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短編~集中系

カップラーメン

作者: 河田 真臣

 吹雪の音が骨の髄まで響いてくる。

 風が唸り声を上げて、山小屋を飲み込むかのようだ。

 窓の外は白い闇が広がり、何も見えない。

 寒さが容赦なく襲いかかり、心まで凍りつきそうだった。


 雪が小屋の窓を叩きつけるように吹き荒れる中、寒さが全身に染み渡っている。

 震える手で、たまたま見つけたカップラーメンに、苦労して湧かした湯を注ぐ。


 3分が永遠のように感じられたが、ようやくフタを開ける時が来た。

 湯気と一緒に広がる香りは、まるで命を吹き込むようだった。


 湯気が立ち上がり、ほんのりとした塩気のある香りが鼻をくすぐる。

 凍えた手でカップラーメンのフタを開けると、立ち上る湯気がまるで命の息吹のように感じられる。


 震える指で箸を持ち、まずはスープを一口すすった。

 その瞬間、身体中に熱が走った。

 温かい液体が喉を通り、体中にじんわりと広がる。まるで凍りついた心臓が解けていくようだ。

 外の猛吹雪が遠のいていくような錯覚を覚える。

 濃厚なスープが喉を温かく滑り降り、冷え切った身体にじんわりと染み渡る。

 吹雪の恐怖が一瞬だけ和らいだ。思わずもう一口、さらにもう一口と、恐怖を忘れるようにスープをすすり続けた。


 次に麺をすする。

 ツルツルとした食感が口の中を満たし、噛むごとにじわっと広がる旨味がたまらない。

 滑らかで弾力のある麺が、熱を持って口の中に広がり、その瞬間、外の荒れ狂う世界が完全に遮断された。

 麺を噛むたびに広がる旨味と温かさが、まるで心の隙間に入り込むようだった。

 恐怖と冷えが消えていく。いや、忘れていくと言ったほうが正しいのかもしれない。


 風が小屋を揺らし、雪が壁を叩きつける音が聞こえる。

 それでも今、このカップラーメンだけが現実だ。

 吹雪の恐怖から逃れるように、無意識に箸を動かし、ラーメンをすする音だけが小屋の中に響く。

 外の凶暴な自然の力を忘れさせる、ひたすらに温かく、心を包み込む一杯。


 最後の一滴まで飲み干したとき、世界が静かに戻ってきたようだった。

 猛吹雪はまだ外で唸りを上げているが、胸の内には、ラーメンの残り香と共に、僅かながらの安堵が広がっていた。

 恐怖は去っていないが、心は満たされている。

 その余韻が身体中に残っている。まだ大丈夫。まだ熱い。生きている。

 

 猛吹雪がこっちにおいでと手招きしている。

 今夜はドアを開けずに済みそうだ。

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 読んでいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言]   面白かったです。  寒さも暖かさも伝わってきました。  ラストの2行が好みです。  ありがとうございました。
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