表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界からの帰り方   作者: たかなしコとり
三日目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/26

エルフに会う

 かなり高い所から声がした。

 高めの、ちょっと鳥っぽい甲高い声だけど、何言ってるかはわからない。響きがどことなく偉そうだってのだけが分かる。

 声の出所を探すと、少し先に立つ木の枝の上に、葉叢に隠れるように人が立っていた。人・・だと思うけど、雰囲気が微妙だ。


 マーシェとファラが顔を見合わせて、それからアティスに何か言った。

 アティスが声の主に向かって叫び返す。

 返事が返ってくると、マーシェ達はげっそりした表情になった。アティスがもう一度何か言ったが、短く「り!」みたいな声が返ってきただけで、木の上の人影は消えてしまった。


 今度は全員で顔を見合わせて、相談し始める。ファラが辺りを見回して、かぶりを振る。リズベルが肩をすくめる。彼女が何か言うと、マーシェがうーんと唸って、その肩をファラがポンと叩いた。

 話は決まったらしい。


 アティスが馬車から降りて、馬具を馬から外す。ファラは桶を持って、荷台に積んであった樽から水を注いだ。サラは長い髪を三つ編みにした後、もう一度マントを頭から被り直した。

 え。何だ、どーなってんだ。まさかここで野宿?こんな道の真ん中で?


 午後。やや日も傾いている。

 一体何がどうなったのか、俺が途方に暮れていると、リズベルが例の長い詠唱の後、事情を説明してくれた。

「エルフに通せんぼされたの。さっきお昼休憩した所まで引き返すわ。」

 エルフ!さっき木の上にいたの、エルフだったのか。ちょっと、イメージと違う。もっと何というか、ヒトっぽいと思っていた。いや、エルフなんだからそもそもヒトじゃないんだけど。微妙。宇宙人っぽいって言ったら怒られそう。

 「エルフってさっきちらっと見えたと思うけど、森の住人ね。ヒトの言葉を使うけど、融通効かせるとか、話を通すとか無理だから、うまく折り合うしかないの。羊の群れと一緒。」

リズベルの言葉は容赦ない。羊の群れって酷くないか?

 あれ?じゃあサラは?サラはすごくヒトっぽい。普通にイメージするエルフって感じだ。変わった雰囲気があるが、耳が尖っている以外あんまり違和感ない。

 「足、大丈夫なら、歩いてね。あと、こっちの言葉をなるべく覚えてちょうだい。あんまり足手まといじゃ、いざという時置いて行かなきゃならないし。それとサラの耳ちらちら覗くの#&@$」

 魔法の効果が切れると、リズベルは大きく息をついた。やっぱり魔力を結構使うんだろう。


 耳。俺、そんなにサラの耳を見てるかな?確かに尖ってるから、気になるっちゃ気になる。今はフードに覆われて、見えない。

 それにしても今、さらっと怖い事言われたぞ。足手まといなら置いて行くとか。ひでぇ。俺だって役に立ちたいと思ってるし、今だって好きでこの世界に来た訳じゃないし。そもそも足手まといなら、前の町に置いといてもらってもよかったんだ。


 向かっ腹を立てていると、マーシェ達が戻って来た。一抱えほどの草を馬の前に積み上げる。

 馬が草をはみはみしている間、ファラと二人でしばらく相談して、やっぱり戻る事になったらしい。狭い山道で何とか馬車をUターンさせて、元の道を進み始めた。


 俺は馬車の後ろを歩く。俺がむくれているのに気がついて、ファラが不思議そうに俺を見る。説明したいが、どう言っていいのか分からないのが、またムカつく。

 大体リズベルの魔法が中途半端なんだよな。あっちからは何でも言えるのに、こっちの言いたい事は伝えられないって何だよ。俺も魔法を覚えろってか?


 サラが、しばらく進んだ所でマントを脱いだ。あの尖った耳が見える。

 可愛い。めっちゃ無愛想なの差し引いても、サラは美人だし特にこのエルフっぽい耳が超アガる。

 あ、リズベルに見るなって言われたっけ。


 そのサラが、何かしらリズベルに話し掛けた。道はやや下りで、リズベルもアティスも馬車を降りて、馬の轡をマーシェが取っている。

 女子二人でしばらく話し込み、時折ちらっとこちらを見る。何だ。また耳見たとかって怒ってんのかな。

 

 結構下った辺りでさっきの空き地が見えて来た。馬車を入れて、馬を馬車から外してやると、嬉しそうに全身をぶるっと震わせた。

 あー疲れた。何かすごろくで「二つ戻る」が出た気分だ。ていうか、俺は一体何してんだろう。ついて来たのはいいけど、ホントにこれでよかったのかな。今ならまだ、俺が出てきた森に戻れるかもしれない。もしかして、実はそばに帰り口があったかも。

 イヤイヤイヤ、仮にそうだったとしても、あの山犬みたいなオオカミみたいなヤツがいる所に戻るなんて、命がけじゃん。


 ぐるぐる悩んでいるうちに、野営の準備は整っていく。

 なんか手伝った方がいいよな。でも何したらいいんだろ。

 するとまた、ファラに火打ち石を渡された。もう一度やってみろということらしい。カッカッと打ち付けると、火花は飛ぶ。それを何とか枯れ草のかたまりに移そうとするが、難しい。それでも何回も何回もやっているうちに、火がついて燃え始めた。

「やった!」

 思わず声が出て、急いでそれを小枝の山に放り込んだ。


 今回は手を出さずに見ていたサラが、何か唱えながら手を踊るように動かした。なんだろう。

 リズベルが何か言った。それが頭の後ろでこだましたので、びっくりする。それが詠唱に変わると、二重に言葉が聞こえて、気持ち悪くなる。電話をかけた時に時々なるヤツ。あれになると、一回こだまが止むまで会話が止まるけど、リズベルは片耳に指を突っ込んで詠唱を続ける。眉間の皺がすごい。うえぇ。精神力ヤバイ。


 やっと止んだ。

「どう?ヒロキ。何か話せる?」

「え?」

 話すって何を?

 急に言われて、言葉が出ない。

 「しょうがないわね!じゃあさっきの続き。勘違いしてるかもだけど、鼻の下伸ばしてサラ見るの、やめて。サラは男だし。ゲイじゃないし。」

「えっ!えええ!男!男か!マジで?」

声が出た。

リズベルはやっぱりね、という顔になった。後ろでマーシェとファラが爆笑している。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ