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第一話 死んだ私に愛の誓いを

「あのっ、好きです!私と結婚してください!」


良く晴れた日の真っ昼間、寂れた田舎村にそんな元気な声が響き渡る。声の主はこの村にたった1つの道具屋を経営する少女リズ。

つまり私だ。

そしてたった今、熱烈な告白を受けているのはフードを深くかぶった怪しげな雰囲気の買い物客だ。名前は知らない。

「、、、」

彼は、商品をカウンターに置きかけた体勢のまま固まっていた。

「沈黙は肯定と受け取っていいでしょうか?いいですよね!」

「良い訳あるか!大体、俺は君と初対面だと思うんだが?」

「奇遇ですね、私もです!」

「はぁ?じゃあ君は初対面の、ただこの店に買い物に来ただけの男に求婚してるのか?」

「はい!」

「何でだよ!いや、やっぱり説明しなくていい。返事はもちろんお断りだ。」

「はい、理由はですね、、、」

「人の話を聞かないな!?」

「ズバリ、顔です。」

「は?」

「あなたの"顔"に一目惚れしました!なので結婚してください。」

「ハッ、ああ、顔、顔ね。そういうことか。」

不意に彼はうつむいて自嘲気味に笑った。

あーあ、うつむいちゃったからフードで顔が見えなくなっちゃった。


次に、顔を上げた時の彼の表情は驚くほど冷たかった。

「馬鹿にするのもいい加減にしろよ。この顔に一目惚れなんかするわけないだろ。」

さっきまでとは違う低い声。

怒らせちゃったみたいだ。でも私はここで引くわけにはいかないのだ。これがきっと、恋が出来る最初で最後のチャンスなんだから!


「いいえ、馬鹿に何かしてません!あなたの顔が好きです!」

「ふんっ、口ではどうだって言えるだろう。俺はお前を信用してないし、何度言われたって返事は変わらない。」

「なるほど!口では信用できないってことは行動で示せばいいんですね。私、あなたと結婚するためだったら何でもしますよ!」

「、、、へぇ?何でもって言ったか?」

「はい!」

「じゃあ、死ね。俺は死体しか愛せないんだ。だからどうしても俺と結婚したいなら今ここで自殺してみろよ。」

「わかりました!」

「どうせ無、、、え?」

何だ、そんなことか。それくらいならお安い御用だ。これからずっと続くだろう苦痛に比べたらなんてことはない。

そう思って、私はカウンターに置いてあった果物ナイフの刃を自分の喉元に向ける。


「は?え?ちょ、ちょっと待て!」

手首を掴まれ、喉元からナイフを引き離される。

「ちょ、何で止めるんですか!死んだら結婚してくれるって言ったじゃないですか!嘘だったんですか?」

「そういう問題じゃない!君は馬鹿なのか!?自分で言ってたじゃないか、俺とは今日会ったばっかりだって!なのに何でっ、何で俺みたいな奴のために死のうとするんだ!」

「あなたの顔が好きだからです。」

もう一度、はっきりと目を見て言う。動揺したのか、彼が腕を掴む力が一瞬弱まった。


その隙に腕を振り払い、止められないようにキョリをとる。と言ってもほんの数メートルだが、2人の間にはカウンターがあるので、彼が乗り越えてここに来るまでには数秒かかる。

「それじゃあ、病める時も、健やかなる時も、あなたが死ぬその日まで、私を愛してくださいね。」

そう言って私はくだものナイフを喉に突き立てた。

一瞬鋭い痛みが走るが、どんどん何も感じなくなっていく。

カウンターの向こうで真っ青になっている彼の顔が私の最後の記憶だ。

1つだけわがままを言うなら最後は笑っていてほしかったな。結局、彼の笑った顔は一度も見られずじまいだ。


こうして私の15年の短い人生は幕を、まだ閉じなかった。



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