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異世界からの帰り方   作者: たかなしことり
三日目
9/26

魔法使いって努力でなれる


 リズベルはやっぱりね、という顔になった。後ろでマーシェとファラが爆笑している。

 「しょーがねぇよ。」

 「美人だからな。」

 サラは毛筋ほども表情を動かさない。

 「あの、ごめん、俺、てっきり」

 「いつもの事だから。」

 サラは淡々と応じる。

 「この魔法、そんなに頻繁に使えないから、何か言っておくなら今のうちよ。」

「あ、じゃあええと。い、異世界から来た人の話って他に聞いたことないかな?」

「ないわ。」

「異世界に行った人の話も?」

「ないわね。」

「あ・・そうなんだ。じゃあ、ええとこの世界じゃみんな魔法が使える?」

「使える人もいる。みんなじゃないわ。」

「空は飛べない?」

「呪文魔法では、見た事ない。」

「俺も魔法を覚えられる?」

「四、五年修行したら、誰でもちょっとは使えるように&@#☆。」

 魔法が切れた。リズベルの体が沈んだ。

 間一髪、倒れる前にサラが受け止めた。


 木陰に敷かれた毛布の上に横たえられたリズベルに、ハンカチで風を送りながら、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 倒れるほど力を使う魔法だと思わなかった。きっとあっちとこっちで倍のMP使うんだろう。中途半端なんて思って悪かった。この子はこの子で、俺のことを考えてくれてたんだなぁ。

 こんな俺みたいな訳わかんない奴、本当なら放って行ったっておかしくないのに。大体の事情が分かるのだって、リズベルがこうやって時々でも魔法で言葉を通じるようにしてくれるからだ。

 頑張ろう。なんか分かんないけど、頑張ろう。やれる事は何でもやろう。


 リズベルが、身動きした。お、と思っていると、目がパチッと開いた。

 よかった〜。目を覚ました。

 もう結構、日も暮れかかっている。

 まだ顔色は悪いが、しっかりした口調で彼女が何か言った。ファラを呼ぼうとすると、リズベルが手招きして、もう一度同じ言葉をゆっくり言った。

「ジルタールリッフェン?」

 リズベルはうんうんと頷き、指で焚き火の方を示した。伝えて来い、という事だろう。

 急いで焚き火のそばに行って、火の番をしているファラに声を掛ける。

「あのー、ジルタールリッフェン、リズベルが。」

 ファラは目を丸くした後、頷いて笑顔になった。

「ヤ、リズベルエェルフェン!」

 はやっ!そこまで短くなるか。

 ファラが残っていたスープを器によそって、ほい、と渡して来たので、リズベルの所まで持って行った。

 魔法少女は体を起こしてそれをごくごく飲み干した。中の具をナイフで刺して上手に食べる。


 今日は時間がたっぷりあったので、サラが鴨っぽい鳥を、マーシェがウサギっぽい動物をそれぞれ狩って、炙った肉がスープに入っている。うまかった。でも鳥が羽根を毟られたり、ウサギがつるっと皮を剥かれたりするのを見たので、なんかすげぇ複雑な気持ちだった。

 居酒屋でバイトしていたけど、焼き鳥を毎日運んでたけど、その元がどうとかあんま考えたことなかった。

 ピーピー鳴いてる鳥の首を捻って、羽根をむしって、腹を割いて内臓をぶちぶち引き出すとかワイルド過ぎる。

 ただ思ったよりスプラッタではなかった。ウサギもそうだけど、上手く切ると、血はあんまり出ないみたいだ。イカワタ取るみたいにぷりっと取れる。


 「ダルク」

 そう言って、リズベルは器を返してきた。

 「だ、ダルク?」

 うんうんと頷いたので、俺はまたファラに伝える。

 「リズベルが、ダルクって」

 「ヤ。エダルクシコンルテル。」

 いや、分からんて。

 とにかくヒアリングしようと思ったが、かなりの無理ゲーだった。辞書もないし、対訳が分からねぇ。


 でもまぁ、そのうち使い方が分かるかもしれないので、久々ボディバッグから半折にしたマクロ経済のノートとシャーペンを取り出して、言葉を書き留めた。

 ジルタールリッフェン。ダルク。あとなんだっけ。


 ふと見ると、全員俺の手元を覗き込んでいた。あ、シャーペン珍しいのかな。

 注目浴びる中、おもむろにノートに書く。ヤ=OK

 感心したような声が上がる。そういえば、筆記具って羽根ペンとインクしか見てないな。きっとボールペンとかもないんだろうな。もしかして、ここで万年筆とか作って売り出したら、大儲けできるんじゃね?ただ万年筆・・の構造ってどんなだっけ?

 考えながらシャーペンの芯を引っ込めると、またオオーみたいな声が上がる。どーよ。これが文明ってもんだ。俺が作ったわけじゃないけど。


「見る?」

 シャーペンを見せると、早速ファラが手にしてカチカチやり始める。芯がビヨーンと伸びてきたので、慌てて取り返して、芯を引っ込めた。その後、みんな順番にカチカチやっては矯めつ眇めつ芯が出る様子を見て芯を引っ込め、を繰り返して最後にリズベルまでカチカチやった後、やっと全員落ち着いた。

 早口でファラとマーシェが話し、リズベルとアティスは若干興味なさそうに聞いている。サラの方が目を輝かせているのが面白い。

 あ、そーだ。鉛筆だったら手作りでも作れるかも。向こうに帰る前に、試しに作れるかな。


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