第二話 生きるあなたに幸せを
ふと、目が覚める。いつの間にか寝ていたみたいだ。
ここは、どこだろう?絶対に知らない場所なのに、何故か安心感がある。
私、何でこんなところにいるんだろう?寝る前の記憶が曖昧だ。なんとか思い出そうと頭を捻る。
何も思い出せない。
ベットから起き上がり、部屋をぐるぐる歩き回る。やっぱり思い出せない。
部屋の壁を支えにして、逆立ちをしてみる。うーん、思い出せないよー
そんなことをしていると、急にドアが開いた。逆さまの視界に一人の青年の姿が映る。
逆さまでも、そのかっこよさははっきり分かった。その瞬間私は全てを思い出して、その衝撃で顔から地面に落っこちた。
「へぶっ!」
「ちょっ、大丈夫か!」
彼が駆け寄って来てくれる。
でも、私はそんなことにも気付けないぐらいのショックを受けていた。思いっきり地面にぶつけた鼻が痛い。そう、痛いのだ。
「うそ、、、私、生きてる?」
え?なんで?絶対死んだと思ったのに生きてるんだけど。私ってそんな頑丈だったの?確かに昔から元気なだけが取り柄だったけどさ。
いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない!
「いや、君は、」
「あの!」
彼が何か言いかけてるのを遮って声をあげる。
「もう一回!もう一回チャンスをください!」
「チャンス?、、、ああ、すまない。それは無理だ。」
きっぱりと否定される。目の前が真っ暗になった。
「今の俺の技術じゃそれが限界だ。一度死んだ人間を完全に生き返らせることは出来ない。」
へ?今なんて?
1度死んだ?誰が?
「君の場合は死んですぐだったから君の魂をそのまま封じることができた。だから、記憶は一部抜けているかもしれないが人格は変わってないはずだ。体もなるべくそのまま使っている。」
「ちょ、ちょっとたんま!」
「?何だ?」
「えーと、つまり私はあの時死んで、今の私は何でか動けるけど死体ってことですか?」
「っ、ああ、そうだよ。」
「よかった~!」
「は?」
「じゃあ、じゃあ、私と結婚してください!」
生きてたら振られちゃう所だった。ちゃんと死ねててよかった。
「、、、はぁ、本当にそればっかりだな、君は。俺は、君に死ねっていったんだぞ。それなのに、、、」
「はい。でも私は何でもするって言いましたから。」
「っ!そうじゃない!そうじゃないんだ。死ぬって意味が分からないのか?死んだら、死体以外は何も残らないんだぞ!君の身体だけが目当てだと言ってるようなものじゃないか!」
「えっ、私の身体が目当てなんですか?は、恥ずかしいけど結婚するんだし、、、その、別にいいですよ?」
「なっ!ちゃ、茶化すな!俺は真面目な話をしてるんだ!」
「茶化してませんって、別に身体が好きならそれでいいじゃないですか。だって、私はあなたの顔が真面目に大好きですもん!」
「確かに、、、って俺は身体目当てじゃないからな!」
「え〜、、、」
「何でちょっと残念そうなんだ!」
「そりゃあ、あなたのことが好きだからです。」
「俺の顔が、か?」
「顔も、です。」
「……」
私がそう言うと、彼は黙りこくってそっぽを向いてしまった。顔は見えないけど銀の髪の間から覗く耳が赤くなっている。また怒らせちゃったっぽい。
何でだろ?顔も、っていうのが良くなかったのかな?
そういえば道具屋で話したときも自分の顔に自信なさそうだったし、顔をもっと褒めてあげたほうがよかったかもしれない。
「まあ、顔が1番大好きですけどね!」
「……」
ジトッとした目で見られる。
何で?顔を褒めても、顔以外を褒めてもダメならなんて言えばよかったのさ!
「あのー、言いたい事があるならはっきり言ってください」
「、、、別に、何もない。」
いや、何もないわけないじゃん!
「本当ですか?」
「ああ。」
「私の目を見て言えます?」
「……」
「ねぇねぇ、こっち見てくださいよ」
「あーもう、君はほんとしつこいな!俺にどうして欲しいんだ!」
どうして欲しいって、そんなのずっと言ってるのに。
「結婚して欲しいです!」
「、、、はぁー、何で君と話してるとこんなに疲れるんだ。結婚な、もうそれでいいよ。」
「いいんですか?やったぁ!」
「こんな適当で嬉しいか?」
「そりゃあ、嬉しいですよ!」
これだけずっと結婚したいって言ってるんだから嬉しいに決まってるじゃん。
「、、、ごめん、やっぱり今のは適当すぎたからもうちょっとちゃんとやろう。えーっと、こういう時って何て言うんだ?」
ちょっと申し訳無さそうな顔をしてる。なんだかんだ優しい人だ。やっぱり申し訳ないけ無いけど、「顔"も"好き」になっちゃうなぁ。
「全然ちゃんとしてないじゃないですか。」
とりあえず、照れながら聞いてくれた顔が可愛かったのでからかってみる。
「う、うるさい!しょうがないだろ、結婚するなんて思って無かったし。」
そりゃそうだよね、ごめん。
「そういう時はとりあえず誓いたいと思ったことを誓っとけばいいんですよ。」
「そうなのか?じゃあ、俺が死ぬまで責任を持って彼女を幸せにすること神にを誓います。」
「責任?」
彼は私のわがままに巻き込まれただけだと思うんだけど、、、
「ああ、俺は、俺の不用意な一言で君の人生を奪ってしまった。そのけじめはきちんとつけるつもりだ。」
どうしよう、すっごく真面目だ。そんなところも格好良くて困っちゃうな。
「まあ、本当に死ぬ方もどうかと思うけどな!思い返すと本当に、、、」
「素直でかわいいでしょ?」
「いや、頭がおかしいと思う。」
「ひどい!」
「事実だろ。それで?君は何を誓ってくれるんだ?」
「うーん、じゃあ私は彼が責任なんて感じなくでいいくらい、彼の毎日を賑やかで幸せなものにするって神に誓います。」
愛するとは敢えて誓わないでおく。だって彼は愛するって誓ってないから。
一方通行の愛情は相手を傷つけるだけだもん。だから私も彼とおんなじことを誓う。
でもこれだって立派な本心だ。初めてお店で会ったとき暗い顔をしていた彼が、毎日を笑顔で過ごせますように。
「君、、、これ以上うるさくするつもりか?」
「安心してください!そこはちょうどずつ慣らしてくので!」
「いや、まったく安心できない。」
「なんで!?私、嘘ついたことないのに!」
「そりゃ、この前会ったばっかりだからな」
まあ、そうだよね。流石に、ごまかされてくれないかぁ。
「というかうるさくするのは否定しないんだな。」
「はい!」
彼からはあんまり話してくれなさそうだし、私の方からどんどん絡んでいかないとね!