまえ、いっつも考えすぎなんだよ」

「それ、設定のこと言ってる? 設定つめずに人間なんて書けないでしょ?」

「そうでもないんじゃないの?」

「そういう人はそれでいいよ、別に。わたしは設定考えるのが楽しいの」

「すねんなって。ほら、焼き鳥やるから」

「そっちの肉がいい」

「はいはい」


 肉の最後の一切れを取り皿にのせてくれる。面倒見がよくて、やさしいのは、変わらないなあ。


「ところでさー、ほんとになんで今日、呼び出したわけ?」

「んー。元部長にそろそろケリつけろって言われた」


 やっぱり、あいつか。ランキング一位とか、友人にバラすんじゃねーよ。


「けりってなに?」

「んー、外堀ばっか埋めてないで、あたって砕けろってさ」

「うん? 砕けること前提?」

「いや、砕けたくはないんだけどさ」

「なに言ってるか、わかんないんだけど?」


 テーブルに突っ伏したまま、友人を見上げる。頬杖をついた友人がじっと見つめてきた。


「おまえの作品、読んだって言ったよな」

「言ったね」

「んじゃ、これでいいか」


 友人はテーブルに身をのりだすと、耳元に顔を寄せてきた。


「早く俺を好きになってね。愛してるよ、空さん」


 耳を押さえて、後ずさる。

 信じられない。信じられない! いま、なに言った、こいつ!


「とりあえず、抱きしめても?」


 元の位置に戻って、友人は両腕を広げる。


「ば」

「ば?」

「ばっかじゃないの!?」

「あれ、趣味じゃなかった?」

「だから、あんたには読んでほしくなかったのに! 趣味嗜好が丸わかりじゃん!」

「参考にさせてもらいます」

「ああ、嫌! ほんとに嫌!」

「まあ、そう言わずに。それで返事は? やっぱり婚約が先?」

「いや、今時、婚約なんてしないでしょうが!」

「俺はしてもいいけど?」


 思考が止まる。

 それから、ぐるりと思考が回り出す。

 いままでの友人の台詞を要約してみる。


「け、結婚を前提に付き合いたいと思ってるって思っていいの?」

「いいけど。まあ、順当にお付き合いからお願いしますか。どう?」

「どうって」


 にこりと笑う友人の顔が、本当に嬉しそうで。

 悔しい。


「ねえ、わたしに誤字報告、送った?」

「さあ、どうだろう」


 友人のはぐらかしに確信した。

 ああ、もう、ほんとに悔しい。

 ――男主人公のレンは、本当は漢字名じゃないんですか、なんて。


「観念して、俺のものになって」


 息が止まるような報告、送らないで欲しい。

 悔しいけど。ほんとに悔しいけど。

 嬉しくて仕方ないから。なんとか声をしぼりだした。


「うん。よろしくお願いします。――――蓮さん」


 この日、友人は恋人になった。


物書きなので、誤字報告の所感を物語ってみた次第。この物語はフィクションです。

特定の誰かを非難する意図も、貶める意図もありません。せっかく話が面白いのに、表記が気になって楽しめないー! という、未熟な読者である私の心の叫びです。老眼では、印がないと、段落が即座に判定できません。

読点の誤字報告をしてくださった方、本当にありがとうございました。おかげさまで、物語が一つ書けました。

誤字報告、いつもありがとうございます。大歓迎で、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
異世界恋愛は読んでても赤面しないのに、現実世界カテゴリの恋愛ってトキメキがすごい~!!!! って、初めて知りました。 ドキドキをありがとうございます。むふふ。
やばい 最後のオチにグッときちゃいました(笑)
そらさん。。老眼・・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ