表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

御伽話をもう一度

作者: Mea

小さい頃、他の人には見えないモノが見えていた。


空気中をふわふわと飛んでいる大きな綿毛。


大人達にくっついている様々な色をした小さなボール。


他の人には見えないらしいそれらについて、私は決して誰にも話さなかった。






そうして、いつも通りの日々を過ごしていたある日。


いつも遊んでいる公園に行くと、見知らぬ男の子がいた。


周りが何人かのグループになって遊ぶ中、その子だけがぽつんと佇んでいて。


あまりに寂しそうに俯いているから、思わず声をかけてしまった。


「一緒に遊ぶ?」


男の子が目を見開いて顔をあげる。


「何で…。」


「ーーー、え?」


今まで私が見てきたそれらはあまりに抽象的で、はっきりとした形を得ないものばかりであったから。


彼もそれらの内の一つであるということに気づくのが遅れてしまったのだ。


「うんっ、何して遊ぶ?」


気づいた時には、嬉しそうな男の子の顔が目の前にあって。


「じゃあーーー。」


後には引けなくなった私は、その日、日が暮れるまで彼と遊んだ。






それから。


何となく彼を放って置けなくなった私は、その公園で何度も彼と遊んだ。


そうして、私は、彼が常にその公園にいること、彼自身は何故そこにいるのか分からないことを知ったのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




他の人には見えないモノと会話して、遊んで。


そういった日々が続けば、周囲が私を気味悪がるのは当然で。


"嘘つき"


私は周囲からそう呼ばれるようになった。






"嘘つき"になった私は、それでも彼に会いに行った。


「ーーくん。遊びに来たよ!」


彼に会いに行く時は、公園に殆ど人が居ないタイミングを狙った。


彼に、"嘘つき"の言葉を聞かれたくなくて。


彼には何も知られたくなくて。




知ってしまったら、彼は、今度こそ本当に、独りでいることを選んでしまうと思ったから。




それなのに、何度も会いに行く内に、彼は私が置かれた状況に気づいてしまったようで。


「ごめんね。もうーー。」


「駄目!」


独りでいることを選ぶ彼を必死で私が引き留める。


それが、私と彼の日常になってしまった。









いつものように彼と遊んでいた時。


「危ないっ!」


彼の言葉に驚くと同時に、私の頭にボールが当たった。


「やべっ!嘘つき女に当たっちまった!逃げろー!」


ボール自体は柔らかいモノで、痛くはなかったけれど。


ボールを持ち主に返そうと立ち上がった瞬間、彼らは脱兎の如く遠くの方へ走っていってしまった。


「あっ。ボール…。」


ボールを持ったままの私は、その場に立ち尽くすしかなくて。


いつも通りの周囲の反応に、不意に涙が零れ落ちた。


悲しいとか、寂しいとか、そんな感情は抱いていなかったのに。





「ごめんね、僕のせいで。」


今にも消えてしまいそうな程、小さな声が後ろから聞こえた。


振り向くと彼は、色々な感情がごちゃ混ぜになったみたいな顔で私を見ていた。


ーーー私は、何も返せなかった。





一瞬の静寂がその場を去った後。


彼はいつも通りの表情をつくって、そっと、私の手を握った。


「2人だけの秘密にしてね。」


それだけ言って、彼は私の手を引いて、一本の木の前に立った。


彼が紡ぐ。


聞いたことのない言葉で、聞いたことのないウタを。


瞬間、目の前の木に花が咲き、風と共に花びらが舞い、私と彼を優しく包み込んだ。


彼はそっと微笑んで、私に告げた。


「少し前に思い出したんだ。僕が何故此処にいるのか。その後、僕はいつでも此処を離れることが出来たんだけど。君と離れるのが惜しくなっちゃった。ーーーごめんね、僕のせいで。」


それから、震える声で彼は続けた。


「忘れないで、ーーーー。」








その日の夜、私は周囲と同じモノしか見えなくなった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




それから数年の月日が流れて。


ーーー今でも時々夢に見る。


私だけが見ることの出来た彼のことを。


小さい子の妄想だったと言われても仕方のない、御伽話のようなこの記憶を。


彼の顔も、彼の声も、彼と過ごした日々すらも、曖昧なものになってしまったのに。






ただ、周囲と同じモノしか見えなくなって。


いつものように行った公園で。


もう、彼のことが見えなくなったのだと、彼とは話せないのだと気づいた瞬間に空いてしまった心の穴が未だに此処に残っていて。


ーーーああ。私は、彼のことが好きだったんだな。


と考える。


何度も何度も考えては、後悔する。


見えなくなる前に、話せなくなる前に、この気持ちに気づいていれば。


彼に"好き"の一言くらい、伝えられたのに。









この夢を見た後は、彼と過ごした公園へと足が向く。


あの日、彼が花を咲かせた木を見に行くのだ。

















いつものように公園に入る。




「珍しい。」


子供が少なくなったこの地域で、この時間に公園に来る人なんていないのに。



しかも、その人はあの木の下に立っている。




人の気配を感じたのか、その人がゆっくりと振り向く。





「ーーーっ。」





















ーーー御伽話は、続いていた。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ